第4話

「ねえねえ、おにいちゃん。あそぼー。」

「やだー!おにいちゃんとあそぶのはあたしなのー!!」

「サリーちゃんばっかずるい!!あたしも!!」


 自分の足元に女の子たちが集まり、僕の腕をくいくいとひっぱる。歳は大方3歳から4歳くらいだろう。


「はいはい、みんなで一緒に遊ぼうね。何したいの?」


 僕がそうなだめると、女の子たちは嬉しそうにこう答えた。


「おままごと!!」


 おままごとがあるのはこの世界も共通なのか。女の子たちはせっせと敷物を敷いたり、おもちゃを運んできて用意を始める。

 おもちゃの包丁や鍋、ティーカップなどが並ぶ。

 野菜を模したおもちゃには見慣れた形もあるがところどころなにか見たことないようなものも混じっていた。


「これはなに?」

「これはねー、えっぐふらわー!」


 僕が尋ねると子供たちはにこにこと嬉しそうに教えてくれる。

 この子達いわく、エッグフラワーとはどこにでも自生する食べられる植物のことらしい。

 子どもは誰かに教えることが好きなのだ。僕が二人の妹の面倒をしていて学んだものである。


「とぁー!!キーーーックーー!!」

「あだっ!!………やったな小僧!神に刃向かう恐ろしさ思い知らせてやる!!うぉりゃーー!!」

「わーー!!アマテラスがきたぞーー!!逃げろーーー!!」


 どこからか騒がしい声がするかと思うと、アマテラスは男の子達を追いかけ回している。

 子どもたちがちいさいぶんいくらかアマテラスも大きく見える。

 僕はその後ろ姿を見ていた。

 アマテラスは完全にノリノリで鬼ごっこの鬼をしていた。


 …………かと、思いきや。


「いや、我らは一体何をしているのだ!」


 アマテラスは突然方向を180°変えると、僕の方に歩み寄ってきた。


「おい、ユカ。我らは一体何をしておるのだ!?こんなことしていていいのか!?」

「何?この仕事不満だった?さっきまで楽しそうに追いかけっこしてたくせに。商店街の売り子が良かった?」

「いや、そうじゃなくてな!!!」


 アマテラスは敷物の上に座った僕を仁王立ちで見下ろす。威厳は言っちゃ悪いが天界に見放された女神なのでほとんど感じられなかった。


「我らの目的は魔王を倒すことだろ!!?なのに………なんで人手の足りない子ども預かり所で日働きをしてるのだ!?」

「仕方ないよ。お金ないもん。」


 僕は面倒くさそうにアマテラスに向かって答えた。


 冒険者ギルドに登録してはやくも一週間がたとうとしていた。


 僕の役職は「冒険者」ということになった。

 能力値は知力が少し高いのと、手先の器用さ、あと幸運値が平均をかなり超えていたがそれ以外はほぼ平均的。

 まさに僕の姓である「中半」にピッタリのものだった。


 それで、この数値でなれるのもといったら冒険者くらいしかないということなので冒険者に

 なった。

 冒険者のメリットはどの役職のスキルでも習得することが可能だが、その反面経験値などの優遇がない。つまりスキルをとるのに大量の経験値が必要になるらしい。

 これがあるせいで冒険者は最弱職とも呼ばれているようであった。


 まあ、なれるものがないんだから仕方ない。僕はそう割り切った。


 一方のアマテラスはその横でとんでもない数値を叩き出していた。

 知力と幸運値が低いのを抜けば、どの項目においてもトップクラス。特に魔力の数値が異常なほど飛び出ていたようである。

 さすが一応女神といったところか。


 基本魔術師以外のどの上級職にもつけるようだが、アマテラスはその中でビジョップと呼ばれるものについた。

 どうやら司教のことらしいが、この世界では僧侶ことプリーストがグレードアップするとこの呼び名になるらしい。

 とやかくアマテラスはこうして上級職につけたわけである。


 で、いざクエスト。


 …………というわけにもいかなかった。


 初期の魔法スキルが最初から備わっていたアマテラスはともかく、僕に至ってはなんにもない。

 要は丸腰だ。


 アマテラス自身も本来は攻撃系の魔法ではなく味方に特殊効果を付与したり回復したりする魔法が専門なので初期魔法でもさほど効果は期待できないとのこと。


 ということで、装備を探すため日雇いの仕事をギルドに紹介してもらったというわけだ。これを相談するとギルドはすぐに色々な仕事を紹介してくれた。

 こういう所は結構便利だ。現代日本もこうスムーズにいってくれればいいのに。

 僕の姉ちゃんが散々いいバイト先が見つからず嘆いていたのを見て哀れに思った。


 それで僕が選んだのがこの子ども預かり所の手伝いだった。

 土木工事よりも僕はすぐに散々妹や親戚の子のお守りをさせられていた経験を生かせると思ったのだった。

 結果は僕の思った通りですっかり子どもたちと馴染めていた。ここの院長にも褒められた。


「とりあえず僕の武器を買えるだけのお金貯めないといけないんだよ。初心者用の武器でも結構高いんだからさ。」

「いざとなったら拳があるではないか。拳で。」

「受付の人の話聞いてた?」


 どうやら、あの女性の話いわく今あるクエストのモンスターは打撃攻撃があまり聞かないらしい。拳はもろ打撃になるので得策ではない。


「もちろん分かっておるわ。でもな……ここは魔王のいる場所から1番遠いんだぞ!それなのにこんな悠長にしておられるか!こっちはとっとと魔王を倒して帰りたいんだ!!」


 と、アマテラスは地団駄を踏む。

 それを子供たちが眺めていた。なにか変なものを見るような目で。


「このひとどうしたのー?」

「まおうたおしたいとかいってるよ。へんなのー。」

「わるいことするとまおうにさらわれるってねー、ママがいってた。そいつをたおすの?」


 やはり、この辺りでも魔王というものは恐れられている存在なようである。

 子どもたちの反応からよくわかった。みんなどれも不安げである。


「安心せい、魔王なんぞ我の力でひねり潰してくれるわ!こう見えても我は女神………」

「はい、みんなどの役がいい?」


 後ろでなにかし始めたアマテラスを放っておいて、僕はおままごとを再開することにした。


「あたしがねー、ママになるよ!」

「じゃあ、僕はパパの役すればいい?」

「ううん、お兄ちゃんは、おっとのおにいさんであたしの浮気相手の役。」


 …………………なかなか、すごい役が来た。


「あたしはおっとのおかあさんで、ママをいじめるの。それで、むすこのことが大好きすぎてしかたないの。」

「あたしはその浮気相手をよこどりしようとするママの妹役。」

「…………………………。」


 この子達本当に四歳なんだろうか。そう僕が疑問を持たないわけがないほど中身がどろどろのどろっどろの昼ドラじゃないか。僕の妹がこのくらいの時は少なくともこんなのじゃなかったはずだ。


 しかも今からのシュチュエーションはこの四人でお茶をするとの事らしい。現実だったら猛烈に気まずいというか、心臓が張り詰めそうだ。


 まず、浮気相手という役自体もしたこともな

 い。


「…………っておい!!お主聞いとるのかっ!!」


 苛立ったその声と共に僕は頭を叩かれた。


「痛くはないけど叩くのは良くない。」


 まして、子どもの前でこんなことをするとは。


「聞かないお主が悪いんだ!とにかく我はクエストに行きたいのだ!お金はいくら溜まったんだ?そろそろいいだろう?」


 僕はアマテラスに言われて、今までの取り分を頭の中で計算した。

 計算してみると、たしかにもう武器を買えるところまで来ていた。


「うーん、たしかに買える。」

「ほら買えるのだろ!?ならクエストにいこうではないか。」

「けど剣一本買えるくらいだし、買ったらほとんど手元にお金残らないよ?万が一クエスト失敗したらどうなるの?」


 そう、今の金額では結構ギリギリなのだ。しかも初心者の僕が簡単にモンスターを倒せるとは思いにくい。

 失敗したら討伐費は貰えず所持金がほぼゼロになる。

 そうなった時どうすればいいか僕はさっぱりわからない。今は格安のギルドの宿で寝泊まりしているがその日は食事無しの野宿ということになるのだろうか。


 僕の不安を読み取ったようにアマテラスは腰に手を当てて、仁王立ちで得意げに笑った。


「何を心配しておる!我はかのアマテラスオオミカミだぞ!その辺のモンスターなんかに負けるわけない!それにいざとなったらお布施を集めて…………」

「じゃあ、僕がお茶菓子を持ってきたていで始めるか。それでいい?」


 僕は子どもたちにそう言うと、おままごとを再開した。



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