第5話 転移の鏡
「こ、こちらです。バレット様」
前を歩く下級天使のミシェルは緊張の
俺から数メートルの距離をとって進むミシェルの先導で俺は森の中を進む。
つい先ほど俺が偶然見つけた際には
同じく残りライフがわずかとなっていた俺は、ミシェルの回復魔法によって完全回復を果たしていた。
悪魔の俺が怖いのか、ミシェルは少々ビクつきつつ、それでも俺の道案内役を買って出た。
道すがら話すミシェルによれば、ティナの
遠くに逃げ去らずに再び危険を
ミシェルの話でひとつ気付いたのは、俺があのNPC
光りの糸を
だから俺がこっちに戻って来た時、マーカスはまだ天樹を脱出したばかりだったようだ。
「マーカス隊長は当初、南に向かって飛びましたが、私たち追っ手の姿を見ると急降下して森に身を
「飛び去っていったのは
「姿はマーカス隊長そのものだったのですが、今にして思えば幻術のようなものだったのでしょう」
即座にミシェルはそのことを仲間に知らせようとしたのだが、森の中から音もなく照射された光線に羽や足腰を貫かれて気を失ったまま森の中に落下したという。
ミシェルが自分に気付いたことを知り、奴がいち早く対処したんだろう。
抜け目のない野郎だ。
「マーカス隊長にどうしてそんなことが出来たのか、いや、そもそもどうしてマーカス隊長が反逆行為をしてまでティナを……」
そう言うとミシェルは表情を曇らせた。
マーカスの正体を知る者はこの現世では俺しかいない。
事情を知らねえミシェルに俺は知っている事実をぶちまけてやった。
マーカスはグリフィンという天使の乗り物に過ぎないということを。
そしてグリフィンの
「グリフィンは潜入捜査官として隠密行動を得意としていたって話だから、幻術でおまえらを
「そ、そんなことが……」
ミシェルはとても信じられないという顔でしばらく黙り込んでいたが、少し歩いたところで俺を振り返った。
「天使の私たちも知らないそんな重要な
「感心してんじゃねえぞ。そこは後輩の軽率な行動を非難するところだろうが」
俺がそう言うとミシェルはサッと立ち止まり、俺に
すぐに俺もそれに
「このすぐ先に天樹の地下へ通じる隠し通路があります。私たち天使ならば誰でも知っている通路です。おそらくマーカス隊長はそこから天樹に侵入したのでしょう」
「おまえはマーカスの部下だったんだよな? 奴が行きそうな場所に心当たりはあるか?」
俺の言葉にミシェルはわずかに考え込んでから答えた。
「私はマーカス隊長が天樹の塔の地下を度々訪れていたのを知っています。天樹の地下は地下牢や資源室、動力室などがあるのですが、あまり上級職の方が足を運ぶような場所ではないので不思議に思っていました。資源室で物資の残数確認の任に当たっていた時、私はマーカス隊長が動力室に入っていくのを偶然見かけたこともあります」
ミシェルの話によればマーカスは国境防衛から天樹へ異動してきた新任の上級天使ということだから、まだ慣れない天樹の中を
「だけど今にして思えば妙な行動でした。動力室など整備兵くらいしか足を踏み入れない場所なのに」
「そこに何かがあるってことだろう。とにかくそこに案内しろ」
俺の言葉に
森の中の
そこを5分も歩かないうちに俺たちは天樹の地下に足を踏み入れた。
そこは天樹の根の中らしく、一転して木の香りが漂う木肌の天井、壁、床で構成された通路が姿を見せた。
通路の中には巡回の兵士等もおらず、不気味なほど静まり返っている。
「思った通り、マーカス隊長の脱走で天樹の高層階が忙しくなっているため、この地下には人がいません。これが
そう言うとミシェルは俺を動力室へと案内する。
そこは無数の太い管が地下から天井へ向かって伸びていて、その中間点には何やら機械類が取りつけられて、せわしなく動いて機械音を響かせていた。
かなり広い部屋であるにも関わらず、所
「ここは地下から集めたエネルギーを各種の機器で
「奴はここを破壊して天樹を混乱させようとしているんじゃねえのか?」
俺の言葉にミシェルは首を横に振る。
「ここから送られたエネルギーは上層階に十分
声を
身を隠せる場所が多いこの部屋のどこかに、ティナを抱えたマーカス(=グリフィン)が息を
だが、俺はこの部屋に入った時から注意深く周囲の気配を探っているが、どうにも人のいる気配がしない。
機械音が絶えず響いているため物音を聞き分けることが容易ではないこともあるが、誰かに
グリフィンの野郎は本当にここにいるのか?
俺は頭の中に浮かぶ違和感に足を止めた。
奴が動力室に入る目的。
機械類を破壊するでもなく、何をしようというのか。
そう思って顔を上げた俺はそこで気が付いた。
天井のところどころに大きな
いや、天井だけじゃない。
壁の各所や機器類の裏板などに
不思議に思って俺は前を歩くミシェルを呼び止めた。
「あの
「ああ。あれは配管に
なるほど。
そういうことか。
よく考えられている。
俺たち悪魔に比べて天使どもは技術が発達しているし、知識も豊富だ。
天使の
何か引っかかるものを感じた俺は、頭の上から光が反射して足元を照らすのを視界に
瞬間的に肌が
「転がれっ!」
叫ぶと同時に俺は身を投げ出して地面を転がった。
そんな俺の両足の間を焼けるような光線が降り注ぎ、木の床に黒く
危なく体を貫かれる寸前で難を逃れた俺だが、ミシェルはそうはいかなかった。
「ひぐっ……かはっ!」
俺の声に
ミシェルはその口から血を吐き出してその場に倒れる。
「チッ!」
俺は必死に床を転がり、ミシェルの腕を
ミシェルはすでに目の焦点が合っておらず、震える
「バ、バレット様。ティナを……」
そう言ったきりミシェルは事切れて動かなくなった。
チッ……ライフが尽きたんだ。
それにしても一体何が起きたんだ?
俺は最大限の注意を払い、
そんな俺の
ゲームオーバーか。
本人も何が起きたのか分からなかっただろうよ。
俺は天井を見上げる。
さっきの光線は頭上から降ってきた。
天井近くのどこかにグリフィンが
だが、動くものの気配は一切感じられない。
一体どこに……ハッ!
「うおっ!」
俺は今度は
そのすぐ後、俺が一瞬前まで
ま、まただ。
俺のいる位置を正確に
ここも安全じゃねえ。
俺は即座に
頭をフル回転させながら敵の位置を探るが、そんな俺の行く手を全て
俺は自分の感覚だけを頼りに、本当にギリギリのところでそれをかわした。
こ、こいつはヤバイ。
一撃一撃が確実に俺を
どこにいるのか分からんが、グリフィンはここで俺を仕留めるつもりだ。
どこの
まるで全方位に監視カメラがあって、俺の居場所が
監視カメラ?
いや……。
「
そう叫ぶと俺は天井を見上げた。
張り巡らされる配管の間から見える天井の
そしてその
俺はすぐに後方にバックステップで飛び
光線が俺の前方の床を焼いた。
やはりそうか。
どういう原理だか知らねえが、あの
そして俺がどこに隠れようとも、部屋中にある
「くそっ! グリフィンの野郎! 一体どこに隠れていやがる!」
俺は配管の間を走り続け、
光線が放たれる際、
その瞬間を見逃せば、俺はミシェルのように体を貫かれてしまうだろう。
俺はどこかで
だが、相手は抜け目のないグリフィンだ。
それまで一発ずつだった射撃が次第に複数ヶ所から放たれるようになった。
「くそったれが!」
俺は飛んで転がって体をあちこちにぶつけながら必死に光線を避けるが、それも限界だった。
完全には避け切れずに足や腕を光線が
「ぐっ! ち、ちくしょう」
まずいまずいまずい!
このままじゃジリ貧だ。
グリフィンの姿も見ねえで殺されたら泣くに泣けねえぞ。
だが、この部屋から出ようにもこれだけ射撃が激しいと自分の思う方向に進めねえ。
俺は完全にグリフィンの手の上で
どの
そう思ったその時、俺は一枚の奇妙な
その
まるでその
「な、何だありゃ……」
前方から放射される光線をスライディングで避けながら俺は天井のその
「
俺の両手から撃ち出された炎の
それを見た俺は直感した。
あれだ!
だが、
俺をそこに近付かせないつもりか。
上等じゃねえか。
こっちだって打つ手はいくつもあるんだよ。
俺は海竜の
俺はその流れに身を任せて動力室の中を移動する。
相変わらずこの
今だけは
俺は自分の両
そして頭上を見上げて自分の今いる位置を確認する。
そこには例の
俺は両手で管を
「プハッ! うおおおおおおっ!」
動力室をなみなみと満たす水面を飛び出した俺を
だが、俺の方が一手早かった。
「遅いぜっ! ガアアアアアッ!」
俺は
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