第18話 ティナの宿命
「くそっ。何が起きていやがる」
俺は吐き捨てるようにそう言って波打ち
そこに浮かぶ
合計3体のNPCを飲み込んだ
それはまるで捕食者の姿だった。
俺は息を飲むとすぐ
「ゾーラン。見えるか? 黒玉だ」
「残念ながら見えねえよ。たが天使が何かに消されちまったのは見た。何が起きている?」
なるほどな。
恐らくはあの消えちまった天使も自分の身に何が起きたのか分からないまま消されたんだろうよ。
俺はこの目で見たままのことをゾーランに告げた。
「そういうことか。バレット。何にせよおまえだけに見えるって利点は大いに活用すべきだ。で、その
「今のところ波打ち
「目に見えない敵。しかも生き物じゃない、か。そういう奴との戦いも経験あるにはあるが……」
ゾーランがそう言ったその時だった。
頭上から強い衝撃を感じて振り仰ぐと、激しい光の
「チッ!」
ゾーランは体を
そこにはグリフィンの姿があった。
『新たな獲物がノコノコと
グリフィンはそう言うと上空から立て続けに
「てめえが黒幕か!」
ゾーランは襲い来る光の
その
速くしなやかな身のこなしは文句のつけようがない。
だが、あれではダメだ。
「ゾーラン! 手を出すなっつったろ!」
俺の怒声にも構わずゾーランはグリフィンに迫るが、グリフィンがまともに戦うはずはない。
奴が撃ち下ろす
ゾーランは持ち前の回避能力でそれらをかわすものの、一向にグリフィンとの距離は縮まらない。
いくらゾーランが優れたキャラクターだとしても、盤上の
グリフィンの前では無力に等しい。
そして
奴はもう無理に戦闘行為を続ける必要はないんだ。
俺は
それは次々と黒い手を伸ばして手近な魔物や天使、悪魔を捕らえ、食らい始めている。
そして食らうごとに
異変に気付いた
一方、魔物どもは
自らその身を
間違いなく全てがグリフィンの意思に従って進んでいやがるんだ。
食えば食うほどに成長する
その球体から突き出される黒い手は、すでに数十本を数える。
このままいくと、ここいら一帯にいるNPCは魔物、天使、悪魔の区別なく全てあの
先ほどから俺は体の
くそっ!
どうすれば俺はもう一度戦えるんだ。
俺の知るゾーランは
対照的にグリフィンは余裕の笑みを浮かべている。
『なぜ私に敵対する? この辺りは貴様の縄張りか? それとも同胞であるバレットのためか?』
「どちらもハズレだ。てめえの前に座っている天使のお譲ちゃんは知り合いでな。そのお譲ちゃんを解放しな」
『ほう。悪魔のくせにティナと知り合いとはな。だが断る。この娘は我が力の源だ』
「他力本願のインチキ術で強くなったつもりとは笑わせやがる。それを聞いたら力づくでお譲ちゃんをひっぺがしてやりたくなったぜ」
『貴様には無理だ。いや、この世の誰にも邪魔はさせん。一気に終わらせてやろう』
グリフィンの奴はゾーランの能力を知り、
奴はその
「何だこりゃ……」
目の前で起きている現象に、さすがにゾーランも顔色を変える。
今、あいつの周囲はバグで揺らぎ、背景であるはずの空も海もめくれ上がるように消えてしまう。
そしてその後には暗幕を
奇妙な現象に取り囲まれたゾーランは、
だが、それは黒い空間の中に入った
「どうなってんだ?」
『プログラム分解だ。見ろ』
グリフィンはそう言うと手近なところを飛んでいた牙亀を捕まえて、そいつを黒い空間に放り込んだ。
『理解したか? この暗転空間はゲームの裏側だ。そこでは何者も己の姿をまともに保っていられない』
そう言うとグリフィンはニヤリと笑みを浮かべた。
あの野郎。
いよいよ強引な禁じ手を使ってきやがったってことか。
空間をねじ曲げるに飽き足らず、空間を切り取っちまうとは。
俺は理解した。
あの
そしてそれを利用してあいつはゾーランを封じ込めにかかったんだ。
いくらゾーランが
「ゾーラン!」
「確かにこいつはまともに戦ってどうにかなる相手じゃねえな」
苦虫を
その様子を見ながらグリフィンは上機嫌で言った。
『なるほど。貴様が次期魔王と
グリフィンはゾーランを同じように
『キャラクターのレベルやランクが高いということは、そのキャラクターのプログラム量が多いということでもある。この
そう言うとグリフィンは右手に持っている短槍を振り上げ、動けないゾーランに向けて投げつけた。
それは光り
「ぐうっ!」
「ゾーラン!」
ゾーランは胸を串刺しにされて口から血を吐きながら、それでもふてぶてしい
「おいインチキ野郎。あそこにいるバレットはな、かつて俺の部下だった男だ。未熟者だが、俺に何度ぶん
なっ……ゾーラン。
あの野郎、いきなり何を言ってやがる。
『フンッ。そうか。ならばかつての部下の前で
そう言っていやらしい笑い声を上げながらグリフィンは左手を頭上にかざした。
すると波打ち
それは
そしてグリフィンは何やらメイン・システムを起動して作業を始めていた。
一方のゾーランは危機に
その口が何やら動いているのを見た俺はハッとした。
ゾーランが今、
俺はゾーランの
【ティナのお嬢ちゃんから聞いていると思うが、ティナにおまえを紹介したのは俺だ。うまいことバレットに会えたことはティナから送られてきた手紙で知ったが、その後あんなことになっていたとはな】
そう言うとゾーランはグリフィンに取り込まれているティナを見た。
俺は自らも覚えている暗号言語を使ってそんなゾーランに声を張り上げた。
【ゾーラン。おまえそんな
【いいから聞け。バレット。
……
どういうことだ?
【天使長の後継者だよ。ティナに万が一のことかあった際のスペア的な人材だ】
その話に俺は腹の底に冷たい感情が生まれるのを感じた。
【ティナを……切り捨てるってことか】
【そう怖い顔すんな。バレット。組織としちゃ当然の判断だ。天使長の後継者は欠かすことが出来ないんだからな。それにティナのお嬢ちゃんもそのことは承知済みさ。何しろ俺はお嬢ちゃんからその話を聞かされたんだからな】
ティナの奴はその覚悟をしていたってことか。
【……切り捨てられた後、あいつはどうなる? ただのNPCとして生きるのか?】
俺の問いにゾーランはわずかに苦い表情を浮かべた。
【ティナはその存在そのものが機密情報の
その言葉に
ティナがその身に負った重い責務を。
【機密保持のためにお嬢ちゃんは体からシステムを抜かれる。そしてその経験値のみがスペアの人材に受け継がれ、ティナとしての記憶や自我は
……あのガキ。
そんなことは一言も言ってなかったじゃねえか。
ティナはそんな宿命を背負って生まれ、単身でこの
弱く小さな体でそれでも懸命に奮闘し、苦痛に耐えて多くの傷を負った末に行き着く先が……永遠の死。
「ハッ。馬鹿な小娘だ。本当に……馬鹿な奴だよ」
俺は左の太もとに巻いたティナのレッグ・カバーの下で傷がズキズキと痛むのを感じながら、何も言えずに
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