16 微かな変化と罪悪感

「レイラ、外へ行かないか」


 花壇に如雨露で水をかけていたレイラに告げた。

 レイラは唐突の秋月の言葉に身体を硬直させる。


「外、ですか」


 瞳は揺らいでいた。不安げな様子で秋月を見つめる。

 一度、外に出たが、やはり彼女にとって外に出る事はハードルが高いのだろう。

 彼女の仮面は目立つ。きっと外に出れば好奇の目に晒されるのは確かであろう。

 どうして彼女は炎を催した仮面を被っているのかわからない。仮面の裏に邪神の証があるのはわかるが、敢えて目立つ仮面を被る必要性があるのだろうか。

 目立つことを嫌うレイラの性格から考えれば、なにか意味があるのだろうが、デリケートな事だけあって聞きづらい。


「ああ、連れて行きたい場所があるんだ。きっと気分転換になる」


 連れて行く場所は決まっている。書斎だ。

 秋月一人だけの力だけでは限界がある。だからこそ、あの子たちの力を借りる。

 いずれレイラと子供たちの交流は考えていた。子供たちの護衛は秋月は勿論であるが、邪神の生まれ変わりのレイラも警護しなければならない。邪神教や勇者たちからレイラを護らなければ秋月が邪神化したレイラに殺される。

 レイラと子供たちの交流は偶然では無く、秋月が無事生還する計画の一つであり、彼女らを利用する形となる。

 利己的な自分に嫌気がするが、それでも秋月が生き残る為に手段など選んでいる状況ではない。


 レイラは俯き、考え込むように沈黙する。きっと葛藤しているのだろう。


「わかり、ました」


 顔をあげたレイラは渋々といった感じに承諾した。瞳には不安の色が見える。彼女としては断りたかったはずだ。それでも承諾してくれたのは秋月が言ったからだ。婚約者で自分に優しくしてくれた存在の秋月だからこそ承諾したのだ。

 それがわかっていながら秋月は誘った。彼女の意思を捻じ曲げ誘導している。最低な行為だ。

 罪悪感はある。それでも、やらなければならない。目的を達成する為にも。



 秋月はメイドに外出する旨を告げる。子供達と会わせる事も事前に彼女に告げておく。

 メイドはいいんですかと尋ねてきたが、秋月は構わないと返答しておいた。

 メイドに連れられて外に出る秋月とレイラ。

 そして、書斎のある例の森へと向かう。

 レイラは森へ向かう中、ずっと視線を地面に落としていた。なるべく人と視線を合わせないようにするかのように。


 森は屋敷から遠くはない。ラングフォード家の管理下であり、当主であるオズワルドが趣味の獣狩りに猟銃片手に入る事がある。秋月としても例の書斎が見つからないか危惧しているが、今の所、そんな報告は無い。


 書斎は一見、ただの古い古屋にしか見えない。父親の書斎は一軒家の中に存在していたものであり、こんな古ぼけた古屋など秋月は見た事が無かった。

 だが、実際、中に入ると秋月が見知った書斎が広がっていた。メイドの話によると古屋自体は元々存在していたという話だ。アーロンを連れて森に入った時、見かけた事は何度かあると告げていた。しかし、中が書斎になっているとは思いもしなかったと驚愕の表情を浮かべていた。精々、ラングフォード家の倉庫くらいにしか思っていなかったらしい。

 実際、古ぼけた古屋から想像出来ない内装の造りだ。綺麗であり、古い外観とは比べものにならない頑丈で新しい材質の木材。こちらでは見た事無い机や椅子。そして、本棚。

 そして、現代では当たり前だが、こちらは存在しない電球。スイッチを入れてもライトがつく事は無いが、それでも違和感の塊だ。


 最初、この書斎に入ったメイドは驚愕と共に訝しむように中を見渡していた。どうしてこんな場所に書斎があるのか。何故、読めない文字で書かれた本ばかりがあるのか。そして、何故こんなにも内装と外装がかけ離れているのか。

