第15話 くっ殺女騎士VTuber(3)
あれから一夜。
フルーツグラノーラとやらを頬張りながら転生ゴブリンに声を掛ける。
「それで、どうだった? 自己紹介動画とやらは」
「上々だ。今までになかった手応えだよ。朝の挨拶をするだけでリプライが大量に届く。我々の姿が二次元じゃない点に疑問を持っている人たちもいたが、”超美麗3Dグラフィック”と言い張って誤魔化し通す予定だ。そういう文化もないことはないからね」
「その辺の事情は分からんが、ある程度成功しているのなら良い。王女様に迷惑を掛けるわけにはいかないからな」
「テトラさん……だっけ? テトラさんでも俺の想定以上の反響を出せているから、これでダメなら潔く諦められるかもしれない。というか、王女様は外見は良いのかもしれないけど、エンタメ向きではなさそうな印象もあるからね」
言葉の意味を掴みかねているところもあるが、それなりの結果が出ているらしい。
半分は私のおかげなので私も喜んでおくべきなのかもしれないが、こいつらの茶番に付き合いつつ、現状の打開策を考えなければならない。
私の想像以上にユーチューブやツイッターとやらの奥は深く、中々打開の一手が見えてこない。
外部からの救援も考えてみたが、一夜明けても音沙汰がない以上、あまりあてにできないようだ。
やはり自力でどうにかしていくしかない。
とはいえ、ここまで来て本格的活動を一度もせずに終わるのも何だか癪だ。
客観的にみれば敵に囚われている状態だが、異なる世界の文化に触れるチャンスでもある。得体の知れないものだからといって、一方的にぶち壊すのは忍びない。
まだまだ情報収集に徹する段階だろう。
「とりあえず、他のブイチューバーとやらの初期の動画も見たぞ。挨拶と適当な自己紹介しておけばいいのだろう?」
「それ以外にも幾つか欲しいけどね。ただ、時間は普通の人たちの半分……三十分でいい。長く話すとボロが出そうだから」
「別の世界の人間とそれほど長く会話できる自信もないから、その方が賢明だろうな」
「そこからは、企画が思いつくまで適当にゲーム実況だね」
「ゲーム実況……? というか、どうして企画を考えていなかったんだ?」
「どんな女騎士を確保できるか分からないのに、企画だけを先に立てるわけにはいかないだろう」
「まあ、うちの騎士団でも性格とかバラバラだから仕方ないか。しかし、ゲームとやらを全然やったことがないのだが、そこは大丈夫なのか?」
「その素人感自体もコンテンツになり得るからね。まあ、あまりにゲームが下手だと不評を買うから、その辺は様子を見ながらになる。ゲーム自体はこっちで用意するから、その心配は要らない」
いつもの自主トレをしながら、色々な動画を見る。
全く別の世界の人間からみてもそれなりに内容が分かって面白いものもあれば、言動や面白さが理解できないものもあった。文化が違うので仕方ない。
その点、ゲーム実況とやらは、ゲームという共通の話題があるから、ゲームの中身さえ分かれば何となくやっていけそうでもある。
「あー、そのトレーニングは動画映えしそうな気がする。……いや、まずは運動系のゲームで代用するか」
転生ゴブリンがぶつくさ言いながら機械をカチャカチャ動かしている。
そういうことを続けながら、向こうの世界で多くの人が動画を見れる時間帯になるまで時間を潰す。
「さて、そろそろ配信の準備をしようか。これ、ザックリだけど台本ね。それと、ここにコメントが流れてくるから、気が向いたら拾ってほしい。ただ、同じ人のコメントばかり拾うのはダメ。俺たちに軽い質問とかをしてもいいけど、俺たちは声を出さない予定だから、文字で答える。いいね?」
「何となくは掴めた。あとはやってみるしかないだろう」
というわけで配信開始。
カメラに向けて語りかける。いつもより気持ち声高めで。
「くっ殺~。カルボニス王立騎士団所属、新人くっ殺女騎士VTuberのテトラです~」
挨拶が「くっ殺」ってどうなんだ、と思ったのだが、台本がこうなっているので仕方ない。それに、転生ゴブリンも「向こうでは挨拶の一つだ」と豪語していたのでそういうことだと思っておく。
少し話し始めると、コメント欄にも「くっ殺」の文字が溢れ始めた。やっぱり挨拶らしい。どういう世界なのだろうか。
「未だにこの変な機械の向こうに人間がいるという実感が湧かないな。あと、声カワイイとか言われたのも初めてだ。……あ? 映像が綺麗すぎる? いやほら、何だっけ、何か凄い3Dなんちゃらとかいうやつだ。ゴブリンからそう言えと言われている」
コメント欄の言葉を拾いながら、適当に会話を続ける。
「好きなバーチャルYouTuber? そもそもYouTubeとやらを使い始めたのが昨日からだから……何だゴブリン?」
カンペが差し出される。
「え? 他のバーチャルYouTuberを悪くいうのはダメだって? それ以前に全然知らんという話なのだが。同じ流れで言うと、好きなアニメだの漫画だのも分からんとしかいいようがない。ゲームとかいうのは今後やっていくらしいから楽しみにしているぞ」
全然しらないことが多くて、答えられるものがほとんどない。
好きな食べ物とか、好きなモンスターとかの話はまあまあ答えられたと思うが。
あと、ゴブリンに向かって何度か話しかけていると、何故かコメント欄にゴブリンが増え始めた。
目の前のゴブリンに呼びかけただけなのに、何故か自分のことだと解釈しているようにしか思えないコメントを送ってくる人がいるのだ。別の世界にもゴブリンはいるのだろうか……。
最後に、カンペを読んで終える。
「え~、異世界に興味がある人は、チャンネル登録とツイッターのフォロー、動画の高評価やシェアをよろしくお願いします。生放送の感想は、 #くっ殺テトラ で送ってください。ご視聴ありがとうございました」
配信終了後、ゴブリンから教わったエゴサーチなるものを筋トレしながら敢行する。ようするに、ツイッターで「 #くっ殺テトラ」と検索するだけなのだが。
<実写なのは間違いないと思うけど、モデル並の人引っ張ってきたよなぁ。というか、外見が日本人離れしすぎ。特定はよ>
<それが全っ然情報ないんだよ。思いっきり顔バレしてるのに個人情報が欠片も出てこないってヤバくね?>
<もしかして、本当に異世界の人なのでは? あんなに何も知らないのは謎過ぎる。演技では出来ないレベル。無知シチュ狙いだとしても、営業的なメリットが見えない>
<でもツイッターのムーヴはプロ並みなんだよなぁ>
<俺、昔やたらリアルなゴブリンの動画見たことあるんだけど、アレと関係ある? テトラちゃん、めっちゃゴブリンに呼びかけるじゃん>
<テトラが呼びかけているゴブリンはワイのことやぞ>
などなど。感想というより考察だ。まあ、私が積極的に関与する領域でもないか。
さて翌日。動画を撮る部屋には、昨日まではなかった機械があった。
「ああこれ、例のゲームね。最低限の使い方は教えておくから」
「助かる。あんまり複雑なゲームはやめろよ」
「大丈夫。運動するやつだから」
ただ、新鮮味が欲しいということで、ギリギリまでやらせてくれなかった。
また夜まで色々とやって時間を潰す。
色々な情報を得る中で、一筋の光明を得た。垢BANなるものがバーチャルYouTuberに大ダメージを与えているというのなら、それを狙えばいい。
問題は、いつ仕掛けるかだ。
活動を始めたばかりの今、アカウントを潰されても、やり直せばいいだけだ。
それではダメージにならない。今しばらくは時間が必要なようだ。
というわけで予定通りゲーム。
画面の中に出てくるお兄さんの動きに従って運動をするものらしい。最低限の操作は教わっているので、そこでつまづく事態は避けられた。
「えっと、この輪っかを両側から押し込むのか。じゃあ軽く……」
バキッ。
「ゴブリン、そんなに力を入れてないのに壊れたんだけど……」
新品が用意され、少し優しめを意識してどうにか動かしていく。
しかし、ゲームで気分が乗ってくると、その度に破壊してしまうのでテンポが悪い。
一応、一時間やり切った。
「途中何回も壊しちゃって、コメント欄のみんなもゴメンな。やっぱりゲームってのは難しいなぁ」
<壊れたところ初めてみたんですがそれは……>
<実写? しかも壊れた?>
<やはり人間ではない……? あっ、バーチャルYouTuberでしたね>
<トレンド入りおめでとうございます。我々ゴブリンもテトラ様に殺されるなら本望です!>
<今度は歌ってみたをやろう>
<逆にどこまでの堅さのモノなら耐えられるんや?>
締めの挨拶をして配信を終わらせる。
ゲームに熱中していて気付かなかったが、今改めて見ると、周りのゴブリンたちは皆震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます