1-5
僕はそのまま流された。宇宙船の見捨てられた片割れに乗って流された。
「僕、死ぬのか――。短い人生だった――」
完全に死を覚悟していた。こんな広い宇宙空間に高校生が一人きり。どうして生きていられるだろうか?
宇宙開発の技術革新により、空気の問題はあまり心配がいらない。酸素タンクや、水から酸素を発生する装置がある。インタビューでケネディ宇宙センターの技術者が、10人を1年賄えるという話を聞いた。食料も、不味いとは聞くが宇宙食がかなり備えられている。電気も十分備えがあるという。
とはいえそれは機器を扱える人間があってこその話だ。僕はもちろん機器が使えない。宝の持ち腐れ。きっと、一週間持てばいい方なのではないか――。
「くそったれ!」
言いながら壁を蹴ろうとしたが、無重力なので体が思うように動かなかった。しばらく宇宙に居ても、なかなか慣れないものである。
「だめだ、苛つくのを辞めよう。潔く諦めよう――」
考えるのをやめて宇宙空間を漂うことを受け入れたとき、電子ベルが鳴った。宇宙電話――。気付かなかった。精神が参っていたからだろうか。
「――誰?まさか宗教勧誘の電話じゃないよな?いつもならお断りだが、今なら藁をもすがる気がしてて――」
「星人、俺だよ。父さんだ。今地球に戻ってカップヌードルを食べているとこだ。宇宙も良いけど、地球がやっぱり一番だよなぁ。宇宙旅行から戻ってきてはじめて日本食を食べる、最高だよ」
「僕も最高だよ。高度の意味ではね。父さんの顔の何十万キロ高い所で食べる宇宙食、それもたった一人で虚空を眺めながら食べる宇宙食。どんな感じか想像できるか?」
「まぁ、悪い。でもな、そんな経験なんて滅多に出来ないことだ。悪く考えず、いいように考えろ。普通の高校生が絶対に出来ない経験を今しているんだ。ほら、宇宙の勉強って教科書読むかせいぜい科学館に行くくらいだが、お前は宇宙をフィールドワークしてるんだ」
「教育熱心な親で誇りに思うよ。かわいい子には旅をさせよって言うし、本人の気持ちに関係なく旅をさせるがいいや」
「そう言うなって、なんでも明るく前向きに捉えれば、状況は良くなる。後ろ向きなら、なんでも駄目になる。いつも言っていることだ」
「そうだけど」
「それに、お前が思っているほど状況は悪くないぞ。この電話さえあれば、お前は機器を操作できる。もともと長期滞在を予定していたから、蓄えもかなりある。そして、なんと、俺達はお前を迎えに行く予定だ!報道機関やお前の母親にはお前がいなくなったことは黙ってるが――」
「とっくに母親にはバレてるだろうが――」
「全然バレてないぞ、お前がいなくなったこと、気付いてないみたいだ」
「おい、母――」
「とにかくお前を迎えに行く。それで今から準備をしているんだ。またシャトルを打ち上げるんだ」
「なんだ、そういうことか。それなら安心かな。ちょっとばかり退屈な数日を過ごせば、地球に帰れるってことか。あぁ、マジで宇宙に置き去りかと思った――」
「数日?何言ってるんだ?」
「へ?」
「準備には時間が掛かるんだ。位置から用意しなければならないものも沢山ある」
「おいおい、退屈なのは一週間くらいが限度だって――。一体、どれくらいだよ」
「3年」
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