 勿論、問い質されたが、正直に答えるわけにもいかないので全てすっとぼけた。だが、秋月自身も何故この古屋の中が父親の書斎になっているのかは理解出来ていない。

 一縷の望みをかけて、秋月の世界とこの異世界が繋がったのではないかと長時間書斎の中で待ったり、手紙を置いたりしたが、結局、秋月の家族が入ったり、手紙を読まれた形跡は無かった。



 書斎へ到着し、中に入ると既に何人か子供たちが待っていた。それぞれ自習をしており、相変わらずの勤勉さだ。

 秋月の存在に気付くと挨拶をしてくるので秋月も返しておく。それから、子供たちは秋月の背後の存在に気付く。好奇の眼差しを向けるものの、秋月が居る手前、話しかけるという事は無かった。

 しばらくして、仕事を終えた子供たちが書斎へと入ってくる。仕事の都合上、全員では無いが、殆ど集まっている。

 秋月やメイドに挨拶をした後、当然ながら知らない存在であるレイラに視線が集まる。レイラは誰とも顔を合わせないように俯いていた。


「師匠、紹介したい人ってその人ですか?」


 メイドを通じて先に紹介したい人が居る事を伝えていた。

 当然、この書斎に入った時点で見た事が無いレイラがその人である事は明白であった。

 代表するようにリーダーであるアレックスが秋月に問いかけてくる。


「ああ、東の国からやってきた。名前はレイラ・神無月。偶にここに来ることもあるから仲良くして欲しい」


 アレックスの問いに秋月はそう答える。

 自身に集まる視線にレイラは緊張した面持ちで会釈をする。不安なのか炎の催した半分の仮面を軽く触っていた。

 子供たちの視線はレイラに集中していた。特に異質な炎を催した半分の仮面が気になっているようだ。


「えっと、いいんですか?」


 イアンはそう秋月の顔を伺ってくる。以前、秋月がここの事は秘密にするように言ったのでその事を言っているのだろう。


「ああ、彼女は構わない」


 秋月のその言葉に子供たちは騒つく。

 小さな声で彼女が秋月とどういった関係なのか話しているのが聞こえてくる。

 いきなり連れてきた見慣れない和服を着て、不気味な炎を催した仮面を被っている彼女を一応尊敬しているアーロンが受け入れているのだ。何かしら勘ぐっても仕方ないと言える。

 レイラも先程からずっと注目されて針の筵状態である。コミュ障である彼女にとって居心地が悪いのは間違い無い。

 特に皆が気になるのは半分の仮面だろう。何故仮面を被っているのか、どうして半分だけなのか。

 この仮面に触れるという事はレイラの自尊心を傷つける事になる。だが、どうしても好奇の目がある以上、説明する必要性があるだろう。


「彼女の仮面が気になるのだろうが」


 秋月は意を決してレイラの地雷に触れる。当然ながら、レイラの表情は強張っており、動揺するように眼の焦点が定まっていない。


「ある事情により、仮面を付けざるおえない。あまり注目することはないようして欲しい」


 そう子どもたちにお願いする。正直、レイラの居ない時に言うべきか迷った。だが、何も言わない方が逆に彼女にとってストレスになるのではないかと秋月は思ったのだ。

 レイラだって仮面の存在が目立つ事くらいわかっている。なのに、そこに子どもたちが一切触れないとなるときっと疑問に思うはずだ。例え秋月の口止めに気付いたとしても、もやもやした気持ちは晴れないだろう。それなら、いっそこの場で仮面に、正確には仮面の下に触れるなと言った方が抑止力になると思ったのだ。特に女子はそういう気遣いには敏感だ。無神経な男子の視線から庇ってくれると期待しての発言である。これが正しいか、正しくないかは秋月も分からない。賭けである。


「サラ、シルヴィア、仲良くしてあげて欲しい」


 いきなり声をかけられたサラとシルヴィアは困惑の表情を浮かべていた。

 秋月も最初から誰と仲良くさせるか考えてはいた。

 このグループは基本リーダーはアレックスである。だが、女子を纏めるのはサラだ。年齢的に年長であるからという理由もあるのだろうが、活発でコミュ力が高いのが主な要因であろう。ギルドに勤めたいと思っているだけあって面倒見は悪くはない。

