第3話咲村莚という男

「――――以上が、事件ID【白痴】の概要だ。何か質問がある者は。いないか?」


咲村莚さきむらむしろには気をつけろ―――そんな言葉を、僕はここに入って何度も聞いた。

その言葉の存在を教えてくれたのは、他でもない嵩原先輩であった。


犯罪者達にも、密かに階級ランクというものが付けられている。犯罪取り締まりの優先度、重大さを確実に区分するためのシステムだが、それらは財力であったり、人脈の広さで決まることもあるのけだれど――――

情報にどれだけ通じているか、そこに重きが置かれる。いくら金があり、使える人材を保有していたとしても、情報という地図が無ければ宝の持ち腐れだ。自分がどこにいるかも理解せずに徘徊すれば、野垂れ死ぬことは火を見るよりも明らかである。

それほど、この世界では情報こそが生命線となり得ている。

そして、情報という情報を統べ、階級(ランク)をアップさせ、僕達から危険視されても尚、悪事を働き続ける彼らが決して忘れないキーワード、それこそが、『咲村莚には気を付けろ。』

彼はその手腕でもって、幾度となく彼らをその深淵にも等しき場から引き摺り出してきた。


彼らは決して恐怖を知らぬわけではない。恐怖すべきものに恐怖しているからこそ、この国の暗闇に溶け込めるのだ。

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