行き詰まりの中の逃避行
(さて、任せろとは言ってみたものの実際、どうしたものかな?)
キュアレスは苦笑しつつ、周囲を見回した。
当然の事だが、この状況は突発的に発生したものであるが故に計画性は皆無である。
故に次の行動方針を決めようにも全ては、その場しのぎの思い付きに頼らざる得なかった。
だが、そんな状況下にあっても明確に断言できる物事は幾つかある。
先ず一つには、逃亡資金の問題だ。
考えるまでもない事だが現在の世は電子マネーが主流の為、所持金が使用不能になる手続きに関しては迅速である。
ギアス・コマンドが機能を停止してから約二十秒。
ならば異常事態に気が付いたインビジブルが、銀行に手を回し口座が凍結されるまでに後十秒といった所であろう。
それならば逃走に必要な物質は電子マネー意外で揃えるしかなくなるが、現金で物質を揃えるしかなくなるのだがーー。
(いや、恐らく俺達の逃走がバレた後に、インビジブルは俺が現金で物質を揃えた考えるだろうな?)
キュアレスは、冷静に状況を整理した。
そうなると所在がバレるのは正しく時間の問題となる。
何故なら、この中央都市リュナレスで現金を使える区画は限られているからだ。
つまり、この都市で現金の使用は自ら居場所を知らせるようなものなのである。
(となると逃走しながらの現地調達以外に方法はないなーー。
だが、現地調達するにしても何処に逃げる?)
残り少ない時間の中、キュアレスは幾つもの逃走手段を思考する。
しかし、幾ら思考を巡らせようと簡単に逃走手段には辿り着かないのは必然だった。
だがーー。
(いや、待てよ.....あれならイケるか?)
キュアレスはある一つの逃走手段を思い出し、思わず苦笑した。
(ふふっ....まさか、実際にこの方法を使う事になるとはなーー?)
ーーーーーー
「うんーー?
おやおや、任務中のQシリーズの一人に異常事態があったみたいですね?」
「ほう、異常事態ねぇ、差し詰め返り討ちにでもあったのかな?
だが、そんな事、日常茶飯事だろ?」
「いえいえクエス、それが小娘を始末する程度の簡単な任務での異常事態なのですが、奇妙な事にギアス・コマンドの機能そのものが消失したとの事のようです。」
「それは本当か、ビクトリス?
つまり、ターゲットの小娘にそのQシリーズの輩がギアス・コマンドごと消されたという事なのか?
だが、そうなるとレベル1か2程度の雑兵が差し詰め油断して殺されたって所だろうな?」
「それなんですが、反応が消えたのはレベル4のQシリーズです。」
「なるほど、確かにそれは妙だな?
レベル4の能力者ならば、常人がどうこうできる筈もないな。
これはどういう事だ?」
「まあ、そうですね。
何かしらの方法でギアス・コマンドを停止させ、逃亡した可能も考えられますが?」
「馬鹿な、それこそ夢物語だな。
ギアス・コマンドは個々の神経に直結しているナノマシンだぞ。
そんな物をどうやって外せるというのだ?」
「確かに、普通に関してはそうですね。
しかし、前例が無い訳ではありますまい?」
「だが、それは相応の実力があればの話だ。
しかし、何にしても確かめる必要はあるな?」
「えぇ、勿論そうでしょうね?
一応、レベル5の能力者を三人が確認に向かっていますよ。」
「なるほど、それなら問題ないな。
まあ、所詮は下らん事なのだろうがな?」
「さて、それはどうかしらね、クエス?
それは確かめてみてからじゃないと、分からないわよ?」
「ふん、キャルトか?
それはどういう意味だ?」
赤いスーツの大男クエスは、黒いドレスを纏う妖艶なる女性キャルトへと問いかけた。
キャルトは妖艶な笑みを浮かべると、冷たい氷のような口調でクエスに告げる。
「少し考えてみたらどうかしら。
中央都市リュナレスでは、ここ何年も秩序が崩れた試しがないのよ?
それぐらい警備は厳重なこの地で、僅かなりにもイレギュラーな事柄が起こったとするなら、それはインビジブルにとって決して小さなものとは言えないでしょ?」
「ふん、小さな歪みなど直ぐに修正されるだろ?
こんな下らん事に拘るとは漆黒の魔女と呼ばれるキャルト・ムーンライトも堕ちたものだな?」
「ふふ、それはどうかしらね?
それは案外、鮮血の悪鬼と呼ばれる貴方の方かも知れないわよ、クエス・ローガン?」
「言ってろ、もっとも戦争の一つもないから平和過ぎて正直つまらぬからな。
少しくらい騒がし方が面白いであろう?
お主もそう思わぬか、ビクトリスよ?」
「いえ、私はどちらかというと平和な方が良いですね、あまり直接的な戦いは好きではありませんので。」
「ふー、随分と臆病な事だな?
栄光あるネームズの一員にして謀略の奇術師との忌み名で他者に恐れられている者の言葉とは到底思えぬぞ、ビクトリス・カーディナルよ?」
「何を言われますクエス。
臆病さは弱さとは限りませんよ?」
苦笑しつつビクトリスは、クエスへと告げた。
「ふん、どうだかな?
俺には単なる言い訳にしか聞こえぬが?」
「さあ、どうかしら?
意外とそうとばかりは言えないかもしれないわよ、クエス?」
「キャルト、お前まで何の冗談だ?」
「いえ、何も強さは単純な能力の強さだけとは限らないって話よ。
狡猾さや冷静さは能力を何倍にも高める要素に成り得るものねーー?」
「ふん、俺には理解出来ぬな。
そんなもの何の役に立つ?」
「いずれ分かる日がくると思うわよ。」
キャルトはクエスに向けて、妖しく微笑んだ。
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