第2話

二人は今回の依頼を受けた砂漠の街ジャナの酒場へと戻ってきていた。

砂嵐もあの後暫く歩けば、嘘のように落ち着き、常と同じようにただの砂が広がり、暑い日差しに射されるだけで、磁石も狂うこともなくなり何の問題もなく戻ってくることができたのであった。

しかし振り返ればドレイクのいる方面のみ、空間が変わったかのように荒れているのがまた異様であった。


討伐はしていないが、討伐目的であったドレイクが死んでいることの証として、その鱗と牙を採取してきている二人は、無言のまま酒場の扉を開けた。

酒場は雑音騒音でごった返していた。

あるものは一人寂しく酒をのみ、あるものは女を侍らせ高らかと笑い、あるものは壁に張られた依頼書をメモり、あるものは賭け事をする。

そして隣の席の人の肘がぶつかったのぶつからないのと下らない理由で喧嘩をふきかけ、売られた喧嘩とそれを買い、盛大な喧嘩も始まる。

品の欠片もない場所を二人は器用にすり抜け、奥のカウンターでこの騒ぎの中でも淡々と仕事をこなす男に、手首のタトゥーを見せながら声をかけた。

「通してほしいのだけど。」

二人の手首に描かれた赤の龍のタトゥーを見て、カウンターの男はその横の奥へと続く扉を開けた。

二人はその扉の先に続くほの暗い階段を降りていく。

羨望、嫉妬、妬み…

色々な意味の込めた視線をその背中に犇々と感じながら。


階段を降りきれば鉄の扉があり、それを入れば最上級ハンターのみ入ることを許されたギルドがある。

丸く区切られた空間の真ん中に大きく丸い主柱があり、そこに小さなカウンターが設けられており、そこで特殊な依頼を受ける。

上の酒場とは違い、ここは静寂が満ちているようだった。

人がいないわけではない。

乱雑に置かれた丸テーブルが3つ。

木の丸椅子が5脚に、壁際に少し使い古された革のソファーが2脚。

座る者が3人に立つ者が4人。

全員が二人が扉から入ったときに視線を上げはしたが、直ぐにもとに戻した。

この7人とも名だたるハンターたち。

ファイナたちと同じランクをものたちだ。

これ程のハンターが居ることも珍しいが、2人は特に他のハンターを気にすることもなく、カウンターへと足を進める。

カウンターには1人、かなり年嵩の男が座っていた。

頬に大きな古傷があり、右腕を失っている。

しかしその瞳には人を圧倒する眼力が残り、その目でファイナたちを迎えた。


「依頼の報告か?」

男(名はガド)は低い枯れた声で2人に声をかけた。

ジークはカウンターに持ち帰った物を置いた。

ガドはそれを手に取り、マジマジと観察した。

「…無事に狩れたようだな。」

「いや、俺たちじゃない。」

ジークの言葉にガドは眉を寄せ、訝しげに2人を見た。

「私達が行ったときには、既に死んでいたわ。」

ファイナは砂漠でのことを事細かに報告した。

ガドは話が終わっても暫く持ち帰られたものを手に無言でそれを見ていた。

その後視線をファイナたちの後ろの壁へと動かし、そこに立つ男に目だけで合図を送った。

男がその合図にこちらへとゆっくりと歩いてくる。

「東国のハンター、シュンライだ。」

「二刀流のシュンライか…」

シュンライは軽く笑みを浮かべ会釈をする。

最上ランクのハンターはそれほど多くはいない。

世界中でも100人いないと言われている。

そして国が違えば顔を会わせることはまずない。

しかし今は目の前に他国のハンター。

そして部屋の中には他に6人もの名だたるハンターがいる。

これは普段ではあり得ないほどの人数である。

全ての視線がファイナたちに集まっていることに気がつき、ファイナは眉を潜めた。

「私は楔の刺さる状態を、東国で2度ほど遭遇した。」

シュンライの言葉にファイナとジークは顔を見合わせた。

「俺たちもな。」

後ろからの声に振り替えれば、ソファに腰かけた大柄な男が酒瓶から直接酒をあおっていた。

そのソファの肘掛けに、艶っぽい女が足を組ながら座りタバコを吸っている。

男の左胸に、女の深いスリットから覗く太股に、赤い龍が描かれている。

「今ここには同じものを見たハンターしかいない。…そしてお前たちもな。何の因果だろうな、ファイナ。」

ガドの言葉にファイナは全員を見渡した。

ここにいる全てのハンターが目にした、現実と認めるには抵抗のある事実。

ファイナは少しずつ広がる胸騒ぎを隠すように、腹に力を入れるのであった。

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