 だから、最初に仲良くさせるべき相手はサラに決めていた。彼女に任せれば上手くいくだろうと秋月は考えていた。


「……」


 しかし、サラは秋月が思っていたような反応をしなかった。いつもなら快く受け入れてくれるのだが、何か動揺しているように見える。レイラと秋月の方を交互に見て、それから視線を落としている。


「サラ?」


 様子のおかしい彼女に秋月は怪訝に思いつつも催促するように呼び掛ける。


「え、あ、はい。仲良く、ですね。了解でーす」


 秋月の呼び掛けに戸惑った様子のサラだが、すぐにいつもの調子で返事を返してくれた。

 安堵する。まさかサラがレイラを嫌っているのではないかと危惧したが、そうでも無さそうだ。


「うん、頼む」


 秋月はそうサラに笑い掛ける。しかし、サラは答えず秋月とは目を合わせようとしなかった。

 なにかサラの様子がおかしい。シルヴィアも心配そうに「サラ」と小さく言うがサラは応える事は無かった。

 サラの様子に怪訝に思いつつも授業の準備として本棚へ行こうとした時だった。

 紫髪の少女とすれ違う。彼女は秋月を軽蔑するような目で見ていた。


 ジュリア。最初の時に居なかった少女。秋月の最初の授業にも居らず、途中から合流した少女だ。

 大人びた少女でよく子供たちの面倒を見ている。女子の表のリーダーがサラならば、彼女は裏のリーダー的存在だ。表立って指示を出したりする事は無いが、頼りにされているのは確かである。


「酷な事するのね」


「え?」


 ジュリアはすれ違う際、そう冷たく言い放った。

 これまで彼女にはずっと避けられていたので話しかけられた事に驚いた。


「あの仮面の娘とどういう関係なのかは知らないけれど、もう少しサラの気持ちも考えてあげたら?」


 どういう意味だとジュリアの方を見るが、ジュリアは秋月を無視してサラの所へ向かう。

 結局、意味深な事を言って煙に巻くのは相変わらずだ。以前にも秋月を知っているような口ぶりをして明確な事を言わずに逃げられた。秋月は少しだけ腹が立つ。やはり、あの少女は苦手だ。


 ジュリアはサラとなにやら話している。会話している合間にこちらに視線が向いてくるのが分かった。一瞬、サラと目が合う事もあったがすぐに逸らされる。なんだか居心地が悪かった。

 その後、ジュリアはレイラの元へ行き会話をしている。秋月は意外だと思った。

 多くの子供たちは秋月が過小評価してもアーロンを少なからず信頼している。だが、中には警戒の色を見せている子たちもいる。その一人がジュリアだ。ジュリアは表立って秋月と敵対するわけではないが、秋月とはなるべく関わらないように距離を置いている。秋月のやることに対して邪魔する事は無いが、積極的に関わる事もなく静観しているように見える。

 そんな彼女だからか、レイラに対して一切の関係を持たないと思っていただけに自ら話しかけるのは意外だった。


「……」


 ふと、隣に白髪の少年が立っている事に気付く。

 サイモンはレイラをじっと見つめており、その目は深刻な瞳をしていた。

 両手には六神の聖書が握られている。




 秋月はレイラの紹介を終えて、軽く授業を行い、その日は解散した。

 レイラも緊張で疲れたのかすぐに自室へ戻り、休息に入った。正直、秋月もベッドに倒れ込みたい気分ではあったが、やる事はまだあるので疲労と戦いながら本を捲る。


「失敗だったか」


「何がです?」


 秋月は本を読みながらそう呟いた。独り言のような問いかけにメイドはそう尋ねる。


「レイラを連れていった事だ」


 レイラは始終困惑している様子だった。子供たちもどう接していいのか困っているように見えた。

 秋月も懸け橋になるように努めたが、思うように上手くいっているように見えなかった。サラはどこかぎこちなかったし、ジュリアは秋月の発言に対して一々棘のある言い方で突っかかってきた。メイドが協力してお陰でなんとか険悪な空気は免れたが、あまりいい成果が残せたとは言えない形で終わった。


