月の光、月の影

咲玖薔

第1話


日に焼け始めた色褪せ気味のマントとフードを目深にかぶった人影が二つ、足跡さえ残らない荒む砂漠を進んでいる。

手にした磁石は止まることなく、ただただぐるぐると針を回していた。

凶器のように吹き荒れる砂嵐の中から先を見ようと目を細めるも、視界には砂と風しか見えない。

「ちっ、磁場まで狂ってやがる。なんだって突然こんなことになっちまったんだ。依頼されたヤツはこの辺りだって言うのに。」

舌打ちしつつ、右手に持った磁石をポケットにねじ込み、翻るマントが飛ばされないように今一度しっかりをつかみ直しながら、後ろを行く男は言った。

声の感じからして二十代半ばと言ったところだろうか。

背は高く、その背中には大きな両手剣を背負っている。

「愚痴ったところで始まらないわ。依頼を受けたのだから、見つけられませんでしたでは話にならないでしょ。」

前を行く人影が振り向き嗜める。

こちらは男と同じ年頃であろう女であった。


二人はギルドから依頼を受け、モンスターの討伐を行うハンター。

この世界ではハンマーは重要な仕事であった。

しかしそのハンターにもランクがあり、そのハンターランクは手首の龍のタトゥーの色で判断される。

下級ランクは黒。

ハンターと言うよりお使い程度のものだが、買い出しや外への素材等の採取をメインとする。

まだまだモンスターを倒したりになれておらず、この時に慣れていくようになる。

中級は三段階にわかれており、一段階はブロンズとなり、下級での仕事を三年こなし、その後指名での依頼が安定してくると与えられる。

仕事としては護衛が主となる。

大概が商人の町の行き来(二つ先の町までが限度となる)に護衛として付き合う。

二段階はシルバーとなるが、これにはブロンズ二年以内に護衛を三百回以上こなすこと、そしてギルドの武術試験に合格することが条件となる。

仕事としてはモンスターのいる場所への護衛。

ただしあまり深い山奥や森の奥には、凶悪なモンスターが潜んでいることがあるため護衛範囲外となる。

三段階になると、ゴールドとなる。

ここで漸くモンスター討伐を依頼されるようになる。

しかしそのモンスターは中型までとされ、一人で討伐にいかなければならない。

そしてこのゴールドになってから二年以内に討伐数が五百を越えると、最上ランクの赤へとなる。

ここまでくれば数人でチームを組もうが、一人で続けるか自由になるのだが、このランクになるまでに挫折したりと脱落するものが多く、正直チームは見込めない。

そして討伐モンスターに制限もなくなる。

赤のタトゥーは全ハンターの憧れの色であった。


「…おい、ファイナっ」

「ん?…あれはっ!!」

砂嵐の隙間から、大きな影が見えた。

二人は腰の剣に手をかけ、限りなく足場も視界も悪い中、できる限り迅速に近寄った。

そして確実に姿が見えるまで近づき、そこで二人は言葉を失う光景を目にした。

全長20メートルはある赤い巨大なドレイクと言われる種類のモンスター。

二人が依頼を受けたモンスターであるのは間違いない。

時よりこの砂漠で見掛けられ、時にその鋭い爪で人を襲うこともあり討伐依頼が出た。

そのモンスターがそこに立っていた。

ガラス玉のような瞳を空に向け、その口を大きく開き天を仰いだ姿で。

何より二人を驚かせたのは、その体を銀の楔が口から腹を抜け、砂漠の大地に突き刺さり、その楔をつたいさ赤い血の海が金の砂の上に広がっていた。

「一体誰が、こんな…」

男(ジーク)の言葉に明確な答えを持たないファイナは押し黙り、険しい顔で光を失っているドレイクを見上げた。

長くハンターを続けてきた二人だが、こんなものを見たのは初めてであった。

噂さえ聞いたことがない。

人のなせる技ではない。

しかし人以外でモンスターを狩るなんてことはあり得ない。

あり得ないはずである。

ただただ呆然とそれを見上げる二人の回りを、砂嵐が変わらずに吹き荒んでいた。

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