第6話 孤島再訪
天樹の塔の動力室で
空間を抜ける独特の感覚がこれまで感じた不正プログラムによるそれとまったく同じだったからだ。
そして
「……ここに
そこは俺とティナがフーシェ島の地下で発見した奇妙な隠し部屋だった。
壁に等間隔で貼られた
俺は今、その部屋の角柱の前に立っていた。
そして俺の目の前には、俺が今一番ぶん
俺は殺気を込めてその男を
「よう。地獄から舞い戻って来たぜ」
そう言う俺を見て、不可解だといった表情を浮かべたのは、上級天使マーカスの姿をしたグリフィンだった。
「……正直驚いたぞ。バレット。貴様が生きて再び私の前に現れるとは思っていなかった。舞台の途中で退場する
「こう見えても俺は
俺がそう言うとグリフィンは口を
そんなグリフィンの後ろにはティナの
ようやく見つけたぜティナ。
そんなところでノンキに寝やがって。
それから俺は注意深く部屋の様子を確かめる。
確かに前に訪れた時と同じ部屋だが、あの時とは様子が違う。
俺は即座に理解した。
今、この部屋は稼働しているんだ。
そしてその理由はあれだ。
俺がここに来るために通って来た角柱の
前回訪れた時はあんなものは無かった。
天樹の
「この妙な部屋の
「そうだ。ここはこのゲーム世界の各地を
「何だと?」
悪鬼城。
この奇妙な部屋を通して天使と悪魔の本拠地が簡単に行き来できる。
そのグリフィンの話が本当だとしたら、これはこのゲームがひっくり返るようなとんでもない状況だ。
「この2本の角柱があれば天使の軍勢を悪鬼城に送り込んで悪魔の残党どもを一気に壊滅させることも容易なことだ。その逆も
こいつ……何を考えていやがる。
この
いや……。
「フンッ。ここを動かすために天樹から動力を
「仕方なかろう。ここの仕掛けを動かすのには
こいつの目的はプレイヤーたちのいる世界へと渡ることだ。
ということはこの転移の
もしかしたらこいつはこの
あまりにも絵空事だが、本当にそんなことが可能かどうかを俺が判断すべきじゃない。
グリフィンは必ずそれを成し遂げようとするだろう。
その言葉の何もかもが信用できない野郎だが、奴の本気の度合いだけは疑いようがない。
俺もそのつもりで動かなきゃ、奴の寝首をかくなんて死んでも出来やしねえ。
俺は決然と拳を握り締めて足を一歩前に踏み出した。
「グリフィン。そうそうてめえの思い通りになることばかりじゃねえんだよ。この世はままならないってことを今日はてめえの脳みそにきっちり
そう言うと俺は魔力を体中に
体力気力ともに十分戦える状態だ。
そんな俺を見てグリフィンはアイテム・ストックから一本の白い長槍を取り出してそれを握る。
あれはこのフーシェ島で奴が俺の心臓を一撃で貫いた長槍だ。
「よかろう。策を張り
そう言うとグリフィンは長槍を二度三度と振るってから構えた。
わずかな沈黙の後、先に仕掛けたのはもちろん俺だ。
「ハアッ!」
俺は気合いの声と共に地面を蹴って一気に距離を詰める。
こっちは素手、相手は長槍。
グリフィンの間合いの内側に入り込まなきゃ、俺に勝ち目はねえ。
そんな俺の動きを当然のように見透かして、グリフィンは的確に槍を突き出してくる。
「ムンッ!」
「くっ!」
体格のいいマーカスの体から繰り出される突きの速度は
だが俺は半身に体を
しかしグリフィンは長槍を反転させて、
俺は自ら後方に下がってこれを避けるが、間合いが再び空いたためにグリフィンが間髪入れずに再び長槍を突き出してきた。
俺はその穂先をかわしてさらに大きく後方に距離を取った。
今の攻防だけで分かるが、こいつはまっとうに戦っても間違いなく強い。
スピードはもちろん速いが、ムダがなく洗練された動きであるために、速さがより
上級天使だけあって、かなり
「ハッ。不正プログラムに頼りきりのモヤシじゃなかったんだな」
俺の挑発にもグリフィンは顔色ひとつ変えずに
「この槍で胸を貫かれた一撃をもう忘れたか? この上級職の体には十分な戦力を搭載している。だが……」
そう言うと今度はグリフィンが間合いを詰めてきた。
奴は長槍の穂先を小刻みに揺らしながら
「こんな強さに意味はない。個体の強さなど何の意味も成さぬ」
