第4話危険な男
「盧々宮、何かあるか。」
「いいえ、特には。」
「討洞は。」
「・・・・・・いいや、別に何も。」
重く、響くような声で彼は言った。彼の眼は、決して狩人ではない。凶暴性を押し込めた、獣の如き鋭さを、彼はその双眸に秘めていた。討(とう)洞(どう)霧生(きりお)。おそらく、このトクハンの中で最も危険な男だ。
「今回は学校で事件が起こっている。こんな場合、被害者がいつ、どのような人間関係を築いたのか予測しにくい。俺たちは生徒情報の整理を行ってから現場に合流する。」
「分かりました。連絡ありがとうございます。」
あと――――と咲村さんは一呼吸おいて、
「経験の浅いお前には難儀かも知れんが―――討洞からは決して、決して、目を離すな。」
「・・・・はい。了解しました。」
僕は端末から耳を離す。この車、B-BOXは完全自動運転であり、それ故運転席が必要ない。だから座席が向かい合うように、広々としたスペースでリラックスできるというのだが――――僕はテーブル挟んで真正面にいる、討洞さんの顔を見た。
眠っているのか、彼は目を閉じたまま動かない。討洞からは決して目を離すな―――さすがに眠っている間でもということはないだろうが。僕は以前、討洞さんが過去に起こした【問題行動】についてデータベース内で確認したことがある。
討洞霧生〈トウドウ キリオ〉
〈問題行動一覧〉
容疑者に対する過剰な攻撃
・非殺傷弾発砲の必要性の無い状況での発砲。(処置:討洞捜査官を自宅謹慎処分)
・容疑者(以下、対象とする。)制圧後の不必要な暴力行為、(顔面殴打、腹部、局部に対する蹴り等)対象は各部の骨折、打撲の他、心的外傷後ストレス障害(以下PTSD)を発症。(処置:討洞捜査官の捜査資格差し押さえ及び減給処分、同捜査官の免職を検討―――却下されました。)
・事情聴取での過剰な罵倒。結果、対象に中度の言語障害及び睡眠障害が発生したため、対象に対する事情聴取を臨時的に中止。(処置:討洞捜査官に対する減給処分及び自宅謹慎)etc…
と、キリがない。しかし、そこに目をつぶれば、(目をつぶる事柄が大きすぎる気もするが、)
彼は稀代の優秀な捜査官であるらしく、それ故に咲村さんは彼を庇い続けている・・・と嵩原先輩、そして鹿毛さんはそう言っていた。
「起きてください討洞さん―――もうすぐ、シティ62ですよ。」
B-BOXは間もなく、目的地へ到着する。窓には、いつしか無数の雨粒が外の景色を歪めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます