14 わくわく
レイラ・神無月はラングフォード家に慣れる為に一時的に住み込む事になった。
秋月にとっては最悪の状況と言える。彼女がこちらへ住み込むのはもう少し先のはずだ。何の因果か展開はずれてしまっている。秋月は一応注意を払ってラングフォード家に対して変化をもたらした記憶は無い。
アーロンの評判は相変わらず生意気で無能の存在のままだ。変わったとすれば妹のアシュリーとの関係だろうか。本来のアーロンならば彼女と交流を持つ事など無かったはずだ。しかし、それがレイラの登場を早める因果に繋がるとは思えない。オズワルドの態度はあまり変わらないように感じる。そこそこに無関心。教育を受けさせているが期待はしていない。
では、やはり、オズワルドに影響を与えることの出来るただ一人の人物、黒幕エドワードが秋月の動向に気づいたのだろうか。秋月としても彼の思考は読めない。例え、黒幕で目的を知っていたとしても彼の心内は理解出来ない。
悩んでも仕方ない。どんなに展開が違うと喚いたところで何かが変わるわけでも無い。今は観察と第三の目的を達成する事に集中しよう。
レイラの評判は良くは無かった。挨拶はするものの無表情で何を考えているかわからない。しかも、左顔を覆う白い仮面は彼女の不気味さを際立たせていた。元々、嫌われ者のアーロンの婚約者であるという枷を背負っているのに関わらずあの無愛想さは輪をかけて周囲の顰蹙を買っていた。
レイラ・神無月、お前もアーロンのようになんて駄目な奴なんだ。秋月は目を覆いたくなった。おまけに予想通りアシュリーはレイラを嫌っているようでレイラが挨拶をしても威圧するように睨んで無視をしていた。
更には秋月の危惧していたレイラの秘密である六神から追い出された邪神の生まれ変わりなのではないかという噂が流れ始める。
隠し切れるものでは無いとは思っていたが、やはり、無理だったか。
そりゃあ、誰もがあの仮面の裏について気になるはずだ。邪推してもおかしくない。またそれが真実であれば余計に広まる。あの仮面を一度も外さずいる事など不可能であろう。
どこかで使用人たちが見たに違いない。そして、東洋には邪神の生まれ変わりがいる。その肌は黒く爛れ、血のような紅く獣のように鋭い瞳を持つ。
噂好きの人間が居ればその噂をどこかで聞きつけているはずだ。そうなれば、必然として彼女が邪神の生まれ変わりだという事が知れ渡る。ただでさえ評判が悪い中で追い討ちをかけるような状況だ。
ラングフォード家に嫁ぐからこそ表立って嫌がらせなどは無いにしろ、陰口は言われているのは間違い無いだろう。そんなレイラに近づく変わり者などいるはずもなく、住み込んで早々に彼女は孤立し始めた。
アーロン以上に針の筵であるレイラに秋月は相当焦っていた。彼女のストレスはかなりのものであろう。このままでは間違いなく邪神化は進行し、あの記憶が現実になりうる。それだけは何としても阻止しなければならない。
頭を悩ましながら自室でうろうろしていたが悩みは消えることはなく息苦しさが増すだけだった。重苦しい溜息をついた後、秋月はこのまま自室に居ても気が滅入るだけだと思い、気分転換に外に出る事にした。
秋月は死にそうな顔で外に出る。いっそ、メイドに頼んで街に出かけようかとも思ったが、偶然にも庭園に桃色の着物が目に入る。
レイラ・神無月が庭園に一人佇んでいた。ラングフォード家の庭園は見栄っ張りのオズワルドらしく華やかであった。色とりどりの花が花壇に植えてあり、また青々茂った木々が芸術品のように刈られている。
若干の湿気が混じった風が頬を撫でる。レイラの黒髪が靡く。彼女の右顔は感情の色は無く、無機質だった。整った容貌だからか氷のように冷たくそれでいて儚げで美しかった。華やかな庭園に佇む桃色の着物を着た彼女。絵になるとはこの事を言うのかもしれないと秋月は見惚れていた。もし、仮面の裏に彼女の生き方を否定した醜い証が無ければもっと違う生き方があったであろう。皆に容姿を称賛されて愛された人生があったであろう。その時はきっとこのような美しさは存在しなかったかもしれない。
秋月は正気を取り戻すように首を振る。彼女の境遇には同情する。だが、秋月も自身の運命に抗う事に精一杯だ。悪いとは思いながらも自分の目的を優先させてもらう。
レイラの無表情に秋月は足が竦む。こんな子供相手にも自尊心が傷つくのを恐れているのか。尊大な自尊心に苛立ちを覚える。コミュ障は伊達ではない。そもそもなんて話しかければいいのか。なんでも良いのはわかっている。ここの暮らしはどうか? だろうか。いや、どう見ても悪いのは分かっている。不快にさせるのは確実だ。では、なんて話しかければいい? わからない。やはり、今日はやめておくか。そうだな。やめておいた方が……。違う。そうじゃないだろう。秋月は小さく呟きながら歩き出す。「5・4・3・2・1」俯きながら、彼女の元へ行く。
「今日は暖かいな」
秋月は桃色の着物の後ろ姿に声をかける。
「っ」
びくっと身体を震わせてこちらに振り返る。いつも無表情だった顔が驚いたのか目が見開いていた。そんな様子に秋月は珍しいと感想と共に人間的な感情を持ち合わせている事に安堵した。
「何をしていたんだ?」
暖かいですねという返答を期待していた秋月は無言で動揺したまま固まった彼女に焦りそう問いかけた。
しかし、返事は返ってくる事はなく気まずい沈黙が流れる。
秋月は違う話題を必死に探すも思い浮かばず沈黙が場を支配する。
「花を……花を見ていました」
話しかけるといつもこうだよなと過去の黒歴史を思い出して慚死したくなっていると、遅い返答が返ってきた。
彼女のすぐ傍には花壇が広がっており、様々な花が植えられている。
「花か。好きなのか?」
秋月は花壇を眺めながら彼女に問いかける。
「……はい」
レイラも秋月の視線と同じく花壇に目を向けてそう答えた。
花について何も知らない秋月は何を話したらいいかわからない。焦りだけが頭の中でグルグルと回転するだけで良い返答が浮かばない。
「綺麗だな」
月並みな言葉を吐くしかなかった。
「はい、花は綺麗です」
レイラは憂いに満ちた顔でそう答えた。花はという部分に彼女の闇を感じた。
そういうつもりで言ったわけでは無かったが、意図せず彼女の傷口に抉る形になったのかもしれない。
言わなければ良かったと後悔する秋月。
結局、それ以降は話が続かず秋月はタイミングを見て彼女の元を去った。
秋月は高級な椅子の背もたれに体重を乗せてダラけながら天井を見上げる。
先程の出来事がフラッシュバックする。まずいなと自覚する秋月。冷や汗が出ているのが自分でも判る程に焦っていた。
レイラ・神無月と全く仲良くなれていない事は明白だ。むしろ、地雷を踏んだまである。
秋月もコミュ力が無いので悪い事を自覚してはいるが、同時にレイラ・神無月も同じくらい駄目ではある。秋月の発言を勝手に悪いように解釈してる時点でお察しだ。コミュ障万歳。婚約者同士仲良く破滅の道へ突っ込んでいるので全く笑えない。
「どうかしたんですか?」
秋月はいつもと違いやる気無く死にそうな顔でダラけているので流石に放って置けなくなったのか尋ねてくるメイド。
「人と仲良くなる方法がわからない」
顔だけメイドの方に向けてそう答えた。メイドは秋月の珈琲でも用意しているのかポットを両手に持ち、カップに珈琲を注いでいた。
「……あー」
メイドは注ぎ終えると秋月の顔を見て納得したように頷いていた。
「なに納得した顔をしている。なんだ、何か言いたい事があるなら言えばいい」
秋月はダラけた体勢から起き上がり、そう詰問する。秋月は何が言いたいのか全くわからない。しかし、返答次第では秋月にも考えがある。
「いえ、まぁ、漸く自覚したんだなぁと」
ポットを置いて腕を組んで神妙に頷く。
「わかった。今から始めるぞ。今日は眠れるとは思うなよ」
秋月はテーブルに置いていた本を引ったくり立ち上がった。
「すみません、嘘です! てか、言い方! 誤解を招くような言い方やめてください! 誰かに聞かれたら首になります!」
メイドは焦った様子でそう言っていたが、秋月は逃す気は一切無く、部屋に拘束して永遠に本のを内容を聞かせた。
書斎にて秋月は椅子に座り考え込んでいた。結局、答えを見つける事が出来ず、途方に暮れていた。
仕事や用が無い子供達は自主的に書斎に集まり勉学に励んでいる。秋月は正直すごいと思う。何度か秋月の世界の形式で秋月が教壇に立ち話を聞かせる授業を行った。秋月のプランとしては彼らが秋月の用意した授業プログラムを通して勇者たちが現れるまでの間である程度知識を学ばせ、魔法や剣術を習得させて秋月のボディーガードとして育成する予定だった。しかし、秋月の想定に反して彼らの知識欲は凄まじく授業日でも無いにも関わらず、こうして書斎に集まり何かしら知識や教養を身につけようと努力している。
いくら成長マインドセットを説いたとはいえ、そんな簡単に身に付くならば現代では勉強に熱心な学生で溢れ返っている事であろう。マインドはそう簡単に変わらない。一時的なドーパミンの放出でモチベーションが跳ね上がる事はあっても、無意識下で成長マインドセットを維持する事は競争社会で生きてきた人間には難しいものだ。秋月も未だ硬直マインドセットに囚われている節はある。精神的な事であるから明確な変化はわかりづらい。判るとすれば、習慣の変化であろう。意識が変われば行動が変わり、行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば信念が変化する。習慣によって形作られた信念は揺るぎないアイデンティティ(人格)となる。我々、現代人が法律や科学を盲信するように、アイデンティティは自身を縛る鎖となり、また道筋となる。
彼らが成長マインドセットをアイデンティティに刻み込んだ時、どんな苦難にも立ち向かう事が出来るであろう。成功体験が積み重なる程に信念は深まり、強大な壁が苦にならず、むしろ快感となりてドーパミンが放出されてモチベーションが上がる。そんな化物みたいな存在が今、ここに、この書斎に居る事に秋月は若干の恐怖を覚える。
「先生、どうすれば人間関係を円滑にできるんですかね?」
恐怖に慄いていると、赤髪の少女がいつの間にか秋月の前にやってきてそう尋ねてきた。彼女の後ろには影のように茶髪の少女もこちらを見上げている。
赤髪の少女ーーサラ・カナスタシアは人懐っこい少女である。好奇心が旺盛でこうしてよく質問を唐突にぶつけてくる。秋月からしたらたまったものではないが、一応、教える立場としては答えないわけにはいかないので必死に知恵を絞って回答していた。瞳を輝かせている彼女の後ろにはおずおずとした様子でくっついている茶髪の少女ーーシルヴィアが居た。秋月が視線を向けるとびくっと身体を震わせて動揺する。シルヴィア・バックスは大人しい少女であり、コミュ障の秋月としては親近感が湧く。性格的には対照的な彼女たちだが、仲が良いのかよくつるんでいた。
「っ」
冷や汗を掻く秋月。今まさにそれで困っているというのに。ピンポイントを攻めてくるとは狙っているのかと思える程だ。
冷静を装うように引きつった笑みを浮かべて、
「急にどうした?」
「一応、将来、ギルドで働きたいと思ってるんで、そういう人間関係とかについて知りたいなぁと思って」
夢についての事だからか若干の照れがあるようで視線を逸らしながら言う。しかし、こちらをチラリと寄越してくる瞳には期待がこれでもかと籠もっていた。純粋な上目遣いは卑怯と言って良いだろう。
「そうか」
腕を組み、悩みを抱える弟子の相談に乗ってやる理想の師匠ーーのフリをしながら秋月は絶望していた。
非常に焦り困惑している秋月。コミュ障の秋月にそんな質問されても困るのだ。意識高い系の秋月は人間関係において失敗済みであり、失敗については言えるが成功については大したことは言えない。
「先生ならきっとすっごいコツとか知ってるんですよね?」
期待に満ちた目で秋月を見上げるサラ。瞳にキラキラと星が輝いている。
「……ふっ」
鼻で笑い余裕を見せる。特に意味は無く、少女たちの手前格好つけているだけである。コツなど知るはずもない。内心、顔が引きつっており、泣きそう。
「……」
サラの影に隠れていたシルヴィアも期待に満ちた眼でこちらを見てくる。やめて下さい。気持ちは良く判る。シルヴィアのような内気な少女にとってはとても気になる事であろう。
どうにか、どうにか誤魔化さなければならない。それっぽい事を話して煙に巻かなければならない。必死に乏しい知恵を絞る秋月。
「前にも話したが、人にはそれぞれ虚像ーー価値観、世界観を持っている」
人差し指を上に指しながら話し始める。
「わくわく」
サラはそう期待したように言う。口に出さんで良い。プレッシャーになるんだよ。ちょっと可愛いけど。
「それらに則って人は目的を形成する」
真剣な顔で彼女たちは秋月の話を聞く。もっと気楽で良いのに。
「人は目的を達成する事で愉楽し、目的を阻まれる事で不満を抱く」
アドラー心理学において、人は目的が先にあり、感情は目的の為の道具に他ならない。欲求が先にあり、続いて虚像ーー価値観、世界観があり、そこから目的が形成され、そして、感情を道具として目的を達成しようとする。怒りっぽい人間は自分の目的を達成する為に怒りを道具として活用し慣れきった人間である。習慣化されている為に無意識化で自身の目的を阻害されそうになると怒りを道具に他者をコントロールしようとするのだ。
「つまり、相手の虚像を理解し、目的を把握する事で相手を知ることが出来る。相手のレンズを通して見る、もしくは相手の立場になって考える」
相手の虚像ーー価値観、世界観を理解しなければ相手の感情を理解する事など出来ない。人間は同じ脳を持っていながら何故それぞれ違うのか。遺伝子の違いもあるだろうが、圧倒的な違いは価値観と世界観である。年齢が違えば同じ世界に居ながらも考え方も変わる。若者は若者の見方しか出来ず、老人は老人の見方しか出来ない。男は男の見方しか出来ず、女は女の見方しか出来ない。親が子に勉強しなさいと強要するがうまくいった試しが無いのは子が親の後悔を経験していないからである。人間は即時的欲求に抗う事は限りなく難しい。ゲーム、漫画、異性、友人、流行、最新デバイスといった即時的欲求を満たしてくれる存在に抗う事は人生経験が足りない彼らには不可能である。強烈な後悔を抱えた親はそんなレンズの違いを理解せずに喚き散らすが効果があるはずがない。
「例えば、俺がサラの虚像を理解しようとする場合、サラが将来ギルドに勤めたいと思っている事を頭に入れて、サラは女の子である事、今勤めている所はパン屋で朝が早いという事を理解しておかなければならない。あと、シルヴィアと仲がいいということもな」
「っ」
秋月はそう説明する。サラはコクコクと頷く。シルヴィアはいきなり名前を呼ばれ驚き、少し照れた様子だった。
「その上でサラの今の目的は何かを考える。本人が言っていたが、ギルドに働く際のコミュニケーション能力について俺に聞きたい、それが今のサラの目的だ」
目的には優先順位が存在し、虚像ーー価値観、世界観によってどの目的が上位に来るかが決まる。朝、学校へ行く目的がある場合、どんなにゲームがやりたくても我慢して登校する事が出来るのは、学生は学校へ行くという虚像を信じ込み、学校に行かなければならないという強固な思い込みが優先順位を上げている為である。もし、これが行っても行かなくても良いならばゲームをしたいという誘惑に勝てず学校に行かずゲームをしてしまう。
だからこそ、本人の目的を見極めるには絶対的に虚像を理解しなければならない。
「なるほど、つまり、相手の虚像を理解して、目的が何かを見極めることが重要なんですね」
「そうだ」
秋月は言い終えてほっとする。サラも納得したように頷いている。
もういいだろう。もう納得したようだし、このまま退散しよう。
「わくわく」
キラキラした眼差しで見つめてくるサラ。まだあるんですよね? と言いたげな瞳である。
秋月は冷や汗を掻く。もうあるわけないだろう。必死に絞り出したのだ。限界を超えている。
視線を逸らしてシルヴィアを見る。彼女は満足しているだろう。コミュ障の仲間である彼女には一応誤魔化せたはずだ。
シルヴィアも視線が合い戸惑った様子だが、すぐに秋月に視線を返してきて期待に満ちた目で見てくる。
どうやら逃げ場が無いようだ。いや、自分で言うのも何であるが秋月にしては納得いくような話を出来た気がしたはずだ。なのに、何が足りないというのだ。秋月は若干の不満を抱きつつも純粋な期待の眼差しに、
「きょ、今日はここまで。また今度な」
逃げるという選択肢を選んだ。
「えー……」
不服そうなサラ。ふくれっ面をつついてやりたい気持ちを押し殺す。
「サラ、そろそろ時間だし仕方ないよ」
書斎を解放しているとはいえ、いつもまでもというわけにはいかないので時間は決めてある。周りの子供たちも帰り支度をしている。秋月に挨拶をしたいのかチラチラとこちらを見つめている視線がいくつか飛んでくる。そうした視線に気づいたのかシルヴィアはそう気遣う。ナイス、シルヴィア。可愛い、愛してる。
「うーん、わかりました」
納得していないのかぶー垂れた様子のサラ。少しはシルヴィアを見習え。
兎にも角にも助かったと秋月は安堵する。
「次はもっと教えてくださいね、先生」
サラは切り替えるように笑顔になって秋月を追い詰めてくる。
「そう、だな」
冷や汗を垂らしながらも引きつった笑みを返す。
今夜は徹夜だなと憂鬱になりながらも、子供たちが帰宅する際の挨拶に返事をしていく。
子供達が帰った後、余裕ぶった姿をかなぐり捨てて本棚を漁る。その姿は客観的に見れば某青狸を思い起こさせるくらいに本を手当たり次第に探していた。なんかないのか、クソ、なんで俺がこんな事をしなければならないんだよと悪態を吐きながらコミュニケーションについての本を手に取ってパラパラと捲っては放り投げる。これといった納得いくような本がなかなか見つけられない。
そんな時、扉が開く音が聞こえた。誰だ? 誰か子供が戻ってきたのか? と視線を向けるが、扉が開かれた先には黒いメイド服を纏った女が立っていた。オマケに顔は若干不機嫌そうな膨れっ面だ。関心を失った秋月はそのまま持っていた本を捲る作業に戻る。
「アーロン様、どこに居るかと思えばやっぱりここでしたか。もう帰りますよ。夕食の時間に間に合いません」
予想通りの発言をしてきて秋月は内心うんざりしながらも無視して別の本を探す。
「アーロン様!」
自身を無視された事に腹を立てたのか、それとも反応しない秋月に痺れを切らしたのかメイドは大声で秋月を呼びかける。
「……っ」
思うように本を見つける事が出来ない事と邪魔される事への苛立ちから、うるさいなと文句を言おうとした時だった。
緑の表紙の本が棚から落ちてくる。メイドはいきなり落ちてきた本にビクついていたが、秋月は無視してその本を拾い上げる。
「これは」
秋月は表紙をじっくり見て呟く。かなり前に読んだ本である。古典的な本。
「アーロン様?」
秋月の様子に怪訝そうな顔で問い掛けるメイドを無視して秋月はじっと緑の本を見つめた。
ランプに照らされた部屋。秋月は書斎から持って帰った緑の本を読んでいた。
人間関係の自己啓発本としては古典であり、原点に近いと言える本だ。内容は当たり前のことが書いてある。誰もが知っていて誰もが分かっている事が書かれている。だが、だからこそ、価値がある本。どんな事もテクニックはあれど、基本を理解していなければ意味が無い。それが書かれた本である。秋月は基本に立ち返る為に本を読み込んだ。
参考文献:嫌われる勇気
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