第3話
僕、中半優香は天界に見放された女神、アマテラスオオミカミを天界に帰すために一緒に半ば強制的に魔王を倒すこととなった。
アマテラスに手を引かれるまま花畑を降りていき、しばらく歩いていくと街が見えてきた。
ちいさな石造りの門と僕の肩くらいの塀で囲まれている小さい街だった。
「ほれ。あれが街だ。弟の言葉が正しければプライマと言う名前らしい。」
アマテラスが街を指さして言った。
塀の先の建物に目を凝らすと、建物はテレビや本なんかで見る中世ヨーロッパ基調のもの。道もアスファルトではなく石畳。
街頭はLEDではなく、日本史の教科書に出てきたガス灯のようなものになっている。もちろん、車などは走っていない。
「わぁ……………。本当に異世界なんだ………。」
悔しながらも、僕の胸の中には新しい街を見つけたというわくわくが湧き出していた。
なにせ、日本で暮らしていればほとんどお目にかかれないようなものが目の前にあるのだ。世界史の教科書の中の世界が広がっている。
石造りの門の下に立っていた門番は快く僕達のことを通してくれて、「ようこそ。最初の街プライマへ。」とも微笑んで声をかけてくれた。
めちゃくちゃいい人だこの人。
笑顔が眩しい。
門を潜り、街の中心部らしきところに僕達はたどり着いた。大きな噴水が美しく水しぶきを巻き上げている。
僕はその辺りを行き交う人々に目をとめた。
普通の僕と変わらない人間や、動物のような耳や角を生やした者。三角形になった耳を持ち、背中に町のような羽を生やしたもの。トカゲのように固い鱗を持ったものなど、ありとあらゆる人種(正しい表現は知らないがこれで伝わると思う)が歩いたり、談笑したりしていた。
「ほうほう。この世界もなかなか面白いもんだな。む?あれはエルフだな!…………おおー!そしてリザードマンか!!」
アマテラスは隣でよくわからない単語を並べてはしゃいでいる。RPGをやっているなら当然のことなんだろうけど。
なんか遊園地に来た子供みたいだった。
そんなアマテラスを横にして、僕はそこに並んでいる店の看板を片っ端から見ていた。
あれは果物屋。リンゴとか僕の知っているものも売っているのだろうか。その隣は………薬草屋?薬屋みたいなものかな。それで次には鍛冶屋が並んでいるのか。たぶん武器を買うならあそこになるな。
うーん、服屋もある。この世界の服ってどんなものなんだろう。
次は…………………。
……………………。
ここまでみてきて、僕は平然とこの世界の文字を認識できるようになっていることに気づいた。
思わずアマテラスに話しかけた。
「………なんか、文字が読めるんですけど……。」
「ああ、そうだった。弟に無理を言って我らに知恵をさずけさせたのだ。感謝しろ。」
アマテラスは腰に手をあててドヤ顔で僕を見上げた。僕よりもさらに背丈は低いので自然とこういう形になる。
いや、お礼を言って崇めるべきはあんたの弟…………アマテラスオオミカミの弟だからスサノヲなのだろうか。
ありがとうございます。スサノヲ様。
日本に帰れたらお参り行きます。お賽銭はずみます。
ドヤ顔のアマテラスを無視して僕は軽く天を仰ぎみた。
「さて、優香。」
アマテラスが僕の服の袖をくいくいと引っ張った。入学時に大きくなるだろうと思い大きめのセーターを買ったが、背は1cmだけしか伸びず行き場をなくし余りまくった布が引き寄せられる。
「さっきも言ったと思うが。魔王を倒すためにはまず役職につかねばならぬ。よくある勇者とか冒険者とかいうやつだ。こういったのはだいたいその街々にある酒場なんかてやってるのが常だ。ということで酒場を探すぞ!!!」
アマテラスはそう言うと、辺りの看板を片っ端から探していった。
しばらく看板を探して歩いていくと、それらしきものが見つかった。
