僕のジーンズ

 ある日、ジーンズが立った。


 僕の足から離れ、自立したのだ。


 高校生の頃から大事にしてきたジーンズには、色落ちした分だけ思い出が染み込んでいる。


 しかし、ジーンズは僕から逃げ出した。


 ーーなにか悪いことをしたっけ。もしかして、ポケットにティッシュを入れたまま洗ってしまったことを怒っているのかな。

 そう思った僕は、「ごめん、ごめん、悪かった、許して」と大声で謝りながら後を追った。


 辿り着いた先は、海だった。


 僕のジーンズは、日本海の真っ青な海に腰まで、全身を浸かった。


「・・・もしかして、色落ちを気にしてるの?」


 青い海に浸かっても青くはならないよ、と僕が言うと、膝からがっくりと崩れ落ちた。波にたゆたうジーンズは哀しそうだった。


「大丈夫。僕は、長い時間を共にした、君のその色が好きなんだよ」


 ジーンズは恥ずかしそうに布をねじった。

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