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「普段はどうとでもない奴らでも、いざいなくなってみると寂しいもんだ」
星人は学校で人気者というわけでもないし、家族もワイワイやっている感じではない。どちらかというとおとなしい方だが、客観的に見れば普通。無口なわけではないが、意味のある時にズバッとツッコミを入れるような、サバサバしたような性格。
いわゆる陽キャのように友達友達した遊びをしたり、青春をしてみたり、家族愛を楽しんだりするタイプではないけれど、そんな星人でもいざ人間関係がなくなって独り火星で住まなければならないとなると、寂しくなるのは当たり前である。人間そういうものだ。
「帰りたいな――」
迎えを待つのが難しいなら、帰るのは――。当然のことながら絶望的だった。それは明々白々、驚きの白さだった。
「あのポッドをなんとか活用できたら――」
宇宙船には、緊急用の脱出手段・帰還手段として一人用ポッドが備え付けてある。宇宙でトラブルがあったときに、地球に帰還できるような代物だ。宇宙船の中の帰還用動力を使って、シャトルは帰還するが、火星に残った宇宙船でも予備の動力があって、ポッドくらいの軽量な機体なら地球に帰すエネルギーがある。また、現代のテクノロジーとAIの進歩により、全く知識のない星人でも、宇宙電話で指示を受けながら操縦することは可能なのだ。
だが問題が一つあった。あの小惑星のトラブルの中、振動などが理由で必要なある資材が地球に帰る宇宙船の方に行ってしまった。それは地球では平凡な材料で指示を受ければ自分で精製できる。しかしそれは地球での話。火星ではその資材が手に入らない、というか現在の技術では火星にその材料は発見されていない。
実は地球上からでも火星にどんな物質があるかどうかは特定できる。それにこれまでも無人の探索船が火星に行っていたので、ある程度分かるのだ。もし僕がその資材を手に入れるには、探索船や研究者達が見つけられなかったその資材を自分で探し出さなければならない。そして、探してもその物質が火星にない可能性が高い。
これでは技術の粋をつぎ込んだポッドも、宝の持ち腐れというものである。いわば、バッテリーの切れたスマホなのだ。
「駄目だ。考えても仕方がない。無理なものは無理だ、諦めろ」
悩んでも仕方がない。何か気晴らしになること。
「あのバカ親が転送した本の続きでも読むか」
星人は宇宙船のハッチに戻り、機器の電源を入れ、ディスプレイを眺め始めた。メニュー画面にリストが並んでいる。
「誰でもできる家庭菜園」「インド旅行に必要な知識のすべて」「1日10分で月10万稼ぐネット副業」。このラインナップはいかがなものか。火星の人間に送ってくるラインナップでは絶対にない。
しばらく眺めると、気になったタイトルがあった。青少年向けの小説だった。
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