「そんな事ないと思いますよ。レイラ様もきっと喜んでいたと思います」


 しかし、メイドは秋月の後悔を否定するようにそう告げた。


「俺にはそうは見えなかったが」


 何れは合わせる必要はあった。子供たちにレイラを守らせる為にも必要な事だからだ。交流し、親睦を深めれば、レイラが危機に瀕した時、秋月に言われるわけでもなくレイラを守ろうとするはずだ。そういった打算的な考えを持っている事に秋月は若干の罪悪感と嫌悪感を覚えるものの割り切るしかない。

 しかし、彼女と子供たちの様子を見る限り、事を急ぎ過ぎた気がしてならない。

 ギクシャクした空気を肌で感じ息苦しかった。


「レイラ様はあまり人との交流が得意ではない方ですから、そう見えたかもしれませんが、アーロン様にあの子たちを紹介してもらって嬉しかったと思いますよ」


 メイドは妙に自信あり気な様子でそう秋月に笑いかける。

 レイラがコミュ障なのは秋月も十分承知の上だ。同時にレイラは仮面の裏に爆弾を抱えている。レイラは絶対にそれを知られたくないし、それを知った相手から拒絶される事をもっとも恐れている。だからこそ、人との交流を避けている。

 そんな彼女を子供たちの元へ連れていった事は、本当に正しかったのか。


「だといいがな」


 秋月はそう言いながらも妙な胸騒ぎがしてならなかった。



 書斎にまた集まる事になり、秋月はレイラに書斎に行くか尋ねた。

 彼女は秋月の問いに戸惑った表情を浮かべ、そして、視線を落とした。

 やはり、子供たちに会わせたのは時期尚早だったかと自身の行いを後悔する。

 しばらく期間を置いて、また誘う事にしようと思った時、


「行きます」


 そう顔を上げて言った。その表情は不安で一杯だった。

 無理しているのがありありと分かった。

 本当に大丈夫かと聞きたいが聞いてもきっと大丈夫と答えるだろう。それくらいに意志は固そうだった。

 本来ならやっぱり辞めておこうと秋月の方が気を遣うべき所なのだろうが、秋月は自身の目的を優先する為に敢えて何も言わなかった。彼女が本当は行きたくはないと知っている癖にだ。


 書斎に集まり、秋月はいつものように授業を始める。そして、授業が終わり、団欒し始めた。

 未だにレイラと子供たちの距離は縮まらない。いつもは率先して馴染もうとするサラも若干レイラとは距離が出来ている。今回はジュリアが居ない所為で特にレイラが浮いているのが顕著だ。