すぐ側に木製の建物も立っていた。
「これかな………下に冒険者ギルドってあるけどこれは何?」
「冒険者たちが集まる場所だ。基本どの町にでも必ずギルドというものがあってな、そこに冒険者として登録してクエストを受けたり情報、報酬を貰ったりするところだ。ゲームによってはセーブポイントだったりもする。」
なるほど、これからだいぶこういうところはお世話になりそうだ。
アマテラスから軽く説明を受けた後、僕達は扉を開けて中に入った。
中は思っていたよりも広く、いくつかの丸テーブルが置かれて、それを囲んで人々が食事をしたり、飲み物を飲んだり、なにやらボードゲームのようなものをしていた。
座っている皆はなにやら鎧のようなものを身につけていた。
僕達が入ってきたことにより、人々がこちらに視線を向けた。
なにやら珍しそうにこちらを眺めている。
「中はなんか西部劇に出てくるやつそのまんまって感じだな……………あとなんか、視線が凄いんだけど。」
「ふむ、この我から溢れ出る神聖な力を感じ取っているのか。これでは女神だってバレるのも時間の問題………」
「そんなわけない。天界から見放されたポンコツ女神。」
僕はスパッとアマテラスを切り捨てると同時に、天井から吊り下げられたひとつのパネルを見つけた。
そのパネルを読むと「冒険者ギルド受け付け」
と書かれていた。
カウンターには黒いボブヘアーの女性がいる。
「受付があるけど…………とりあえずあそこで登録とか出来るのか?どう思う?」
「おい、お主!!さっき我に向かってなんと言った!!こんやろー!!」
「女神のくせに口が悪いよ。で、受付はあそこっぽいけどとりあえず登録すればいいの?僕なんもわかんないんだけど。」
アマテラスの欲求を無視して、僕は話を進める。アマテラスは不満そうだが渋々僕の話に答えた。
「ああ、そうだ。あそこの女に話しかければ登録や最初の支給物、援助。困った時の相談。支援物資や色んな物を得ることが出来るはずだ。あと、ああいうやつで美人なのとは極力仲良くしておいた方がいいぞ?」
「え?何それ?どういうこと?」
「わりかしゲームにおいての美女キャラというのは後々何かしらの重要キャラとなることが多いのが常だ。昔はソードマスターだったり、騎士だったりとな。いざと言う時のためにも関係を持っておいた方がいいだろう。」
僕にとってはまったくよく分からないが、RPGの世界ではわりと普通のことなのだろうか。
とりあえずここはアマテラスに従うことにした。
僕達はさっそく受付に向かった。僕達以外の人は誰もいないのですぐにその女性が対応してくれた。
「いらっしゃいませ。こちら冒険者ギルドサポートカウンターです。今日はどうなさいましたか?」
受付の女性がニッコリと微笑んだ。全体的に控えめだが笑顔が清楚で美しい。
セリフがちょっとカスタマーセンターみたいだが。
「えーと……。冒険者ギルド?に登録したいのですが………ここで出来ますか?」
「はい、冒険者登録ですね。大丈夫ですよ。」
「すみません。田舎から来たばかりで何も知らなくて。」
アマテラスの入れ知恵で、だいたい最初は田舎から来たとか外国から来たとかと、こう言っておけば何とかなるらしい。勝手に向こうがそう思って話を進めてくれるからとのこと。
これは何となく納得できた。
「おふたりですか?その後ろのこ………方も。」
今この人アマテラスのことを子供って言いかけたな。
まあ、気持ちはわからなくもない。
運のいいことに女の人も直ぐに気づいたし、アマテラスも壁の貼り紙を見ていて聞いていなかった。
「あ、はい、そうです。こいつもおねがいします。」
「かしこまりました。ではこちらに手を置いてください。」
そう言って女性はカウンターの下からなにやら輪っかをふたつ取り出した。
輪っかというより、これはバングルか?
