先輩。

佐々木実桜

あーあ。

運動に飽き飽きした俺が入部したのは活動してるかもあやふやな写真部で、先輩は唯一頻繁に参加してる部員だった。


寝癖がつきまくってて、眼鏡をかけていても綺麗な顔だって、俺には分かった。


自信のなさそうな、頼りなさそうな笑顔のする人。


そんな印象。


写真部にあてられた部室で一人で作業する先輩を放ってはおけなくて、一緒に残るようになって、そうすると先輩も心を開いてくれるようになって、お昼も、一緒に食べるようになった。


「先輩、ここ昼も開けていいんですか?」


「先生が俺に鍵を預けたことを忘れてなくしたと思って学校にバレないように合鍵作って証拠隠滅してくれたから、昼は電気さえ付けなかったら平気。」


さすが底辺校、管理が疎かだ。


「ねえ、被写体になってよ」


そう言われて、かっこつけてみると


「そうじゃないんだよなあ、もっと自然に、ありのままを撮りたいの。ほら、某雪のクイーンみたいに」


なんて言われて、笑ってたら撮られたりなんかもして。


心を開いてくれるようになると先輩はかっこいい人なんだって伝わってくるようになった。


例えば俺が少し理不尽な目にあって、部室で泣いちゃった時、先輩は


「大事な後輩を傷付ける要因は俺が何とかしてやる」


なんて、珍しく怒った顔で言ったりなんかして、次の日になると先輩が何かしたのか、俺が傷ついた原因になったやつは俺に謝ってきた。


先輩と仲良くなって、もうすぐ一年。


ここまで来ると、俺は知らぬ間に先輩が好きになってたことに気づいてしまっていた。


最初は認められなかった。


綺麗な人だとは思ったが、俺の恋愛対象は女の子だったから。


でも、手に入れたいと思ってしまったら、認める他なかった。



そしてバレンタインの今日、俺は告白をしようと思っていた。


先輩の口からあの言葉を聞くまでは。


「俺、昨日告白されたんだよ。」


先輩は単なる自慢のつもりだったんだろう。


俺が、女々しく買ってきたチョコなんか渡そうとして発した絶対チョコ貰ってないでしょって言葉に返しただけ。


それは俺の心を締め付けるには十分だったけど。


「ガチっすか、誰に?」


顔に出ていないといいけど。


「一年のあの子だよ、テニス部の。君と同じクラスだって言ってたぞ」


あいつか。


外見も評判も良い、明るい人気者の、女。


この間まで彼氏居ただろ。


なんで、なんでよりによって先輩なんだよ。


他に良い奴いただろ。


くっそ。


「お、妬いてんのか?まあ可愛かったしな」


あぁ、妬いてるよ。


あんたじゃなくて、あいつに。


いつ言ったんだよ。


「そっすね、あいつ人気だし。先輩、付き合うんすか?」


聞きたくない、聞きたくない。


でも、知らないと。


「付き合わないよ」


え?


「え?」


「ん?」


「なんて?」


「だから、付き合わないって」


付き合わない?


「なんで?可愛いのに」


「可愛いけど、好きじゃないからとしか」


そう言って、先輩はまた頼りなさそうな笑顔を見せる。


なんだ、なーんだ。


付き合わないんだ。


そっか。


「もったいないなあ、先輩に彼女が出来る最後のチャンスだったかもしれないのに」


「なんだと〜、そんな酷いことを言うのはこの口か!」


からかいながらも俺はニヤケるのを抑えきれなかった。



さて、もったいないことをした先輩にいつ渡そうかな、このチョコ。






全く世話の焼ける子だ。

カメラを介さなくても伝わってくる、この分かりやすくて可愛い後輩をどうしてくれようか。


とりあえず、ホワイトデーに持ち越しかな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先輩。 佐々木実桜 @mioh_0123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