第2話開幕Ⅱ

 私の産まれた国アレハインド王国は、産まれた子供が五歳と十歳の時に魔力検定なるものを行うの。


 元々この世界に魔法と言うものは存在していなかった。いえ、正確にはその技能が備わっていなかったわ。


 それが世界の変革と言うか、旧世界の生命の流入と言う形で統合され、結果としてこちらの人間にも影響を与えてしまったの。


 その後、魔法と言うものが確立されてからと言うもの、世界は変化したわ。その才能の発掘を早期に行うことで魔法の使い手が、貧しさに埋もれてしまう事が無いよう保護と育成に力を入れるようになっていったの。


 何故そんなことを知っているのかって?

 それを語るには、一言では語り尽くせないのだけど……。



 端的に言うと、私が転生者だってことね。

 そしてそう。ここは、私が何度か転生を繰り返している世界。『エターナルハインド』だったの。


 今回違ったことといったら、私が前世で足を踏み入れたことの無い大陸であったと言うこと。


 前世は、大抵東側の大陸とか、南方諸島と言った所で主に活動していましたからね。



 ある意味、この大陸この王国での人生は、未知の領域だわ。



 さて、魔力検定の結果だけど、私の持つ魔力は『闇』よ。

 この世界には、光・闇・炎・水・風・土・聖の七つが存在するわ。

 光と聖は、性質が近しく同一視する意見もあるけど、厳密には違うの。

 光でも瘴気を打ち払うことは出来るけど、聖属性とは次元の意味で違いが現れるの。


 詳しくは語らないけど、出現した瘴気を消せるのが光で、元から根絶するのが聖。


 闇は、元々持つものが少なくて瘴気にも似たような性質をも保有するから、はっきり言って世間的な人気は無いわ。

『闇』と言う力の負の性質上、それに囚われ人格を歪めるものが多いのもその一因でしょうね。


 だから『闇』と、解ったときの周囲の落胆は凄まじいものだったわ。


「ファルファーレンの家の者が『闇』持ちだとは……!」

「……『闇』か……『闇』ではな…………」


 沢山の中傷の言葉が囁かれ私の心は、前世の闇持ちであった記憶が蘇って『!?』と、心にズキッと突き刺さるような痛みが走り、瞳に涙が溢れてしまったわ。


 前世に於いて『闇属性』持ちであることは、悲惨な末路しか無かったから。

 属性検定で、闇属性であることが知られると、大抵殺されてしまうの。

 それまで優しかった人達に、家族に……殴られ、刺され、斬られ、或いは山の奥深くに放置される。

 殺されなくても、家の地下に閉じ込められとして扱われる事が多い。

 その結果、餓死する結末を迎えるのだ。

 そんなが重なり、今まで優しかった家族が掌返しで態度を豹変させるのでは?……と、あの時は恐怖に震えたわ。


 だけど唯一の救いは、肉親であるファルファーレン公爵一家の面々は『闇』持ちである私に、それほど気にした風を持たなかったこと。


「だって、アディーの回りの空気は何時もキラキラして綺麗だよ?」

「魔力は『闇』かもしれないけど、とっても綺麗な闇だって事でしょう?」


 二人の兄たちに、私の魔力が『闇』だと気持ち悪くないのか聞いたときに返された答え。今でも泣きたくなるぐらい嬉しくて仕方がないわ。


 屋敷の使用人達も、私が『闇』持ちと解っても、以前と変わらず接してくれるの。

 今でも思うわ。何ていい人達なんだろうって。


 七歳の頃、病弱がちだった母を流行り病いで亡くしたけど、家族はその悲しみを乗り越えて概ね幸せな幼小期を過ご事が出来たわ。

 そして、十歳。二度目の魔力検定の後に招かれた王宮での王太子誕生祝賀パーティー。


 五才年上の兄をパートナーに、国王並びに王妃、王太子と祝いの言葉を捧げ挨拶を済ませる。

 お父様に伴われて、国の重役や大貴族の当主、次期当主達と談話をしていたの。そんな時よ。国王付きの従者に呼び出され、お父様と共に王族の控えの間に通されたの。


「一体何のお呼び出しでしょうか?」


 不安げにお父様に尋ねる私を余所に、お父様はどこか余裕の表情と、僅かばかりの緊張を浮かばせていたわ。


