第5話御津白河女学園
「いやぁ・・なんというか・・・美しい・・・ですね。」
「・・・・」
僕はその建物の存在自体は知っていた。荘厳で、漂う気品のなかに見える清楚な造りのその建造物はあまりにもこの国で有名であり、おそらく多くの人間の羨望の眼差しを浴びてきたのであろう。
雨に濡れた校舎もまた風流であるのだが、今日は見物に来たのではない。この美しい校舎で、消えた人間がいるのだから。
やはり名門校の学園長室であった。内装の豪華さは言うまでもなく、掛けられた絵画、置かれた花々が絢爛さを引き締めつつも際立たせている。素人目にも分かる。
ただ、隣にいる討洞さんの眼差しは、目の前の白髪の女性に向けられていた。
「初めまして、学園長の、鏡原(きょうはら)須磨子(すまこ)と申します。」
紅茶の芳香が、僕の鼻孔をくすぐる。鏡原須磨子。この女学園の伝統を長年護り続けている『御津白河の番人』。その厳格な雰囲気は、いやでも僕を緊張させた。
「様々な事件の情報は、時折耳にしていました・・・決して我が校は加害者も、被害者も出さぬよう幾つもの対策を打っていたのですが・・・私の力不足だったのでしょう。」
いじめ―――これは人が人として生きてきたこの歴史の中で、否、やはり振り返ることすら馬鹿馬鹿しい。ヒトという動物がヒエラルキーを形成するためにとる、最もチープで原始的なプロセスとでも言えばいいだろう。それ以上の説明など、必要ない。
それはこの、高貴さに満ちているように見えるこの空間で意外にも、だがしかし例外なく起きていて―――
「生徒がひとり、いなくなったことはすでに生徒は伝えてあります。今日明日は休校とし、他の生徒は寮の自室で自習としています。誰か、話をしたい生徒がいればすぐにでも来させますが――あまりショッキングなことを伝えるのはくれぐれもお控えください。」
討洞さんが頷くことは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます