なにもない

 なあ、知ってるか。

 この世には何もないんだぜ。


 ーーそりゃあ、今は違うさ。昼もあれば夜もある。木々も海も、街も、地球も宇宙もある。


 けど、俺は知ってるんだ。

 この世界は黒一色。或いは、白一色かもしれない。

 とにかく、何もないのさ。

 

 俺の言ってることが理解できないなら、ほら、振り返ってみな。

 

 違う違う、首を回しちゃダメだ。見ずに、振り返るんだ。

 どうやるかわからない? コツを覚えれば簡単だよ。俺にもできるんだから。

 やってみれば俺の話がわかるはずだ。


 要するに、誰も見ていない世界には、何も無いんだ。

 誰も見ていない時、世界は休んでいるのさ。

 お前の後ろには何もない。視界の外は『無』だ。

 何もない。

 

 だって、考えてみろ。ずっとモノを描写してたら、世界も疲れちまうだろ。

 誰も見てないところで、世界もサボってるのさ。

 俺たちと同じようにな。

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