第3章

1.学園生活始まって、最大のピンチ。







「なんとか、バレないで生活できてるなぁ。これもアーニャのお陰か」

「いえいえ。私は少しでも、お友達のためになりたいと思っているだけです!」


 かれこれ一か月が経過して。

 体育の授業などはアーニャに助けてもらいながら、どうにか学園生活にも慣れてきた。いまのところアーニャ以外にはバレていないし、彼女は口も堅い。

 順調といえば、順調というところか。


 最初は嫌々だったものの、朱に交われば、というやつかもしれない。

 いや、女装していることだけは嫌なんだけどさ。


「そういえば、フィオくん?」

「どうしたのアーニャ」

「もうじき、始まってしまうのですが……」

「始まる、って何が?」

「えっと……」

「……?」


 僕が首を傾げると、どこか申し訳なさそうに彼女は言った。




「えっと、身体測定……です」――と。




 両者、同時に足が止まる。


「………………」

「………………」


 風が吹き抜ける。

 僕は真顔で、空を仰いだ。





 ――ヴィヴィアンヌ女学園の身体測定は、年に一回行われる。

 調べるのは身長、体重、視力など一般的なもの。しかしながら、問題はここが女学園である、ということ。男の僕では知り得ない何かがあるかもしれない。

 そう思って調べた結果、やはりそうだった。


「下着姿で、測定……だと……?」


 寮の部屋にて。

 僕は今週末に行われる身体測定のパンフレットを見ていた。

 するとそこに書かれていたのは、下着姿で測定を行うこと、という文言。これは普通の学園ならあり得ないだろうが、ここは女子だけのはずの場所だ。


 すなわち本来、警戒される場所ではない。

 事ここに至って自分が異分子だと、痛感させられた。



「どうすんだ、おい……!」



 ベッドに寝転がり、のたうち回る。


 ――どうする、どうするどうするどうする!?


 全身から冷や汗が出る。

 このままでは、自分が男だということがバレてしまう。

 そうなれば家の問題だ。前代未聞の出来事。最悪の場合――取り潰し!?


「お、落ち着け。どこかに抜け道があるはずだ……!」


 焦るな。まだ、慌てるような時間じゃない、はず……!

 そう自分に言い聞かせるけれども、いっこうに解決策は浮かんでこない。そして刻一刻と、時間だけは過ぎていった。

 学園生活最大の壁にぶち当たって。


「う、うぐぐ……!」



 僕は一人、枕に顔を埋めるのだった。


 

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