「そうかよ! じゃあてめえが使うインチキ術には意味があるってのか!」
俺も負けじと小刻みにステップを踏んでその攻撃をかわしながら
燃え盛る
それは先ほど俺をここに招き入れたものと同じ
炎の
チッ……あの
グリフィンは右手に白亜の長槍を持ち、左手に
攻防のバランスに優れた鉄壁の姿勢だ。
こいつと長期戦をやることになれば、
「不正プログラムそのものに意味などないさ。こんなものはただの手段に過ぎん。俺が新たなる世界で永遠に生きるためのな」
「てめえの寝言は聞き飽きた。永遠に生きたいだ? そんなもんは死ぬのが怖いと泣くガキの
そう毒づく俺にグリフィンは
「しょせん一NPCとしての生に甘んじるしかない貴様らしい浅はかな考えだな。私は死など恐れぬさ。なぜならもうすぐ私は
そう言うとグリフィンは
その
俺は身を
ある程度予想していた攻撃だったために回避することが出来たが、
「チッ! やっぱりさっきの光線はてめえの
「動力室で貴様を仕留められれば楽だったんだがな」
そう言うとグリフィンは長槍と
こりゃ簡単にはいかねえな。
グリフィンから離れれば光線に
攻守に優れた技術を持つグリフィンを前にしていると、かつて同じように
「おっと。もう一つ準備を忘れていた。さっきここから
そう言うとグリフィンはパチンと指を鳴らした。
するとゴウンと何かが作動する音がして、ふいに地面が大きく揺れた。
「うおっ!」
俺は思わず身を
そして何が起きているのか悟った。
地面が急激に上昇しているんだ。
そして上昇が止まったのか揺れが収まると、等間隔に
耳に響く
東側は水平線しか見えないが、西側にはフーシェ島の海岸線が見えている。
海風を浴びながらグリフィンが満足げに言った。
「地下にあったこの部屋を上昇させ、ちょっとした塔に変化させた。地上20メートルといったところか。これでいくら水の流れを呼び寄せようとも、水は塔の外へ
そういうことか。
不正プログラムを使うグリフィンならではの芸当だ。
壁がないこの状況では、海竜の
「さて。お待ちかねの戦闘再開といこうか。炎獄鬼殿」
そう言うとグリフィンは再び
俺は左右に飛びながらそれをかわすが、グリフィンは光線を撃ちながらジリジリと距離を詰めてくる。
持久戦はお好みじゃないってことか。
一気にケリをつけるつもりだな。
俺も至近距離からの光線を避けるために後退せざるを得ない。
さすがにこれ以上距離を詰められると光線を避けきれねえ。
そんな俺の様子を見てグリフィンはつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「フンッ。どうした? 逃げ回るだけか? どうせなら
チッ。
奴は出来ればここで俺を仕留めたいはずだ。
俺の負けん気を刺激して逃げる気を起こさせない算段なんだろう。
一方で俺に時間と労力を
俺がこの塔の外に出た
「ハッ。憎たらしいてめえをぶん
そう言うと俺は再び
グリフィンは余裕の表情で
だが俺は
「
「ぬうっ!」
この硬い床石の下には水分がないために熱湯は噴出しないが、それを見越して俺は自らの炎を直接送り込んでやったんだ。
足をそれによって焼かれたグリフィンはダメージを負って
「しゃあっ!」
俺はその
「ナメるなっ!」
そんな俺を撃ち落とそうととグリフィンは光線を放つが、それを予想していた俺は飛び上がった勢いで体の向きを反転させ、天井を足で蹴って急降下する。
光線は俺のすぐ脇をすり抜けていき、俺は地面に着地すると同時にもう一度、
再びグリフィンの足元から火柱が上がる。
「ぐっ!」
グリフィンは足を焼かれまいと
だが、そこに
俺は地面を思い切り蹴って、最高速度でグリフィンに襲いかかった。
「オラアッ!」
「ガハッ!」
間合いを詰めた俺はグリフィンの横っ面を思い切り拳で
ガツンという確かな手ごたえを感じ、そこから俺は一気に
「オラオラオラオラァッ!」
「くうっ! おのれぇぇぇぇぇっ!」
この好機を逃すわけにはいかねえ。
俺は魔力を燃やし尽くす気で、全身全霊を込めて拳を振るい続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます