第19話 くっ殺魔法少女マーシャル☆テトラ(中)
私が強制的に契約させられた動物は、名前を「フォニ丸」というらしい。
こいつらの住む世界を襲っている奴ら――ネビュラスとやらがいて、そいつらを倒すために魔法少女を生み出す必要があるらしい。
いや、他人をパワーアップさせられるならお前らで戦えよ。
契約解除の条件は二つ。
一つは、契約中に死ぬこと。もう一つは、ネビュラスを一定量倒すこと。
ちなみに、フォニ丸は世界にたくさんいるらしいのでフォニ丸の方が死んでも代わりが来て契約解消までのノルマがアホほど増えるらしい。
一定数ではなく一定量と言ったのにはワケがあり、この前みたいに巨大な敵だけでなく、小さい敵も存在しているからだ。
そいつらの死体を回収してエネルギーに変換するのがフォニ丸どもの仕事らしい。魔法少女としてのパワーも、そいつらから得たエネルギーで支えられている部分が大きいのだとか。
「ノルマ云々は分かったからさ、職場にまで来なくてもいいんじゃないか?」
「いつネビュラスが来るか分からないからね」
私の肩に乗って堂々と職場に来ている。
他の人たちには普通の動物にしか見えないらしく、声も聞こえていないらしい。
コイツが喋っていると何度説明しても、私の頭がおかしくなったという扱いにしかならないので腹が立つ。
「とは言ってもなぁ。大体、あんな奴ら今まで見かけなかったってのに、ホイホイ出てくるわけないだろう」
「いや、出てくるよ。奴らはボクたちを捕食して生きている……厳密に言えば、ボクたち以外のものは捕食しない。だから、食糧のないこの世界に来ていなかっただけで、ボクが流れ着いた以上、ボクを追いかけてここにやってくるはずだよ。現に、昨日もきたじゃないか」
「あんなにデカいのに、こんな小さな生き物で満足するのか。小食なんだな」
「ボクらが溜め込んでいるエネルギーの量が多いだけだよ。それに、丸呑みじゃなくて、ボクらを乾燥させて粉末にしてから炙って接種するという伝統の調理法があると聞いているよ。惨い連中だね」
「美味いのか?」
「人間がボクたちを食べてどういう感想を持つのかは見たことがないね。でも、君たちの魔力変換効率でボクを食べても無駄が多いだけだと思うよ」
「そうか。いつもの私は魔力を全然必要としないからな。魔法少女になっている時に食べることにするよ。その……面倒な仕込みはせずに、鍋で。〆の雑炊までおいしくいただくからな」
「……いや、魔法少女になっても人間は人間だから、ボクのほとんどを消化できずに終わると思うね」
「消化できるか出来ないかというより、味の問題だろう」
「ボクは早く帰りたいよ……」
表情は一切変わっていないが、私が捕まえようとするとすばしっこく逃げるため、かなり警戒されているのだろう。
鍋じゃなくて普通に丸焼きにしてもいいかもしれない。生はちょっと嫌だ。
「というか、私よりもクラヴィスちゃんといた方がいいだろう。魔力量が段違いだし」
「そうは思わないね。ボクをこっちの世界に引きずり込んだのは彼女だと思うけど、完全に実験動物を見る目をしていたよ。あの人間と契約しなかったのも、身の危険を察知したからさ」
謎の生命体に関する情報を仕入れつつ普通の仕事として別の村まで遠征に行く。
これで街の方にこの前みたいなデカいやつが来たらイヤだな~、とか考えていたら、目前に迫った村の方から何やらよろしくない雰囲気が漂ってきた。
この村の近くに出たと報告があった人狼――ワーウルフの群れを潰すことが今日の仕事なのだが、村自体がどうにも獣臭い。
「チッ、もう手遅れだったか……? くっ、殺せ……!」
「殺すわけないじゃないか。昨日のやつでそれなりにノルマを消化してくれたけど、まだ足りてないんだよ」
少し距離を置いて木造の家々を観察する。
家の中を無防備に動いている人影は、完全に人狼のものだった。
なるほど。もう制圧された後らしい。
どこの家を見ても人狼が住んでいる。今は夕飯時というのもあってか、人狼の家族たちが食卓をにこやかに囲んでいた。
あの肉は何だ?
