第12話 横文字よわよわ女騎士 VS 意識高い系ビジネスマン
「テトラ、アイヴィ、お前ら二人に仕事だ」
団長からの直々の呼び出しだ。
恐らくは副団長が作ったと思われる書類を読み上げる。
「お前らには騎士団の常備品の仕入れをやってもらう。まあ、購入品のリストもあるというか、発注するものはもう発注しているから、お前らの仕事は受け取りだな。あとは業者とちょっと世間話でもして、最近の情勢もチェックしとけってよ」
「発注は基本的に事務系のスタッフでやってますからね。さすがにこれを順番制にしたら誰かがサボったり、モノの過不足が起きたり、ぼったくりに遭ったりしそうですから」
「おう。そういうわけだ。ちなみに俺なら予算の全てで自分の好きなものだけ買うね」
「私なら誰かに丸投げだな」
仮の話だというのに、アイヴィは頭を抱えた。
ともかく、流れ作業なら私でも大丈夫だろう。
「最近はちょいと物騒になってきたからな、うちに出入りしている業者の面ぐらいは覚えとけって言ってたぞ、副団長が」
最近といえば、王女様が何者かに襲われた件が記憶に新しい。それに付随するように、小さな事件も例年より増えている印象だ。騎士団内部への攻撃も想定しておくべきかもしれない。
とはいえ、かくいう団長は絶対覚えてなさそうなのだが。
しかし、そこをツッコんでも仕方ない。
「分かりました。やってきます」
詰所の裏にある倉庫に向かうと、既に事務系の職員が待機していた。
裏口の扉が開いて馬車が入ってくる。
商人が数人掛かりで荷物を下ろしていき、それを私たちや事務系の人たちがチェックしていくという流れ。
大の大人数人で運んでいたので相当重いものなのかと思ったが、それほどでもなかった。指定された場所まで動かして開封。
ある程度数えたところで、もう一つの仕事にも着手する。すなわち、近況について情報を仕入れるということだ。
商人たちのリーダーっぽい眼鏡の人に声を掛ける。
「納品ご苦労。ところで、最近何か変わったこととかは無かったか?」
相手は顎に手を当て、
「ふむ。それほど大きなイシューは存在しなかったな」
「シチュー? ……ああ、うん。最近はあまりやってないな、市中引き回し。強いモンスターを狩った後は無性にやりたくなるんだけど、アレやると怒られるからなぁ」
絶望的な間が開く。
商人は顔を少し青ざめさせながら首を捻った。
いや、私も何か噛み合ってないな、とは思う。コイツ何か意味が分かりにくい言葉使ったし。
聞き方を変えようか。
「遠いところから来ているんだろう? 道中、モンスターや盗賊の類は出てないか?」
「それはまあ、出るには出るが、コスパの良い冒険者とウィンウィンな関係を築くことによって、限られたバジェットの中でどうにかするようにしているよ。出来れば、ここの取引でのベネフィットも上げていきたいのだが……どうだろうか?」
「べ、べね……? くっ、殺せ……!」
「いきなりメンブレするのはやめてください。我々はそんなに無理難題をサジェスチョンしているわけではないはず。バイブス上げていきましょう」
どうだろうか、と言われても、こちらとしては何の話か分からないので答えようがない。あとメンブレって何だ?
一旦整理しよう。
モンスターや盗賊は出る。何か分からんけど冒険者と協力してどうにかしている……ぐらいのところまでなら分かるのだが、それ以降がイマイチ分からん。
いや、ふんわりと、彼らが何かに困っているであろうということは雰囲気から伝わってくる。
「う、うーん……何かが足りないというのなら、それはやはり筋肉ではないか?」
「た、確かに筋肉は全てをソリューションするという流派もあることは知っているが、状況に応じてフレキシブルにメソッドを使い分けるのが、スマートなビジネスマンというやつだろう」
通じた? めちゃくちゃテキトーに対応したつもりなのに通じたぞ?
