第3話 オリジナルスキル
「ラクナはもう十歳だよな」
「十一歳だよ」
「ん?そうか?まぁ、その年でそれだけできるんじゃあ、大した者だ」
お爺ちゃんはラクナの頭から手を放し、剣の柄にもう一度手を当てる。
だけど、殺気や重圧感などを感じない。
「ラクナ、スキルとはなんだ?」
唐突に聞かれた質問に少し驚きながらも、前に教えてもらったことをラクナは思い出しながら口にする。
「スキルとは体内の魔力を消費して発動する技のことで。身体を強化する『エンハンス』、強力な魔術を発動や付与する『マジック』、武器を強化や変形させる『ウェポン』、その三つの種類があるんだよね」
「そうだ。その三つがメジャーな奴だ。っで、今から俺がお前に教えるのは俺が作った、オリジナルスキルだ」
「オリジナルスキル?」
ラクナは頭を傾げる。
オリジナルスキル、ラクナはそんな言葉を一度も聞いた覚えがなかった。
「一般的には新しいスキルとは、意識していなかった数々の動作や術などに名を付けて、自動化させることによってできるものなんだ。スキルを神に認められた技という奴らもいるがな。例えば、ラクナがさっき使った<ソニック・ブレイド>も何百、何千年前の誰かがその技に名前を付け、スキルとして定着させ、世にそのスキルの発動法などを広めることによって、オリジナルスキルからごく溢れるウェポンスキルとして知られるようになった。」
お爺ちゃんはそう説明した後、剣を素早く引き抜く。
ラクナは初めて知ったその事実に驚きながらも、確かに思い当たる節はあることに気がつく。
数年前、ラクナが<ソニック・ブレイド>を教えてもらったばかりの頃は、剣を魔力で包み、剣を力任せに振った後に出る風に剣に纏わせた魔力を移し、などなどを意識しながら使っていた。
「今回俺が教えるのは俺が考え付いたスキルで、俺以外誰も知らないオリジナルスキルだ」
「どういう風なスキルなの?」
「この世界の連撃型ウェポンスキルは大体、スキルごとに7,8回攻撃をした後、スキルの効果が切れてしまう。だけど、このスキルはその限界を超えたスキルだ!」
「限界を超えた、、、7,8回以上できるの?」
お爺ちゃんは自慢そうな顔で頷く。
どうやら、ラクナはある一種の限界を突破した人物を目のあたりにしているようだ。
ラクナは剣を鞘から抜き、正眼で構える。
「お爺ちゃん、教えて」
「よし、じゃあ、まず最初に魔力を重ねて染み込ませるように、、」
+++
剣をただひたすら振って、振って、振りまくって数時間後。
ラクナはお爺ちゃんの監視の元、何度も何度も魔力が込められた剣を振っていた。
丁度五回振った後、ふと、剣を纏っていた光が消え、剣に込められた魔力が尽きたことを告げる。
「様になってきたじゃないか!」
お爺ちゃんは
ラクナは剣を地面にぶっ刺した後、思わず尻餅をついてしまう。
「、、、、本当?」
ラクナは正直に言って、納得はしていなかった。
連撃型の限界だと言われる、8回まで未だに到達していないからだ。
まぁ、十一歳の子供が8回できるようになったら、世界中の剣士が発狂してしまうだろう。
「あぁ、これでスキルの名を唱えるか、頭の中で唱えるだけで発動するようになれば、習得したことになる。」
「分かった。頑張る」
ラクナはゆっくりと立ち上がった後、地面から剣を抜き、またひたすら振ろうとした、その時。
「グゥゥゥゥゥ」
ラクナの正面からどこからもなくから二足立ちの大型犬、コボルトと呼ばれている魔物が唸りを上げながら現れる。
「コボルト、、、俺の気配を知ってて、、」
いつの間にか、ラクナの隣にいたお爺ちゃんは信じられないような物をみたような顔で剣を正眼に構える。
ラクナも同じく驚く、お爺ちゃんが常に放っている極少ない殺気を恐れて、魔物は近づいてこないからだ。
「この目の色は!」
一瞬にして間合いを詰め、コボルトの首を容易く切り落としたお爺ちゃんは、コボルトの頭を持ち上げた後、今までに見たことがないような戸惑いを見せる。
お爺ちゃんはそのままコボルトの頭を森の端に捨てた後、ラクナの前でしゃがみ、ラクナの両肩に手を乗せる。
「今からお爺ちゃんは危険な所に行く。ラクナ、お前は家で待ってろ」
「やだ、お爺ちゃんについていく」
ラクナの答えは即答だった。
その眼には、付いていくという意思が読み取れる。
―今のお爺ちゃんを一人にしてはいけない。
ラクナは自分が足手纏いになろうと、お爺ちゃんを一人で行かせるのが心配だった。
もし、病が戻ってきたら、、、その可能性をラクナは無視することができないでいた。
ラクナの瞳を見つめ返していたお爺ちゃんは、目を逸らし、立ち上がる。
「しょうがない。お前は昔から本当に『彼奴』に似て、、」
呆れたような態度を保ちながらお爺ちゃんは一人、家の中へ戻っていく。
しばらくした後、革鎧と見たことがない鞘を片手に持って外に出てきた。。
「これを着ていけ。」
その革鎧は綺麗に鞣された茶色の鎧だった。
サイズは丁度ラクナがスッポリと着れる大きさで、デザインは少し地味。
「よし、準備はできたな。このまま森を突っ切る。死にたくなかったら俺の背中から離れるなよ!」
「うん」
そして、二人は森の中へ潜っていった。
+++
「くそ、やはり『スタンピード』か」
森を走りぬけて数時間後、丘の上から見た光景にお爺ちゃんは小さく舌打ちをした。
目に映るのは、高い壁にひたすら突っ込む魔物の群れ。
ゴブリン、オーク、コボルトなど、普段は縄張り争いなどをしている色々な魔物がごちゃ混ぜになっている異端な光景だった。
そんな魔物の群れに襲われながら、貧弱な攻撃を壁の上からするだけの人間側の行動にラクナは不安を感じる。
「あそこは大丈夫なの?」
「壁で塞がれているからまだ大丈夫だろう。しかし、騎士団の連中はなにをぐずぐずしているんだ!」
お爺ちゃんはラクナに目を向けず、ただひたすら魔物たちの行動を見守りながら、腕を組み、人差し指を淡々と突く。
―お爺ちゃんが本当にイライラしている時の癖だ。
「側面を撃てば、もしかしたら、、、、ラクナ、お前はここに、」
「ついていく」
今回もラクナの答えは即答だった。
答えがわかっていて聞いたであろう、お爺ちゃんは驚かずに剣を銀色の鞘から抜刀する。
その剣は色々な鮮やかな彫刻がなされた、恐ろしい程に美しい片手剣だった。
―青い剣、お爺ちゃんはこんな物を、、、
ラクナはそんなお爺ちゃんの姿を見つめながら、自分も同じように剣を抜く。
「もう一度言うぞ、死にたくなかったら俺の背中から離れるな!」
その声と共に二人は丘から飛び降りた。
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