今日も彼はいじめられているらしい。拳を握りしめ、噛み締められた歯の間からは、ヒュウヒュと息が漏れている。今にも表面張力を振り切って、眼球から涙が溢れそうだ。

 そんなに理不尽を我慢しなくてもいいのに。

 

 教室にいる仲間の机たちのほとんどが落書きされている。子供たちは、机でさえも遊び道具にする。平気で油性マジックで落書きし、下手な絵を描き、カッターで卑猥な言葉を刻み付ける。

 けど、この子は違った。理不尽を受けているから、理不尽を物にさえ、向けはしないのだ。

 

 が、ついに耐えられなくなったようだ。

 私をえいやっと掴み上げるといじめっ子たちに振り回した。私は目が回ったが、すぐに浮遊感が襲ってきた。

 私は窓ガラスを破って、宙を飛んでいた。

 校庭でひっくり返っている私を、教室の中から、仲間の机たちが気の毒そうに見つめてきても、私はむしろ、清々しかった。

 我慢しなくていいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る