「……さて、何だろうな?」


 わたくしは僅かに微笑むその顔に、首を傾げることしか出来なかったけれど……きっと、お父様には何か予見が有ったのでしょうね。

 余裕の表情なのは、予見があるから。

 でも、本当に何かしら?悪いことじゃなければいいんですけれど……。


 通された部屋。お父様と二人ソファに腰を落ち着けて国王陛下の到着を待つと、程なくして国王夫妻と王太子ベルナード様は現れました。


 サラサラとした金の髪と上質なエメラルドを思わせる澄んだ緑の瞳が美しいベルナード王太子殿下。

 視線が合った。私はカーテーシで挨拶をするけど、僅かに手が震えてしまう。この時は、心臓もバクバクと煩くて、顔も熱く感じていたの。


「待たせたな」

「……いえ、それほどでも。それで、わざわざ別室を用意しての話とは、一体何でしょうか……?」


「…………あー、それなんだかな。その…アデレード嬢の事なんだが……」


 歯切れの悪い言葉で国王陛下がわたくしの名を口にのせました。わたくしはお父様の方を見ましたが、動揺の素振りは見られません。ですが、状況のわからないわたくしは不安の気持ちで一杯です。


「アデレードですか?」


「率直に言おう。実は、ベルナードの妃にアデレード嬢を貰い受けたいのだ」


 予め予想していたのでしょうね。お父様の様子は表面上驚いた呈を表していたけど、実際に動揺など無さ気でしたもの。


「…………本人が、それを望むなら」


 お父様は、基本的にわたくしに甘い。

 お母様に似た面差し、漆黒の艶やかな緩く波打つ髪は夜の闇よりも濃く、青色の瞳は上質のサファイヤをも越える輝きを放つ……とは、お父様の親バカな賛辞だとは思うけれど。

 お母様が流行り病で他界した三年前からはそれが特に顕著で、時々遣りすぎでは?と思うぐらい娘に甘々なの。


 ベルナード・ルド・アレハインド王太子。

 初めて出会ったのは五才頃だったかしら?

 上級貴族の子弟のみが集められた懇親会のようなもので、恐らく王子の取り巻き……将来の側近候補を選定する様な機会だったのでしょうね。

 金色の癖の無いサラサラした髪と、緑の瞳が煌めく美少年。屈託無く笑うその姿に、幼い私は恋をした。

 それから幾度か、王妃主催のお茶会(子連れ可)やら、パーティー等で会話を交わす機会が割りと多かっのよね。

 その辺は、お父様が宰相になったから必然的に近かったと言うのも有るのでしょうけど……。


 恋心もそこそこ育ち、それなりの年頃の娘として王子に熱をあげていたのも事実だわ。


 そんな私に、否やを言う理由など無いでしょう?


「ベルナード殿下が望んでくださるなら……至らぬわたくしでは有りますが、喜んでお受けしたいです」

「こちらこそよろしく。アデレード嬢きっと君を幸せにするから、僕の妃になってね」


 にっこりと笑ったその顔は輝いて見えて、私は彼の差し出した手を取り「はい、喜んで」そう答えたの。




 それから直ぐに私たちの婚約は、定められ公表されたわ。






 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 卒業パーティーの日、仲の良い貴族令嬢達と談笑を交わしていたところ、その方は現れたわ。


「アデレード嬢」


 突然声をかけてきたのは、第一騎士団団長の子息、ロラン様でした。


「なんですの?」


 普段、話す機会も言葉を交わす間柄でもないが、彼は王子の取り巻き……将来の側近の一人でもある。

 ここ数ヵ月で取り立てて近しくなった者のようで、私には面識の薄い方でした。


 妃教育を受けたり王太子の公式行事代行もこなし忙しくしていたアデレードにとっては、ただ単に話す機会が無かっただけだ。


「実は、王太子殿下からお話が在るようで、前方へお越しください」


 ………………え?何か、嫌な予感がするんですけど???





 話は、冒頭に戻る。

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