やはり筋肉は最強。
というわけで、この話には一区切りついたと考えよう。
他に聞くべき話といえば……。
「君たちから見て、この騎士団に足りないものはあるか?」
「え……?」
「私は入って二年目の新人だから、特に権限はない。上に報告する気もないから好きなように言ってくれ。個人的な質問だよ」
「なるほど。そこはやはり、商人ファーストな姿勢ではなかろうか。我々は皆さまにマストなものをお届けするため、限られたリソースの全てを投入して、日々様々なタスクにコミットしている。我々の真なるバリューを現状よりも高く評価し直し、適切なインセンティブが発生するようにすることによって、よりウィンウィンな関係に至れるものだと感じている。アグリー?」
空中でろくろを回すような動作をしながら熱く語っているが、イマイチ内容がつかめない。商人ファーストな姿勢って何だ。新しい武器の構え方だろうか?
あと、ウィンウィン2回目だな。ウィンウィンとやらは割とよく使える言葉なのかもしれない。
「商人ファーストな姿勢か……。参考までに、どういう姿勢なのか教えてもらいたい。そもそも、どういう相手に使う姿勢なんだ? 剣? 槍? というか、対人向けなのか対モンスター向けなのかも分からん」
「商人に対する姿勢ですよ」
「いや、商人なんてテキトーに殴れば倒せるだろう」
「違う違う。商人を活かすための姿勢ですよ」
「あー、東の方で噂レベルに聞く活人剣とかいうやつか」
「えっ、ああ、まあ、そういう感じで、これまでのコモンセンスから脱して思考にイノベーションを生み出していきましょうというわけですよ。ニュージェネレーションな皆様と、新たなグランドデザインをシェアして、最大限のシナジーを生み出していきたものですね。オールドファッションなコンベンションに今こそグッバイするタイムです!」
全然分からないけど、とりあえず勢いで話を合わせておこう。
「ともかく、商人をうまく使い倒せば我が騎士団は更に発展するということだな! これからもよろしく頼むぞ!」
「え? あれ? 我々とビジョンをシェア出来てないような気がしますけど……。それでコンセンサスを得ようってどういう強引さ……」
これ以上意味の分からない話を蒸し返されても困るので、背中を叩きながら相手の好きそうな言葉を連呼して会話に区切りをつける。
「はっはっは。ウィンウィンってやつだ。ウィンウィン!」
「ウッ! ちょっ、痛っ!」
「おっと、すまんすまん。もっと鍛えろよ。……アイヴィ、終わったか?」
書類に何かを書きながらアイヴィがやってくる。
「少し会話が聞こえていたけど、よくもまあ強引に会話を進められるね」
「仕方ないだろ。向こうの言っていることが半分以上分からないんだぞ」
「その状態で向こうのペースに乗せられずに勢いで誤魔化せる能力を評価しているんですよ」
商人の方に向き直り、書類を出した。
「ここにサインをお願いします」
「ああ、どうも」
「少しばかりですが、差し入れを荷台の中にいれておきました。早めに召し上がってください。皆様のモチベーション向上に寄与出来れば幸いです」
「おお、助かります!」
ここでアイヴィが一歩詰め寄った。
「あなたたちの仕事が大切なことは街の誰もが理解しています。もし仮に、大規模なモンスターの襲撃や戦争などが起き、基本的にはステイホームな状態になったり、街自体がロックダウン状態になったとしても、国としてはあなたたちの仕事を止めるわけにはいきません。仕事をしてもらいます」
「えぇ……それは考えたくもないオポチュニティですね。というかモンスターカスタマー以外の何者でもないのでは?」
「ですが、その時には国から人員や報酬を出しますし、そうでない時も我々はあなたたちの仕事のサポートとなるようなことをしています」
「はい。まあ、日ごろからお世話になっています」
「あなたたちの仕事が大切なことは分かるが、その分、安心して働いていただけるようにいくつかのサポートを平時から行っている……。それも込みでの価格設定だとご理解いただければ。それに、相場というものもあるでしょう。まずは同業他社のデータを出していただければ、エビデンスに沿って修正することもあるでしょう」
「うん。何かよく分からんがウィンウィンってやつだな」
「あっ、はい。ウィンウィンです。……いつもよくさせてもらってます。では、次の仕事があるのでこの辺で」
逃げるようにして馬車に入っていった。
見送ってからアイヴィが溜め息をつく。
「同業他社よりは優遇しているはずだから、ああ言っておけばこれ以上の値上げを要求しにくくなるんだよ」
「そうか……値上げを要求していたのか」
「そこからですか。他の人たちが言いくるめられないか心配ですね」
アイヴィが何らかの報告をしたのか、次回から、我々騎士は力仕事を担当して、情報の聞き出しは事務系の人の担当になった。
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