LV1.5 〈最おし〉のためならば、何が何でも〈現場〉にゆく
イヴェンター分類論
第45イヴェ ライヴの開催が可能な施設の規模と様々なタイプのイヴェンター
十二月中旬のとある土曜日の早朝の事である。
まだ真っ暗な空の下、独り、京都駅の八条口でバスから下車した秋人は、深夜行の高速バスの中で掛布代わりに使用していたグランド・コートのフードを被って、冷たい師走の京都の寒風を妨げようとしたのであった。
それでも、寒さに耐えきれなかった秋人は、腹ごなしも兼ねて、エアコンの温風で凍えた身体を温めようと、高速バス専用のバス停の前にあった、うどん屋の店内に駆け込んだのであった。
時刻は未だ七時前、イヴェントの開始は夕方なので、まだまだ時間がある。
そこで、秋人は、京都駅からバスに乗って、嵐山で観光をする事にしたのであった。
本来、〈おし活〉目的の遠征の際には、観光をしない事もある秋人も、夜行バスでの移動のおかげで、時間的余裕がある時には観光だってする。それが京都ならばなおさらだ。
秋人の今回の京都の〈おし活〉は、京都のホールで催されるアニメ・ソングのフェスティヴァルであった。
その会場は、京都駅の北東、京都駅からバスに乗って約二十分から三十分、およそ五キロメートルの所に位置している平安神宮、この神社に近接している「ロームシアター京都」である。
このホールの正式名称は「京都会館」で、一九六〇年に開館した、半世紀を越える伝統ある会場である。その座席数は二〇〇五人、これは京都府で最大規模だ。だが、この施設は、老朽化を理由に、二〇一二年三月に一時的に閉鎖された。その後、改築・改修がなされ、京都会館は、二〇一六年一月にリニューアル・オープンされ、これを機に、「ロームシアター京都」と命名されたのである。
嵐山行のバスの中で、こうした施設情報をタブレットで読みながら、最近わりと頻繁に通うようになった「渋谷公会堂」に似ているな、という印象を秋人は抱いた。
渋谷公会堂も、一九六四年に開館した、収容人数一九五六人のホールなのだが、二〇一五年に一時的に閉館し、二〇一九年十月にリニューアル・オープンし、その際に、「LINE CUBE SIBUYA」と命名されたのである。
渋谷公会堂も京都会館も、収容人数二千人級のホールで、一九五〇年代に開館した老舗の施設だったのだが、老朽化を理由とした閉館の後、リニューアルの際に命名権を売って、ちょっと小洒落た横文字の名称になったのだ。
さらに、秋人は、最近足を運んだ、幾つかのコンサート・ホールの最大主要人数を調べるべく検索をかけてみた。
渋公がキャパ一九五六人、サンプラザが二二二二人、できたばかりの立川が二四四八人、そして今回の京都が二〇〇五人、どの会場も同規模なのだ。
思うに、政府のガイドラインである、観客数、つまり、キャパシティーの五〇パーセント以下を守った上で、ライヴを開催するためには、二〇〇〇人のクラスの会場が必要という事なのかもしれない。
データを見ながら、秋人は、こんな風に考えていた。
今回のイヴェントの内容である〈アニソン・フェス〉とは、同じイヴェントに複数のアーティストが参加し、それぞれが数曲を披露し、バトンを繋いでゆくというものである。
リニューアルされた後の「ロームシアター京都」では、二〇一八年以来、毎年、晩秋か初冬に、二日に渡る〈アニソン・フェス〉が催されている。
しかし、感染症のパンデミックのせいで、今年の開催は危ぶまれていたのだが、結局、二日間・三公演のライヴが実施される事になった。
そして、その今回のイヴェントに、秋人の〈准最おし〉の〈A・SYUCA〉と、〈最おし〉の〈真城綾乃(ましろ・あやの)〉が出演することになったため、彼は、京都の来訪を決意した次第なのである。
「なあ、フユ、京都のフェス、お前も来る?」
秋人は、一応、弟・冬人にも声を掛けてみる事にした。
「シューニー、僕、今回は止めとくよ。たしかに、好きな演者も出演するのは確かだけれど、今回のイヴェントって〈フェス〉でしょ。
例えば、〈CI〉ちゃんとか、〈LiONa〉さんのワンマンならば行くかもだけど、わずか数曲のために遠征するのは、やっぱ、ちょっと考えちゃうよ」
こう言って、冬人は秋人に断りを入れてきたのであった。
秋人は思った。
まあ、こういう点が、どういったタイプのイヴェンターかの分水嶺なんだよな、と。
例えば、リリイヴェであろうが、ワンマンであろうが、一時間くらいで移動可能な、いわゆる〈地元〉で行われるイヴェントにしか来ないヲタクがいる。
その一方で、〈おし〉ているアーティストのワンマンならば、地元以外にも〈遠征〉するイヴェンターもいる。
また、逆に、フェスならば、色んなアーティストが観られる、という理由から、フェスにしか遠征しない、こう言ってよいのならば、〈フェス系・DD〉のイヴェンターもいる。
そして、ある演者が一人で沢山の曲を歌うワンマンであろうとも、一人の演者の持ち曲数が少ないフェスや対バンであろうとも、一人で数曲しか歌わない、そのようなリリイヴェや学園祭であろうとも、それが、〈最おし〉が出演する〈現場〉であるのならば、イヴェントの種類や規模など無関係に、たとえ歌う曲が一曲であろうとも、何処であろうとも必ず足を運ぶ、そのような〈ガチ〉のイヴェンターも、少数ながら存在しているのだ。
そして、〈ガチ勢〉が、唯一一人の演者しか〈おし〉ていない場合、そういったイヴェンターこそを〈単おし〉と呼ぶだ。
秋人は、ワンマンのみならず、イヴェント内容がミニ・ライヴであろうとも遠征する〈ガチ勢〉であるのは確かなのだが、遠征する程の〈おし〉が、実は一人ではないので、自分を〈単おしのイヴェンター〉と呼ぶのは、さすがに憚れる。
今回のフェスには、秋人が遠征を厭わない、〈最おし〉と〈准最おし〉が出演し、さらに、感染症のパンデミック以降の二人の〈初現場〉でもあるので、彼にとっては、実においしいイヴェントだった次第なのだ。
〈参考資料〉
〈WEB〉
「ロームシアター京都について」、『ロームシアター京都』、二〇二〇年十二月二十七日閲覧。
「施設案内」、『LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)』、二〇二〇年十二月二十七日閲覧。
「施設案内」、『中野サンプラザオフィシャルサイト』、二〇二〇年十二月二十七日閲覧。
「ホール概要」、『立川ステージガーデン』、二〇二〇年十二月二十七日閲覧。
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