1-2

僕はセンターの中から出る前に用を足そうと思った。いつもとは全く違う環境、いつもは全く接しない種類の人たちに囲まれていたのが悪かったかも知れない。どこにトイレがあるか聞かずに、なんとなく探せば見つかると思ったが、結果的には迷ってしまった。


訳の分からない機器ばかり、触れて運悪く壊してしまうとどれくらい弁償しなければならないだろうか――そんなことを思いながら迷い、迷って、なんとスペースシャトルの中に入ってしまった。


乗組員達が固唾を飲んでいた。歴史的な瞬間に備えて目を閉じている。この日のために日夜厳しいトレーニングや勉強に明け暮れていたのだから、緊張しているのだろう。装置の機械音の方がやかましいのに、彼らの心臓の音がうるさいほど聞こえた記憶がある。彼らの中には当たり前だが僕の父親もいた。僕は空気に圧倒され、声を掛けるのを尻込みしてしまい、自分で出口を探そうとした。父の目の前を抜き足で通り過ぎたとき、その瞼がぱっと開いた。驚きの表情があった後、苦い表情に変わり、小声で囁いた。


(――っ!お前なんでこんな所にっ!だっ、駄目だ。やっぱり喋るな!ここに人が入ったことがバレたらエラいことに……。最悪中止なんてことになったら……。それにもう、あっ……)


エンジンが唸りを上げた。爆音に耳が裂けそうになる。その音でようやく父親も我に返ったのか、他の乗組員の助けを乞う。予備の宇宙服が僕にあてがわれた。


「おい、星人ほしと、分かってるよな。ただでさえ俺は仕事漬けなものだからあいつはいつもピリピリしてるんだ。だからな、この事はお母ちゃんには内緒だぞ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る