第8話トラップ
その白い学習机には、埃、ゴミ一つすら見当たらない。机上に置かれたブックスタンドには、おおよそ一キログラムはあるような洋書、参考書が所狭しと並び、だがしかし、それらは数センチの差異も無くぴったりと収められ、そのレイアウトは謎の一体感をも帯びていた。
その机を中心として、部屋を眺めるのは――――この白い、清楚な雰囲気には決してふさわしいとは言えない、背は少し低い、喪服のように黒いスーツを着込んだ、盧々宮という青年だった。しかし彼は部屋にうずくまり、額には汗が浮かんでいる。その足からは、赤い血を纏って鈍く光る刃が、革靴を貫いて頭を出していた。
「君が、この事件を起こしていたというのか・・・?本当に、あの人数を長い、長い時間をかけて。たった一人で。」
彼女は、三木田慶乃は青年を見ない。彼女の吐息で白く曇るほど、大きな窓ガラスに顔を近づけ、切れた雲から差し込む陽光の、淡いオレンジ色に彼女の大きな瞳は染まった。
「何事も、終わらせるには大なり小なり勇気が必要。とんと背中を押すような―――長く続けた努力も、趣味も、人生も。」
私はその背中をそっと押しただけよ。
と、死神はそう言って、微笑んだ。
討洞自身、三木田慶乃が犯人であるとほぼ確信していた。彼女の経歴と行動記録がほぼそれを表していた。
まず彼女は学園高等部に入ってすぐ、科学部に入り、精力的に活動に励んだ。特に剥製づくりに精を出したらしい。
そしてその手腕を隠すことなく使い、消滅寸前だった科学部を再建させ、活動が軌道に乗りはじめたとき、彼女はそこから静かに去っていった。
次に手芸クラブに参加した彼女はまた同じように部を再建させ、また同じように去っていった。彼女は何度も同じように消滅寸前の部を再建させ、または合併させてでも存続させたことで彼女は名実ともに人気を得ることとなり、副会長に任命される運びとなった。
それと時を同じくして、シティ62内の変死事件が勃発することとなる。
「クソッタレが。」
木々のさざめき、粒の大きな水滴、針葉の先端は容赦なく肌を突き刺してくる。
しかし、討洞は別にそれらに対して悪態をついたわけではない。
地上10メートル以上のメタセコイア。その中腹にある、特に太い枝。その上で討洞の手の上にあるもの。彼を見つめる、雨に降られ、その眼窩に収められたガラス玉、否、ガラス玉などではない。それは紛れもない、義眼。白目の中央にある空虚な瞳は、光を通して、討洞の顔をぐにゃりと歪めた。
紛れもない。紛れもなかった。それは行方不明の少女――――
その時、彼のポケットが小刻みに震える。
それを耳に当て、あくまで無機質に告げた。
「討洞だ。今、校庭の木の上で、瓜目嘉屋奈の頸を発見した。」
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