僕らのイヴェンター見聞録LV1・2
隠井 迅
LV1.0 プロローグ:あれからもう三年か……
第01イヴェ アニソンシンガーが歌うアニメ・ソング論・序説
「序説」(BS:ブレイン・ストーミング)
一 アニメ・ソングとアニメ・ミュージック
〈アニソン〉とは、〈アニメ・ソング〉の略語で、今やアニソンという語は、一般的な認知を獲得しているのではなかろうか。
本論考では先ず、アニソンの定義付けと考察範囲の限定から始める事にしたい。
アニソンとは、アニメ作品における〈オープニング(OP)〉となっているテーマ曲、および〈エンディング(ED)〉のテーマ曲、さらには、作中で流れる挿入歌を指す事にする。ちなみに、挿入曲を横文字にした場合、〈インサーティド・ソング〉になるのだが、映画の場合とは違って、アニソン関連曲を表わす際には、挿入曲を横文字で表現する事は多くはない。
とまれかくまれ、本論考では、OP、ED、挿入曲までを考察対象にするのだが、ここでは、〈キャラクター・ソング〉、いわゆる〈キャラソン〉までは含めない。
キャラソンは、物語の作中人物達のイメージ・ソングの事なのだが、時として、キャラソンはアニメ作品の物語内容から逸脱している場合もあり、アニメからの派生であるにもかかわらず、アニメ本編にとっては二次創作的な、いわば、サイド・ストーリー的な位置付けになっているケースも多いからである。
ちなみに、アニメ・ソングに対して〈アニメ・ミュージック〉という語もある。
アニメ・ミュージックとは、アニメに関わる音楽全体を包括する上位概念だ。
つまり、OP、ED、挿入歌には、歌の無い、楽器のみの曲もあり得るからで、歌無しの曲を、アニメ・〈ソング〉と呼ぶのは字義にそぐわず、アニメ・ミュージックと表わすのが最適なのだ。
しかしながら、本論考において論者は、アニメ作品のテーマ曲を歌う歌手を題材に取り上げたい、と考えているので、なるほどたしかに、〈歌〉以外のアニメ・ミュージックが興味深い対象であるのは間違いないとしても、ここでは、歌を伴わないアニメ・ミュージックもまた、キャラソン同様に本論考の考察対象からは外し、アニソンのみをコーパスとしたい。
二 タイアップとアニソンについて
アニソンについて考える時、アニソンを歌っているのは誰か、という問題が浮上する。
というのも、アニソンは、邦楽一般のレコードやCDの販売促進として利用される場合もあるからだ。
はたして、こういったケースをアニソンと捉えてよいのであろうか?
たしかに、曲の雰囲気や歌詞の内容がアニメの内容と合ってさえいれば、邦楽一般の中にもアニソンは存在する、という意見に異論を差し挟む余地はないかもしれない。しかし残念ながら、アニメとは無関係の単なる〈タイアップ〉以外の何物でも無い曲が少なくはない、というのが実情なのだ。
そのような、アニメの物語内容と全く合っていない、プロモーション目的のタイアップの曲は、本論考における考察の対象にはし難い。
アニソンの前提は、あくまでも、アニメ本編の物語内容に合っている点だからだ。
三 声優、声優アーティストとアニソンシンガー
つまり、アニメ本編の物語内容と密接度の高い、真の意味でのアニソンを歌っている歌い手とは、声優、声優アーティスト、そして、アニソンシンガー、という事になる。
アニソン好きの論者は、かつて知人から「アニソンって、声優以外も歌っているの?」と訊かれた事がある。
もしかしたら、これが、アニソンの歌い手に関する一般的な認識なのかもしれない。
しかし、結論から先に述べてしまうと、アニソンを歌っているのは〈声優〉だけではないのだ。
声優が、自分が主要登場人物を担当しているアニメ作品のOPやED、あるいは挿入歌を歌っているのは、実に自然な状況なので、論者の知人の意見にも妥当性があるのは確かだ。
しかし実を言うと、声優がアニメ・ソングを歌っているにもかかわらず、自身が作品に全く携わっていなかったり、仮にアニメに関わっていたとしても、主要人物の声を担当してはいない場合もあるのだ。
このように、アニメ作品それ自体と関りが無い、あるいは、関わりが薄い声優が、純粋に歌い手として、つまり、アーティスト活動の一環としてアニメ・ソングを歌っている場合、こうした歌い手は、特に〈声優アーティスト〉と呼ばれているのである。
これに対して、〈アニソンシンガー〉とは、アニソンを担当してはいるものの、声優を生業とはしていない歌手の事を指す。翻ってみると、そのリリース曲が、アニメ・ソングがメインである歌手こそが、アニソンシンガーなのだ。ちなみに、曲をリリースしても、全ての曲が、必ずしもアニメに携わっている分けではない事も、ここに言い添えておくとしよう。
ここで、ようやく考察対象について言明したい。
本論考において扱いたいのは、アニメ・ソングを歌っている歌い手の中でも、声優でも声優アーティストでもなく、〈アニソンシンガー〉なのだ。
実は、この「序論」執筆の準備をしている最中に、短文投稿式のSNSにおいて、下記のような呟きが、論者のタイム・ラインに流れてきた。
「アニソンシンガーはレッドデータ・ジョブ」
前後の文脈がないので、多様な解釈も可能であろうが、この呟き主は、アニソンを主として歌っている、声優ではないアニソン特化型の歌い手が絶滅に瀕している、と指摘しているように思われる。
しかし、論者は、アニソンに特化した〈アニソンシンガー〉にこそ、強い興味を惹かれてやまないのだ。
だからこそ考えたい。
アニソンシンガーの魅力とは一体何なのか?
何故に、これほどまでに、論者はアニソン、特に、アニソンシンガーに魅了されるのか?
この論考を通して、アニソンシンガーの魅力の秘密について深く追及する事が、その第一の目的である。
邦楽の中でも、アニソンは隙間産業だと思われているらしい。さらに、そうしたアニソンにおいても、タイアップを歌うJポップのアーティストでもバンドでも、いわんや声優でもなく、アニメ・ソング特化型のアニソンシンガーという職種は、一般的な認知度も低く、ニッチな領域だと考えている人も少なくはないようだ。
おそらく、これも、アニソンシンガーの絶滅が危惧されている、その理由なのであろう。
そこで、この論考の第二の目的、否、むしろこれは壮大な野心なのかもしれないが、アニソンシンガーを題材とする論考を提示する事によって、本論が、アニソンシンガーの一般的な認知度を高める、その一助になれば、と夢見ている次第なのである。
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