2.魔法競技部部長――イザベラ・マリアーヌ。







「それで、この子たちが助っ人というわけね?」

「はい、部長! 二人とも、魔法学の成績は上から数えた方が速いです!」

「なるほど、ね。いずれにせよ、背に腹は代えられないわ」


 アリーシャの後に続いて部室棟へ向かう。

 そして『魔法競技部』と看板が出ている部屋に入った。

 すると、そこで待っていたのは一人の上級生。ベリーショートの茶髪に、鋭い黒の眼差し。程よく引き締まった身体、肌は小麦色に焼けていた。

 背丈はこの中で一番高く、なかなかの威圧感がある。


「よろしく、二人とも。部長のイザベラ・マリアーヌよ」

「フィーナです、よろしくお願いします」

「わ、私はアーニャです……」


 そんなイザベラ先輩は一つ頷いた後に、仏頂面のまま手を差し出してきた。

 それを取ると、しっかりとした力で僕の手を握る。この時点でなんとなく察しはついたのだが、この人は決して怒っているわけではなく、もとよりこの表情なのだ。

 淡々とした口調も、彼女の性格によるものだろう。


「小さな手ね。とても、可愛らしい……」

「え……?」

「いいえ。なんでもないわ」


 そう思っていたら、イザベラ先輩が小さく何かを口にした気がした。

 こちらが小首を傾げると、しかし彼女は元の冷静沈着な口調に戻って答える。そしてアーニャと握手した後は、踵を返して他の部員のもとへと向かった。

 残された一学年組、すなわち僕らは顔を見合わせる。


「えっと、アリーシャに教われば良いんだよね?」

「うん。一応、そう聞いてるけど……」

「どうしたの? 歯切れ悪いけど」

「ううん、なんでもない!」


 アリーシャは何かを考えている様子だったが、すぐに気持ちを切り替えたらしい。首を左右に振ってから、僕とアーニャの手を取った。

 そのまま駆け出し、こう言うのだ。



「とりあえず、まずは競技を楽しんでよ! 二人とも!」




◆◇◆




「イザベラさん、どうされたんですか?」

「――え? あぁ、何でもないのよ」

「その割には、さっきの女の子のことジッと見てましたよね?」


 フィオたちが去ってから、イザベラは部員の一人にそう話しかけられていた。というのも、彼女が奥へと走っていくフィオのことを凝視していたためだ。

 そのためか返事は若干遅れて、歯切れは悪くなる。

 本人は否定するが、何かが気がかりなのは一目瞭然だった。


「えっと、フィーナちゃんでしたっけ? 可愛い子でしたね」

「そ、そうね……」


 そして、フィオのことを出されると明らかな動揺を見せる。

 部員はそんな部長の様子に、何か感づいた様子だ。


「やっぱり、あの人のこと、ですかぁ?」

「な――!? なにを言っているの!?」

「あははー! イザベラさん分かりやすーい!」


 イザベラが声を裏返す。

 それを見て、さらに大きな声で笑う部員。


「大丈夫ですよ、イザベラさん。貴方も十分に可愛いですから」

「いい加減に! ――ほら、ストレッチしてきなさい!」

「はーい!」


 部長は堪忍袋の緒が切れたのか、声を荒らげた。

 しかしながら、その部員はヘラヘラとした様子で去っていく。その後姿を見ながら、一つ大きなため息をつくイザベラ。だが、すぐに――。



「ホントに、可愛い子だったわね。きっと――」



 沈んだ表情で、こう口にするのだ。




「あんな子が、好かれるのでしょうね」――と。



 部活の練習によって、少しだけ荒れた自身の手のひらを見ながら。

 彼女はどこか残念そうに微笑むのだった。


 


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