2-4
剣も魔法もない星。それどころか、建物も道も、草木もない。人っ子一人いない星。
僕は再び外に出た。宇宙服の分厚い手袋越しに赤い石ころを掴んだ。
ある意味これが本当の異世界だろう。現実世界とかけ離れている点において、ファンタジーの星よりも異世界だ。この火星の地表のリアルな色、大気の重さは、地球の人間が想像できるものではない。そういう意味でここと地球の世界は異なっている。
「本当の異世界が夢物語なはずがない」
異世界が夢物語で、誰かが憧れる世界なら、それは異世界じゃない。現実と同じ世界だ。現実の誰かが想像できる世界なら、それは誰かの頭の中に確実にある世界だからだ。現実の誰かの頭の中に入っている世界なんだから、それは現実世界に決まっている。だけどこの火星は現実世界だけど異世界だ。火星はみんな知ってるけど、その火星での生活のリアルは誰も想像できないから。
誰も、これほど寂しい世界なんて想像できない。
「くそっ」
僕は掴んでいた石ころを投げた。感情的になっていたが、自分が感情的になっていることも自覚していた。そしてそれを自覚していることに気付いて、泣きそうになった。
「――」
沈黙に耐えられずにすぐ振り返り、宇宙船に戻ろうとした。そのとき、金属音が鳴った。石ころを空き缶めがけて投げたときのような音だった。
しかし火星に空き缶があるはずがない。僕はその音の方へ向き、投げた石ころを探した。
そして見つけた。――空き缶を。
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