44 旧教会での争奪戦 後編

 おかめのお面の黒ローブの女はレイラの元へ先に辿り着いた。

 秋月は内心舌打ちする。

 おかめのお面の女は警戒しつつ、レイラに触れてようとしたが、火花が散るようにおかめの女の手がバリアによって弾かれた。


 ジュリアがバリアを展開しているのだろう。秋月は背後に視線を向けると、ジュリアが手をレイラに向けていた。

 ジュリアのバリアのお陰で敵はレイラに手を出す事は出来ない。ただ制限時間がある。ジュリアの印の効果が続くのは最大が十分程度で、今現在に置いては残り数分程度であろう。


 秋月はその数分で辿り着けると踏んで速度を上げる。

 おかめの女は向かってくる秋月に気付いており、撃退しようと秋月に手を向けている。手から風魔法が展開し始めていた。

 秋月も魔法を打ち消す為に防御の風魔法を展開する。

 おかめの女は魔法を放つ。秋月にとっては見慣れた中級魔法ウィンドカッターだった。

 ウィンドカッターは中級魔法でもっとも扱いやすく、対処しやすい魔法でもある。秋月はウィンドカッターを防ぐ為に防御魔法を張った。


「なっ」


 しかし、秋月の予想を裏切っておかめの女の放ったウィンドカッターは秋月を通り越していく。

 ウィンドカッターはジュリアへ向かう。

 ジュリアもまさか自身に魔法攻撃を仕掛けてくるとは思いもしなかったのか、驚愕の表情を浮かべている。

 秋月は風魔法を放とうとするが間に合うわけがない。

 風の刃がジュリアの喉元に迫った瞬間、パンッという破裂音が響く。


 ジュリアの首元は繋がっており、五体満足であった。傷一つない。

 ジュリアは荒い呼吸を繰り返していた。彼女の周りには半円の透明な壁が展開されていた。

 おかめの放ったウィンドカッターはジュリアがバリアを展開して消滅したようだ。

 ジュリアは咄嗟に自身にバリアを張ったのだろう。

 ジュリアのバリアは制限があり、印のある場所に一箇所だけしか展開出来ない。つまり、レイラのバリアは解かれている事になる。


 しまったと秋月が思う間もなく、おかめのお面の女はレイラに手を伸ばしていた。


「フレア・ブレット」


 炎の弾丸がおかめの女に襲い掛かった。女はそれを察知して、後ろに飛んだ。

 女がいた場所に炎の弾丸が着弾し、木造の床に焦げ跡がつく。

 赤髪の少女は冷徹な表情を浮かべながらおかめのおんなに向かって、人差し指と中指で作った銃口を向けていた。

 まるで本物の銃を打つように手で作った銃で炎の弾丸をおかめの女目掛けて撃ち込む。おかめの女は軽快な動きでそれを避け、レイラに近づこうとするが、阻止され苛立ちを見せていた。


「フレア・ショット」


 赤髪の少女ーーサラは炎の散弾を撃ち込む。おかめの女は舌打ちしながら、水の障壁を作り上げ防御した。

 炎の散弾はレイラまで被害が及びそうだったが、レイラにはバリアが展開されて炎の散弾の被害は受けずに済んだ。サラもジュリアと連携して魔法を放ったのだろう。


 その隙を狙って秋月はボロボロな長椅子に寝かされたレイラを抱き抱える。そして、撤退する為に森の茂み目指して走り出した。


 秋月がレイラを抱えて走るのを見て、弟子たちも撤退モードへと移行する。

 レイラを抱えて逃走しようとしている秋月に気付いた黒ローブたちはそれを阻止しようと秋月の元へ向かおうとするが、それをアレックスたちが阻む。


 秋月が後衛の元へ辿り着こうとした時だった。

 足がいきなり地面が消失したように沈む。いきなりの状況に秋月は困惑して自身の足元を確認した。

 地面が泥沼に変わっており、秋月の両足はくるぶしまで浸かって前に倒れる。

 レイラをなんとか離さず、自身が下敷きになる形で地面に倒れた。

 レイラは衝撃を受けても目を覚ます様子はなく、なにか魔法か薬か飲まされているのかもしれない。

 口に砂が入るが、なんとか舌は噛まずに済んだ。


 秋月はなんとか泥沼から抜け出すと、レイラを再度持ち上げようとした時、石が秋月の足元に転がってきたのが見えた。その石にはジュリアの印が付けられていた。

 刹那、氷の矢が秋月の顔に目掛けて飛んでくるのが見えた。しかし、氷の矢はバリアによって砕かれる。

 足元に転がってきた石からバリアが展開されていた。ジュリアがフォローしてくれたようだ。


 ドミニクが魔法を放ったのかと思ったが、方向が違う上にイアンの攻撃を防御に努めている状況でこちらに攻撃を放てる隙はないように思えた。

 他の黒ローブたちもアレックスやサラが交戦しており、魔法をこちらに放った様子はない。


 どこだ、と辺りを見渡すが、わからない。

 刹那、氷の矢が何度も秋月に向かって放たれる。


 秋月の目の前で氷の矢が砕けた。ジュリアがバリアを展開してくれているようだ。目前で何度も氷の矢が砕け、地面に氷の欠片が散らばっていく。


 四方八方から氷の矢が秋月を付け狙う。氷の破損音が何度も聞こえるが、秋月に被害は一切無い。

 誰かはわからないがジュリアのバリアがある限り、秋月に氷の矢は効かない。

 またも氷の矢が秋月に向かって放たれる。無駄な事を思っていると、氷の矢は秋月を守るバリアに衝突する前に、急に向きを変えて飛んでいく。

 その氷の矢はジュリアに向かっていた。ジュリアは急な事にバリアの展開を自身に付けられず矢がジュリアの胸元目掛けて突き進む。


 ジュリアは呆然と自身に迫る矢を見つめしか出来なかった。

 油断していた。氷の矢は秋月を執拗に狙っていたので、ジュリアに攻撃対象を変更するとは思いもしなかった。

 いや、普通に考えればわかる事だ。バリアを張れるジュリアが奴らにとってもっとも邪魔な存在だ。真っ先に潰したい存在に決まっている。

 秋月を執拗に狙っていたのも、秋月を狙っていると勘違いさせる為のブラフだったのかもしれない。


 ジュリアのバリアは制限がある。敵から見てもそれは明らかだ。

 展開できるバリアは一つだけで、隙をつくは容易い。勇者のチートに全く及ばない力。

 ドミニクが侮る程度の能力でしかない。


 ジュリアの心臓を正確に狙った氷の矢は目的の物を貫こうとした時だった。

 ソニアがジュリアを突き飛ばした。

 氷の矢はジュリアの肩に被弾し、鮮血を撒き散らしす。

 ジュリアは突き飛ばされた勢いで地面に倒れる。


「ジュリア!」


 秋月は思わず叫んでしまう。

 動揺している間にも第二の氷の矢がジュリアを狙う。

 秋月は風魔法を放とうと考えるが、間に合わない。

 第二の矢が倒れているジュリアを貫こうとした時、氷の矢は透明な壁にぶつかり砕かれる。

 ジュリアはバリアを展開し、身を守ったようだ。


 秋月は安堵する。同時に焦燥感に襲われる。もうジュリアには頼れない。

 秋月の元に転がった印の石は時期に効果が切れる。

 肩に氷の矢が刺さり、血が溢れているジュリアは印の石を作る余裕もないだろう。

 負傷したジュリアはシルヴィアが回復魔法で癒しているので命に別状はないだろうが、こちらに気を配る余裕は無いのは確実だ。


 狐のお面を被った黒ローブが好機と見て秋月の方へと駆けてくる。

 秋月は風魔法を放つが、狐のお面を被った黒ローブは簡単に避ける。

 狐のお面はお返しとばかりに懐からナイフを取り出し、投擲してきた。

 秋月はそれを必死に飛ぶように避ける。どうやらレイラと距離を取らせるのが目的の攻撃だったようだ。

 

 このままではヤバイと頭の中で警鐘が鳴り響く。そして、狐が秋月の元へ迫ろうとした時だった。


 無数の剣が頭上から降り注いできた。

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