さらに追加でなにやら書類のようなものも取り出した。
「これは………」
「分かっているとは思いますが、これを説明するにあたって改めて冒険者の説明をさせていただきますね。冒険者というのは主に街の外などに赴いてモンスターなんかの私たちに害を与えるモノを討伐するのを生業としています。あ、別にそれ以外にもできる仕事はあるので…………どっちかと言えば何でも屋みたいな認識でも構いません。一般的にそれらの総称が冒険者と呼ばれて、細かく分けると役職が沢山あります。」
この役職があるというのは僕でも聞いたことがある。よく言う魔法使いとか剣士とかそういったものを指すのだろう。
「役職はその人の体に秘めた能力によって向き不向きがあります。で、その役職を決めるにあたってまずは自分の能力を知る必要があります。そのために使うのがこちらのバングルになります。こちらは魔法道具となっておりまして、ここにまず自分の名前なんかと保存して自分の能力を読み込ませます。するとこのバングルを使って能力を可視化することが可能になるのです。」
試しに女性が自分の腕につけていたバングルに触れると、青い長方形のホログラムのような物が現れた。
そこには色々なことが書き込まれていた。僕はよくわからないのでとりあえず今は中身はスルーだが、アマテラスは食い入るように見ていた。
女性はホログラムの一番上、彼女の名前に当たるところの横を指さした。
「ここに刻まれているのはレベルですね。そして、その横がこれまでに獲得した経験値というものです。経験値は魔物を倒したりなんかをすることで手に入ります。ある程度経験値が溜まると、レベルが上がって能力の値なんかも変化します。そして、この経験値獲得量の下にある数字。これは今使える経験値量となります。この世界にはスキルというものが存在して、そのスキルを習得することであらゆることが可能となります。そして、そのスキルを習得するにあたってこのような経験値が必要となります。」
女性が細々とホログラムを指差しながら説明してくれた。
なるほど、つまりいわゆるボケモン(このゲームは昔したことがあるので大まかなことは知っている。)なんかが覚える技というものか。
そして、スキルを習得するためには経験値がいるのだと。
「スキルは獲得していくことでどんどん新しいものが解放されたり、役職ごとの初期スキル、人から教えてもらったり、レベルが上がることで取得出来るものもあります。なので経験値を使って好きなように選べるだけ選んでくださいね。」
「はぁ、ほんとうに色々あるんですね……。」
「まあ、ゆっくり慣れていけば大丈夫ですよ。それではこの紙に名前などを記入してください。」
僕は渡された紙にペンで自分の情報を書き込んでいった。
ナカバ ユカ 17歳 162cm…………。
髪色、目の色?これは特徴ということか?黒髪、黒目……。
そういえば文字もかけるようになっていたことにここで気づいたが、言うのはやめておいた。
一通り書き込んだところで、僕は女性に紙を手渡した。アマテラスもちょうど書き終わったようで、一緒に手渡していた。
女性は「ありがとうございます」と、にこやかにバングルと紙を持って奥へ引っ込んでいきしばらくした後に戻ってきた。
「はい、これでまず個人の特徴の書き込みは終わりました。こちらがユカさんの、そしてアマテラスさんのになります。バングルは大事にしてくださいね。一応壊れないようにめちゃくちゃ頑丈には作ってありますが失くすということはたまにあるので。万が一野垂れ死にした時の身分証明書にもなるのでね。」
今この人にこやかにさらりと凄いことを言ったような気がする…………。
まあそうか、魔物と戦うのだから当然死ぬということはあるのだろうな。
野垂れ死んだらその辺の草花の養分になるのだろうか。
草花の養分はいいけど動物に食べられて中身(やんわり表現)がぐちゃぐちゃになるのとかだけはやだな。
「ではいまから能力値の読み込みを行いますね。これと並行して役職を決めます。」
女性はそう言うと、今度はカウンターの下から石版を一枚取り出した。
石版には文字に似たようなものが書き込まれている。
「これで個人の能力を見ることができます。真ん中に手を置いてください。痛みとかは特にないので大丈夫ですよ。」
まるで、僕の気持ちを読み取ったことを女性が言ったので一瞬驚いた。もしかしたら挙動に出ていたのかもしれない。
何だか恥ずかしくなってきた。
「ほれ、何をしておる。さっさと触らんか。後ろがつっかえているんだぞ。」
「わ、わかったよ………。」
つっかえているといっても後ろにはこの天界から見放された女神しかいないのだが。
けど、やはりまだ何かよく分からない緊張が残っている。本来RPGを楽しんでいる人間なら最もワクワクする瞬間なのだろうがあいにく僕はそういった人間ではない。
友達にめちゃくちゃこういうのが好きなやつがいたからなんでこんな僕なんかとちょっと残念である。
僕はすこし間を開けて、ゆっくりとその石版の上に手を置いた。
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