第5話 僕が「弱いから悪いんだ」
疲労で重たい体、血で塗れた手で構える銀色に輝く鞘。
目の前はオークの群れ。
その次はオーガの群れ。
だけど、少年は恐れない。
その憎悪に染められた紅の瞳が捉えるのはスタンピードの中央。
「僕が弱いから悪いんだ」
「だから、お前たちを殺して、強くなる」
「そして、その血肉を天国にいるお爺ちゃんに捧げてやる!」
そして、ラクナは銀色の鞘から群青の刃を抜刀しようとするが、、、
+++
ラクナは銀色の鞘を無茶苦茶に振り回しながら群れの中を突き進む。
オークの群れを鞘で文字通り「叩き潰した」ラクナはその膨大な経験値から得られた力を使って、暴虐の限りを尽くしながら魔物を殺しまわっていた。
「死んでくれ!ウェポンスキル!」
ラクナは突然踏みとどまった後、今習得している中で最強のスキルを発動する。
「<ヘル・ツイスター>」
それはラクナが最初に覚えた連続型ウェポンスキル。
漆黒に染まり、そして不自然に拡大した鞘をラクナは体を回転させながら振り回す。
それはまさに竜巻、ラクナが一回転するごとに、無数の鎌鼬が周りの魔物を木っ端微塵に切り殺す。
ラクナが三回転し終わった頃には半径10メートルに存在する魔物は全て肉片と化していた。
―次は、、、くそっ、体が。
さすがに単発型ウェポンスキルより魔力を消費する連続型を発動したラクナは反動で体が固り、周りの魔物に隙を見せてしまう。
―やばい、
視界に見えるのは短剣を両手で持ちながら突っ込んでくるコボルトの姿
―たしか、単発型のクールタイムは1秒、連続型は2秒から10秒、、、
間に合わないと知ったラクナは目を瞑り、筋肉に力を入れる、その時、
ブスッ
―え、
ラクナの懐に入り込み、胸に短剣を刺そうとしたコボルトの頭に矢が突然生えた。
そして、呆然とコボルトの死体を見下ろすラクナの頭に声がかけられる。
「大丈夫かい?少年」
+++
目の前に現れたのは馬に乗りながら鉄の鎧を纏う三人の男。
ラクナはその三人を見た途端、街の中に騎士と呼ばれる鉄の鎧を纏う戦士の話を思いだす。
そんな中、弓矢を片手に持った騎士がラクナに手を伸ばした。
「君の様な少年がこんな戦場にいては駄目だ。私達と一緒に街に戻っ」
「黙れ!」
ラクナは騎士の手を払いのけた後、鞘を杖として使いながら立ち上がる。
「貴様!」
弓矢の騎士の部下だと思われしき二人が殺気を含みながら叫ぶ。
―遅れて来たくせに、偉そうに、、、
「あぁ、、?」
そんなラクナの声と共に「ドンッ」っと言う音を立てながら、周りの空気が重くなる。
怒りの余りにラクナは無意識に威圧を発したようだ。
―経験値のせいで威圧が強化されたか、、
ラクナは前より圧倒的に強くなった自身に内心驚きながらも怒りの矢先を騎士たちに向ける。
「な、なんだこの殺気は、、、」
強い殺気に反応した馬が暴れ始めた所為で馬から放り出された三人は今度は呆然とラクナを見上げる。
「、、、、ば、化け物、、、」
振り落とされた部下の一人が尻餅をつきながらそう呟く。
―お前たちがぐずぐずしているから、、、
呆然と自分を見つめてくる三人に興味を失ったラクナは銀色と紅に染まった鞘を肩に担ぎながら魔物の群れへ再び向かっていったのだった。
+++
「お前がこのスタンピードの原因か?」
「そうだ」
ラクナは鞘に付いた血を振り落としながら、他の魔物より二周り以上大きい、二本足で立つ獣と向かい合う。
―人間の言葉を喋れるということは高位の魔物、、身長は大体三メートル、武器はあの大きな槍か、、
「俺の名はフォート、この群れの長だ!」
「俺はラクナ」
コボルトの上位種だと思われる魔獣フォートは自分の背丈より長い槍を構えながら、ラクナを観察する。少年の姿は銀色の髪に故郷の森のように緑色の瞳。
自分より遥かに小さい人間の子供、そんな見て分かるほどの格下がなんでこんなところで自分に剣を向けているのかと、フォートはこんな子供を自分に送ってくる人間側の理解不能な行動に呆れる。
ラクナは気を緩み始めたフォートとは違い、全神経を使いながら魔力を鞘に纏わす。
「それにしても、こんな幼い子供を送ってくるとは、人間とは愚かなものだな。」
魔獣フォートはやれやれといった態度でラクナに再び話しかける。
フォートの動きを一瞬も見逃さんと意識を集中させていたラクナは呆気にとらわれる。
「どうした、剣を抜かないのか?」
「抜けないだけだ」
「、、、なんだ、そのガラクタは、、、はっはっはっはっは!」
魔獣風情に馬鹿にされたラクナは怒りに任せて言い返そうとするが、自分を制する。
―これは俺の気を紛らわす為の策かもしれない。それに確かにこの剣は、、
ラクナは手に持つ鞘を見つめる。自分が幾ら試そうと抜けない剣。
そんな切れない武器をガラクタ呼ばわりされても仕方がない。
―だけど、
「まぁ、このガラクタで今から殺されるお前はカスってことだな」
「ふん、ほざけ!人間風情が!」
それが戦闘開始の合図だったのだろう。
魔獣フォートはその大きさに見合わない速さで突っ込んでくる。
ラクナは腰に回した鞘を大きく振りながらそれを迎え撃とうとするが、鞘と槍が激突した途端、
「弱いんだよ!」
圧倒的な力の差で吹き飛ばされてしまう。
空中で態勢を整えたラクナは地面に着地した直後、撃ち慣れたスキルを発動。
「<ソニック・ブレイド>」
「なんだ、その軟弱な攻撃は!」
フォートは呆れながら、槍を突き刺すだけで、水色の光を打ち消す。
だけど、ラクナの狙いはフォートの気を散らすことだった。
そしてラクナが狙ったのは圧倒的強者が出す、油断。
ラクナは<ソニック・ブレイド>に視線が向いているフォートの背中に周り、走り上がった後、飛び上がる。
―隙あり!
「これがお前の狙いか!」
意図に気が付いたフォートは空を飛ぶラクナを見上げながら、槍に魔力を込める。
どうやら、やっと相手がラクナを一人の戦士として認めたようだ。
フォートの槍には尋常ではない魔力が込められていた。
だが、ラクナはそんな実力を見せられながらも悲観してはいなかった。
「、、、オリジナル・ウェポン・スキル」
それは未完成のスキル。
人間の限界を超えた、無限の刃。
何回連撃できるかは分からない、だけど関係ない。
―お爺ちゃん、見ててね。
ラクナは全身全霊をかけてながら深緑と黄金色に輝く鞘を振り被る。
ラクナは驚きを隠せない表情のフォートを見下ろしながら、唱えた。
「<アニマメア・クレーモァ>」
+++
―俺が弱いから、、、
ラクナはボロボロの体に鞭を打ちながら、森の中をゆっくりと進む。
服はズボンしか残っておらず、左腕は骨折、肋骨も幾つかやられただろう。
―なんで俺は生きているんだ?
起きたらいつの間にか森の中で横になっていたラクナは体を引きずるように歩きながら、ふと思う。
向かうは十一年過ごした彼の家。
だけど、帰ってもあの声が聞こえないと思うと、ラクナは地面に膝を突いて、泣き崩れてしまう。
なんで、お爺ちゃんは死ななきゃいけなかったのだろう。
なんで、自分はあの魔獣と負けたのだろう。
なんで、自分だけが失わなきゃいけないのだろう。
「弱いから悪いんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます