5-2

火星人が友好的であるとは限らない。むしろ、敵意があるかもしれない。こうして地下世界に住み、地球人に隠れて生活しているあたり怪しい。どちらにせよ、未知の物に対していくら警戒してもしきれない。星人は物音をあまり立てないようにしながら、森の中を進んでいった。


生い茂った葉を潜りながら池のほとりに着いた。水は、飲まない方がいいだろう。地球人には害があるかもしれない。幸い、水と携帯食料は持ち合わせている。宇宙服の中は窮屈だが簡単な給水や食事ができる。携帯食料の封を開け、食べようとしたとき、どこからともなくガサゴソと草むらから聞こえた。


イノシシ、と思ったが違う。躯体は二倍くらいありそうだし、翼のような物が生えている。表情は邪悪といったもの。知性はまるで感じられない。十頭ほどの群れを成し、獲物を探している。星人は身を潜める。


イノシシは獲物を探り当てたようだ。群れは何かを取り囲み始めた。自分から注意が逸れたことに星人は安堵したが、次の瞬間悲鳴を聞く。


「いやあああ!誰か助けて!」


星人は少し身を乗り出してみる。よく見えないが、イノシシの群れの間から影が見えた。分かるのは人間と同じくらいの体の大きさをしている。


「誰か!」


懸命にか細い声を上げる。叫び声は、ちょうど人間の女性のような声。


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