人間のものか?
いや、細かく切られて煮込まれているから見当がつかない。しかも、スープが紫色でドロドロこってり系っぽい感じだったので余計に分かりにくくなっていた。
ならば他の家だ。
生で食べているものがあれば……。
「おや? アレは良くないね。人狼どもはネビュラスを食べようとしている」
肩に乗っていたフォニ丸の視線を辿ると、食卓の上に置かれた海産物の刺身のようなものが目に入ってきた。
まだ少し蠢いている触手のようなものを前に、人狼の子どもたちがキャッキャと喜んでいる。
こんな山奥で海産物が取れるわけがない。
ならばアレは何だ?
「良くないね~、実に良くない。端的に言って、タチが悪いんだよね。まあ、見ててご覧よ。どうせあの人狼は討伐対象なんだろう?」
口に含んだ人狼たちが、一匹の例外もなく苦しみ始めた。
必死に喉をかきむしっている。
まだ食べていなかった人狼たちが呆然と様子を見ている。
しばらくして動きの止まった人狼たちから一気に毛が抜け落ち、ぬるぬるした皮膚が露わになった。その表面には、浮き上がった血管のような触手が蠢いている。
「ネビュラスを食べたつもりが、逆に取り込まれたみたいだね。だからあいつらはエネルギーになるまで分解しなくちゃならないんだ」
豹変した元人狼たちが、呆然としていた人狼たちに襲い掛かる。
噛みついたそばから触手の切れ端のようなものを傷口に埋め込んで、更に仲間を増やしていく。
「なるほど……反吐が出る連中だな」
村の真正面から踏み込んでいく。
奇襲は不可能だった。何故なら、奴らは全員、家の中から私を……正確に言えば私の肩に乗っていたフォニ丸に目を向けていたのだから。
ならば正々堂々と。
村の中心にある広場まで行くと、家の中からぞろぞろと元人狼たちが現れた。
前に人狼と戦っていた時は普通に味方同士で話していたはずなのだが、今は理性を失っているのか、呻き声しか聞こえてこない。
ゆっくりした足取りで近付いてきた連中の中の、最初の一匹の攻撃が当たる直前に剣を振り抜いて一言。
「変身」
魔力による風が巻き起こり、近くにいた数匹を吹き飛ばす。
身軽になったところで、ステッキに魔力を纏わせて殴っていく。拳を使う時も同様だ。
異形の人狼たちは、柔らかくなっている皮膚からポンポンと小さな触手を飛ばしてきたが、ステッキや腕を振った時の風圧で吹き飛ばす。
張り倒したそばから、フォニ丸が死体処理をしていく。
遠くの連中は、遠距離魔法で対処させてもらった。
やつらの能力は厄介だが、ちゃんと防御策を持っている魔法少女には効かないため、それほどの脅威ではなかった。
一通り倒し終えて息をつく。
全ての処理が終わったフォニ丸が私の足元をグルグルと回りながら、
「仕方ないけど、この辺は君の魔力で焼き払うしかないね。ここをうっかり訪れた人がいたら面倒なことになる」
「そうか……」
家を眺める。この村の家の中には、どこにも争った形跡が見受けられない。無抵抗のまま村人たちは殺されてしまったのだろうか。
そして、その人狼たちはネビュラスとかいうのにやられて、私がそれを倒したということになる。
村を焼き払うのは心が痛むが、フォニ丸の言葉は一理ある。このまま放置するわけにはいかない。
前回のように派手な光線で一掃してもよかったが、一軒一軒丁寧に魔力で火をつけて回った。
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