03 目標を立てることは大切です
メイドに部屋に案内されてベッドに強引に横にされると今日は大人しくしてくださいと割と真剣に忠告を受ける。メイドはしばらく監視の目を向けていたが、仕事があるからか大人しくしていて下さいね。なにかあったら呼んでくださいと後ろ髪を引かれる感じで出て行った。
当然、秋月はそんな忠告を無視してベッドから抜け出すと鏡の前に来る。
鏡を見て秋月は思う。容姿的にはどう見てもアニメのアーロンには見えない。どこから見ても八代秋月の幼少期そのものだった。
普通、こういう転生物はその人物の精神に乗り移るものだと思っていたので意外だった。
アーロンはなんだかんだ言いながらもエドワードやアシュリーの兄弟なだけあってそれなりに容姿は整っていたのだ。言ってしまえばアーロンの唯一良いところがその容姿の良さだったのに、その良さを一切生かさないスタイル。秋月の容姿は良くも悪くも普通である。こんな感じの冴えない男いるよねといった感じである。そんな容姿とアーロンという黒幕の弟にして小悪党というポジション。オマケに最後には婚約者に殺される運命。どうしてこうなった。秋月は頭を抱えたくなる。
ともかく悲観してても仕方ない。
秋月は三つの目標を立てることにした。
その一、兎にも角にも死なない。
これは大前提だ。死ぬのだけはどうにか避けなければならない。
アーロンは噛ませ犬なので数年後にチート勇者共や仮面の男、邪神の婚約者に勝てるとは到底思えない。
そこで思いついたのが、優秀なボディーガードを雇えば良くね? 作戦だ。
しかし、一つ問題がある。優秀なボディーガードってどうやって雇えばいいのかわからない。誰かに相談しようにも真相を話せばお前頭おかしいんじゃね? と相手にされないのが目に見えている。黒幕のエドワードに頼るのは怖すぎて論外だし、父親はとてもじゃないが難しいだろう。アニミズムの印象ではエドワードは可愛がられていたが、アーロンは政治の道具としか思っていない節があった。だからこそ、レイラとの婚約を決めたのだから。アシュリーは先程の反応を見てもアーロンを嫌っているようにしか見えない。
とりあえず保留にすることにしよう。
その二、元の世界に戻る。
こんな状況下で自分でもよく覚えていたと称賛したくなる。秋月がこの世界に来たことを思い出す。教室に居た時に地面が光り出したのだ。その刹那、秋月はあの父親の書斎に居た。外はここアニミズムの世界が広がっていた。
つまりはあの教室に居た他の生徒もこの世界に飛ばされた可能性がある。一番可能性が高いのがまだ飛ばされていないが、数年後、こちらに飛んでくるというものだ。アニミズムはクラス転移物だ。だから、クラス転移に選ばれたのは秋月のクラスである可能性が高い。なによりあの記憶が物語っている。あの記憶はきっと未来の記憶だ。そして、その場に居たのは秋月のよく知るクラスメイトたちだった。何故、秋月だけアーロンの代わりをやっているのか分からないが。
だが、確かなのは数年後、秋月の世界とこの世界が繋がるという事。その時、世界を繋げる召喚士を見つけて頼み込んで元の世界に戻る。
その三、婚約者であるレイラ・神無月に優しくする。優しくするなんて大袈裟だが、普通に婚約者扱いする。
でないと、邪神化して殺される可能性大だからだ。
とりあえずこの三つの目標を指針にして行動しようと秋月は決意するのであった。
特に一つ目は絶対達成しなければならない。秋月は柄にもなく「よし、頑張るぞ」と口に出す。
そこで気付くのだ。背後の存在に。
満面の笑みを浮かべたメイドが立っているのが鏡に写っていた。
秋月は冷や汗を掻きながら振り返る。
「では、まず大人しくベッドで寝る事から頑張りましょうね」
優しくそう言ってくるメイドに秋月は鳥肌が立ち素直に頷くほかなかった。
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