第4話 生還
目を開けるとそこは見覚えのある場所だった。
ここは……
さっき俺がグリフィンに見せられた天樹の塔の中にある、分析室の特別
俺は両手両足を
こんな有り様だが……俺は生きて戻って来た。
あの奇妙なNPC
体の感覚を確かめるように腕や足を動かしてみる。
俺を拘束する銀色の
そのことに俺は生きている実感を覚えることが出来た。
次に俺は用心深く視線を
だが木目模様の壁で
そして部屋の中には誰の姿も見当たらない。
だが、この状況をどこからか監視している奴がいるはずだ。
俺は注意しながら体内に魔力を
だが、思うように魔力が体に満ちていかない。
力が封じられているようだ。
ま、そりゃそうだな。
俺は
それも、特別
笑えるぜ。
ふと俺は自分の手足を縛る銀色の
そう言えばティナを銀色の
これは間違いなくあれと同じ
「さて……どうするか」
俺は自分の体をじっと見回した。
ライフは残り少ないが、それでも活動するのに必要最低限は残されている。
メイン・システムを起動することが出来ないから自分のステータスは確認できないが、相変わらずクソ
例によって腕力や攻撃力は半減しているだろう。
今の俺にこの状況を打破することが出来るだろうか。
そう思考を
ティナの奴が余計なお
不意にさっきNPCの
このレッグ・カバーがいざという時に役に立つとか何とか言ってやがったな。
だが両手両足を縛られた状態ではどうすることも出来ない。
くそっ。
腹立たしい。
ムダな努力と分かっていながら、俺は
懸命に力を込めて足を振るう。
もちろんそんな程度では
それでも俺は
すると……俺の太ももに巻かれたレッグ・カバーから何か小さな物が飛び出してきて宙を舞う。
「おっと」
俺はその小指程度の小さな物を落とさないよう、
そしてその正体に気付いた。
これは
そう。
それはティナが礼として受け取った
その効能は確か……。
「これはいけるかもしれねえ」
そう言うと俺は足の指で
そうして顔の前に浮かんだそれを俺は口で
本当は効果を試したいところだが、ここはぶっつけ本番でいくしかねえ。
「ぬぅぅぅぅぅぅっ!」
俺は海竜の
その時だった。
木目調の壁の模様が急に変化したかと思うと、その壁にポッカリと
そこから現れたのは武装した天使の警備兵2名だった。
「おい! 何をしている!」
来た!
待ってたぜ。
俺は間髪入れずに思い切り海竜の
小さな
ブオオオオオオオッ!
まるで竜の鳴き声のような音が響き渡り、その音の大きさに天使の警備兵どもが顔をしかめて
その瞬間だった。
塩気の臭気を放つ水流はすぐに部屋の中を満たし、駆けつけてきた警備兵らはもちろんのこと、俺自身をも巻き込んで押し流していく。
その強大な力に
俺を縛り付けていた
向かう先はこの部屋の唯一の出入口、先ほど警備兵たちが入ってきた壁の
水流は警備兵らを部屋の外に追いやり、次いで俺を壁の
よし!
俺は水流のおかげでまんまと部屋の外に脱出することに成功した。
だが、それでも俺は止まることなく
水流は留まることを知らずに
俺が閉じ込められていた
ほどなくして俺は
あそこだ!
