第11話
時刻は十六時、駅ナカは俺と同じく学校終わりの学生や買い物袋をぶらさげた主婦の方々、やや早めの帰宅の会社員とまちまち。
そんな雑踏というには隙間が目立つ駅ナカで俺は目的の人物を探し始める。が、数分もしないうちにその人物を見つける事が出来た。
駅ナカに併設されてるお洒落なパン屋、その店の前に同じ深間高校の制服を着用した目的の人物、田宮笑美が佇んでいた。
俺は田宮のいる元へと近づく。すると彼女も俺に気が付いたのか、胸の前で小さく手を振りながらこちらに向かってきた。その動作、男としてはちょっとくるものがりますね、ええ、ええ。
「あ、ありがとう、来てくれて。ごめんね、わざわざ二駅も離れたここを待ち合わせ場所にしちゃって」
「お、おう、別にいいけど。どうしてここ? 深間駅でも、なんなら学校でもよかったんじゃね?」
俺は紙を渡された時からの疑問を田宮にぶつけると、彼女は困り顔で遠慮がちに理由を述べる。
「あ、えと、学校だと、友達とかいるから……ちょっと」
「だ、だよねー」
あーはいはいそゆことね、そうゆことですか。要するに俺なんかと一緒にいるところを友達に見られた日には恥ずかしすぎて顔から火が噴いちゃうと。
「ち、違くてッ! 別に黒金君が嫌とかじゃないから……へ、変な噂とか広まっちゃったら、その黒金君にも迷惑かなって思って」
田宮は慌てふためきながらそう言った。それが気遣いなのかそれとも本心なのかはわからない。が、恐らく前者の方だろう。
俺が一人納得していると田宮はパン屋の対面に位置するチェーン系カフェを見つめている。
「あの、立ち話もなんだから、とりあえずあそこに入らない? 黒金君が良ければだけど」
「俺は別に全然大丈夫だぞ」
俺の了承を得て安堵した表情をする田宮。ぶっちゃけ俺はラーメン屋でも構わなかったが、そんな俺にも同意を求めてくるとは、公平性を重んじてるのですね素敵です。
そんな田宮はカフェの入り口で俺を先に行かせるように道を譲った。わざわざ何でと疑問が浮かんだが、特に深い意味はないだろうと自己解決で軽く流し、俺は先陣を切った。
店の中に入った俺と田宮は適当に注文を済ませ、二人掛けのテーブルに腰を下ろす。ちなみに俺はカフェオレ、田宮はブッラクコーヒーだ。
意外だな。どっちかっていうと田宮はゆるくてふわっと系女子っぽいからてっきりクリームの乗っかったドリンクでも頼むのかと思ってたが、まさかブッラクとは。なんかこうギャップを感じるな。
……………………。
あと余談だが、己の可愛さ女の子らしさを売り込む為に甘いもの大好きと謳ってる奴に俺は生理的嫌悪感を感じる。いいか、そんな浅はかな考えで自分の魅力が上がると思うなよ? スイーツは甘いが人生は生クリームのようにはいかねーからな。
それとインスタ映えを狙ってデザインが素敵なスイーツを写真で撮る奴、いい加減気が付いた方がいいぞ、周囲がこれっぽっちも興味をもってないことに。
あとこないだテレビで見たがどうも写真を撮るのに満足して肝心のスイーツを残す奴も近頃いるらしいが、そんな奴はもう性格ブスに決まってる。いくらSNS上の自分が明るく華やかに磨きあがっていてもな、現実の自分が腐りきってたら意味ないからなマジで。
そんな俺がカフェオレを飲む理由は単純、苦いのが苦手という消去法だ。
……………………。
あ、生理的嫌悪感で思い出したけどこういうカフェとかでいかにもなノーパソ使ってる奴も駄目だな。普通に仕事で使ってるのなら全然文句は言わないが、多くは見掛け倒しだ。どうせ内容は薄っぺらいものに決まってる。
その証拠としてほら、あの窓際に座ってる大学生くらいの男、縁なしフレームの丸眼鏡に茶髪パーマ、そんでもって一時期流行していたプロデューサー巻きをしている意識高い系のテンプレみたいな奴がさっきから見てるのは大手動画サイトの動画だ。
なんだそれは、何故わざわざカフェで見る、何故無駄にスペックの高いパソコンを持ってる、何故そんな自信満々な表情をしていられるんだ。家でスマホでマヌケ面で見てればいいだろうが!
……言いたい、言ってやりたい、ぶっちゃけ痛すぎですよって言いたい。けれど事なかれ主義の俺には到底できない。けれどこのご時世、俺以外の多くの人間にも当てはまる思う。見て見ぬふり、知らないふり、我関せずで人を避け、いつでもスマホにご執心って光景が日常風景なのだから。だから痛い奴は痛い事を知らないまま痛いを伝染させ勘違いを増産させていくのだ。つまり、流行に乗るのはいいが流されては駄目ってこと、自分を見失わないように身の丈を考慮してね!
俺は心中で講演会のように長々と語った。そのほとんどは偏見によるものだが。そんなことより………………、
「…………」
「…………」
この状況は一体なんだ! どうして田宮はだんまり決めてんだ!
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