 一応、レイラの周りに集まっているが、少し微妙に距離を置いているのがレイラと子供たちの心の距離を表している。


「えっと、レイラ様は貴族なんですか?」


 秋月に任されている以上、サラも何もしないわけにはいかないのかそうレイラに尋ねた。


「い、いえ、貴族では」


 レイラの扱いは難しい。本当の身分は皇族である。だが、それはレイラの国の話である上にレイラは左の仮面の裏の邪神の証の所為で身分を隠しているはずだ。


「ふーん、じゃあ、あたしたちと同じ平民? ってわけではないですよね?」


 サラはレイラの全身を見てそう言った。平民にしては衣装が高級である。


「そう、ですね。私の故郷では……武家、という扱い、いえ、この国では貴族と同じになりますね」


 レイラは答えに窮し、悩んだ末にそう答えた。

 自身の本当の身分である皇族を明かすわけにもいかず、平民と答えても明らかに嘘と見破られるだろう。結果的にそう答えるしかなかった。


「あっ」


 周りに居た誰かが呟いた。その後に「やっぱり」という言葉が続くのは子供たちの顔を見れば分かる。

 レイラの服装や身綺麗さを見て平民とかけ離れているのは明白だ。異様な仮面を除き、レイラは麗しい和風お嬢様にしか見えない。


「……」


 子供たちの好奇心が少し収まり、一瞬の静寂と共に距離が開いた。拭い去れない貴族と平民との壁が彼女たちの前に立ちはだかる。


「じゃ、じゃあ、そのレイラ様は……先生とどういう関係なんですか?」


 サラは少し焦った様子でそう尋ねた。何故、いきなり秋月との関係を聞いてくるのか秋月も戸惑う。


「えっ」


 困惑するようにそう声を上げるレイラ。そして、ゆっくりと秋月の方を見てくる。何故、こちらを見るのか。何かあると言っているようなものだ。おまけに上気している顔がただならぬ関係である事を匂わしている。

 秋月は事前にレイラには婚約している事は内緒にしたいと告げていた。


「アーロン様とは……家同士の付き合いがあり、その、こちらへ来た際に親しくさせてもらっています」


 上気した顔を俯かせてそう言うレイラ。


「そう、なんですね」


 サラは笑顔だが、その笑みは引きつっているように見えた。

 会話が途絶える。

 子供たちも物怖じしているのかレイラから視線を逸らす。貴族に対しての引け目があるのだろう。

 やはりうまくいなかないのかと秋月は諦念に至りそうになった。

 その時、


「サラ様は、いえ、皆様はアーロン様とはいつからの付き合いなのですか?」


 引きつった笑みを湛えてそう問いかける。緊張しているのか若干上擦った声だった。


「えっ?」


 サラはまさかレイラから質問されるとは思わなかったのか戸惑いそう聞き返していた。

 秋月も同じ気持ちだった。


「もっと……もっと皆様の事を、知りたいです。教えて頂いても構いませんか?」


 レイラは震える声でそう言った。痛々しさすら感じる程の精一杯の声だった。

 唐突過ぎるし、重すぎる。

 子供たちは狼狽していた。

 レイラが自分たち平民の事を知りたがっている事に驚いているのかもしれない。貴族のレイラが下手に出てこちらをおっかなびっくりで話しかけてくる事に困惑しているのかもしれない。


 だが、秋月は違う意味で戸惑っていた。

 あのコミュ障で受け身体質のレイラが自ら相手に興味を持とうとしたのだ。秋月のように自己啓発()に触発されたわけでもなく、自ら行動を起こしたのだ。


「師匠と出会ったのはごく最近ですよ」


 皆が戸惑う中、そう言ったのはリーダーであるアレックスだった。

 レイラは自分で尋ねておいて驚いた顔を浮かべていた。返答して貰えるとは思っていなかったのかもしれない。


「そう、だったのですね」


 動揺しつつも何とかそう返答するレイラ。


「ええ、あの人はいきなり僕たちを呼び出してーー」


 レイラはアレックスの話を真剣に聞いている。他の子供たちも話し始め、レイラは必死に、真剣に話を聞いて拙いながらもリアクションをしていた。


 聞き手に回る。

 どんな誉め言葉にも惑わされない人間でも、自分の話に心を奪われた聞き手には惑わされる。

 ジャック・ウッドフォードの名言であり、至言である。

 レイラは知らずにやっているのか、それとも、何かに気付いたのか。


 なにはともあれ、レイラの必死な傾聴は実を結び、彼らとの壁は徐々に崩れ始めていた。



 数日が過ぎた頃、書斎ではレイラはジュリアとサラの助けもあってか女子たちで楽しそうに雑談していた。

 秋月やメイドのフォローもいらなくなり、レイラは少しずつだがこの書斎に馴染み始めている。


 レイラは彼女たちと笑顔で手を振り離れ始める。もう帰る時間だから、別れの挨拶でもしたのだろう。レイラはこちらへとやってくる。

 その際、レイラは秋月の存在に気付くと、嬉しそうに笑みを湛えてこちらへ近づいてきた。


 秋月はそんなレイラの好意に罪悪感を覚える。

 本来の秋月は優しいわけでも気がきくわけでもない。

 ただ自身の目的の為に彼女を利用しているだけに過ぎないのだ。

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