水圧がその窓を
「プハアッ!」
そこは確かに天樹の
俺は自分が水流に乗って天樹の外周通路から外に脱出したことを知り、
そこはおそらく地上から百メートル以上はある高さで、眼下には天樹の根元にまばらな森が広がっていた。
俺は空中を落下しながら身をよじるが、羽を巻き込んで
俺の体は地上に向けてどんどん落下していく。
「くそっ!」
俺は思い切り力を込めて
だが、天樹の外に出た以上、この
今の俺なら……。
「ぬああああっ!」
俺は体内から魔力を放出する。
俺の体から炎が吹き上がった。
そうこうしている間にも俺の体は速度を上げてグングンと地上に落下していく。
くっ。
今のこのライフ量で地面に叩きつけられたら、落下ダメージで一発アウトだ。
俺はありったけの力を込めて
すると銀色の
もう少しだ。
だが、地面はどんどん迫ってくる。
間に合わねえ。
こうなったら……。
「
俺は技の勢いを借り、思い切り力を込めて体を回転させた。
体から
「オラアッ!」
そしてようやく体の自由を取り戻した俺は、即座に羽を広げる。
「くそったれがあぁぁぁぁ!」
俺はその枝に
勢いで腕がちぎれそうになるが、俺はその枝を
だが、三度目の回転で俺の腕が遠心力に耐えられずに枝から外れ、俺はそのまま地面の茂みの中に突っ込んだ。
「うげええええっ! イテテテッ!」
体のあちこちを草木の小枝に叩かれながら、ようやく俺は地面の上を転がって止まることが出来た。
ライフは多少減ったものの、尽きてしまうほどではなく、何とかゲームオーバーは
「あ、危ねえ……せっかく脱出したってのに、ここで死んだアホだろ」
俺の体にはまだ
ライフが尽きればそれでジ・エンドになっちまうからな。
それにしても久しぶりに自分の体に戻ったせいか、まだ以前のようには動けねえな。
早く慣れる必要がある。
「それにしてもこいつはすげえな」
俺はさっきまで口に
伝説の海竜の姿を
特にああいった建物内では効果絶大だ。
敵を一掃出来るだろう。
俺はその
そのレッグ・カバーをめくると、そこにはこの
そしてその裏貼りに指を触れた
それはティナからのメッセージだった。
【バレットさん。この
「あいつ……こんなもんを残してやがったのか……アホめ」
まったく本当にどうしようもないアホだ。
俺が魔王になることなんざ万に一つもありえねえし、もしそうなったとしてもその頃にはおまえは天使長だろうが。
どのツラ下げてそんなことを自慢するつもりなんだ。
俺は
あの小娘にもう一度世の中の厳しさを叩き込んでやりたくなる。
現実を突きつけてやりたくなる。
まあ、そんなことをしてもあいつは泣いたり笑ったりするだけで
だが、このままでは済まさねえ。
俺の気が済まねえ。
「とにかくグリフィンをぶっ
そう言うと俺は茂みの中から立ち上がった。
まずはライフを回復しておかねえと。
それから……ん?
そこで俺は気が付いた。
立ち上がった俺の視界の
十数メートル先の茂みの中から横たわる足が見えている。
それはおそらく女のものだ。
俺は注意深く茂みをかき分けて進んでいき、倒れている人物を見下ろした。
それは天使の女だった。
体中が傷つき、気を失っていたがまだ息はあるようだ。
俺と同じように落下してきたような
俺はその天使の女の顔に注目した。
「ん? こいつは確か……」
俺はその女の顔に見覚えがあった。
この女はフーシェ島で見たミシェルとかいうティナの先輩だ。
何でこんな場所に?
俺はミシェルの肩に手をかけて揺り動かした。
「おい。何してんだ。起きろ」
俺がそう声をかけるとミシェルは表情を
「うぅ……ティナ」
そう言うとミシェルはハッと目を覚ました。
そして俺の顔を見て、わずかに表情を引きつらせる。
「あ、あなたは……バレット様」
「何があった?」
そう言う俺に、ミシェルの顔が何かを思い出したように青ざめる。
「マ、マーカス隊長がティナをさらって逃げたのです。私を含めた数名の天使が追撃をかけましたが、私はあえなく撃ち落とされてしまって……」
「そういうことか……マーカスの野郎はどの方角に逃げた?」
俺がそう言うとミシェルは顔を曇らせ、どういうわけか天樹の方を指差して言った。
「私、確かに見たんです。天樹の塔から脱出したはずのマーカス隊長が、なぜか再び天樹の根元へと舞い戻っていくのを」
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