ダークネス・ブライト

キャラ&シイ

【序章】持たざる者

暗闇を舞う白....。

薄暗い闇の夜に退廃した街並みが点在する。 

それはまるで、この腐敗した世界を彩る黒と白の色のようであった。

 

(やれやれ、こんな日の夜に殺しの依頼とはな?

実に下らない限りだ....。)

 

青年は白き雪が舞い散る空を見上げながら、うんざりとした口調で呟く。

黒髪に黒いコート、頭の上から足の下まで全身黒づくめの青年。


(殺し屋ってのは因果な商売だな。

全くもって下らない。)


青年は苛立ちながら降り積もる雪を見詰める。

しかし、青年が苛立つのも当然だった。

何故なら殺し屋の道は青年が望んで選んだものではなかったからである。

しかし、だからといって青年には選ぶ権利も選択肢もなかった。


(くそっ....よりによって殺すべき対象が少女だと。

ふざけるなよインビジブル!)


そう....巨大暗殺組織インジブルで生まれ、最初から殺し屋として育てられた青年に、選択肢などある筈もない。

青年はインビジブルにとって、ただの道具。

任務を果たせない道具は廃棄される以外に道はなかった。


(時間か....気が進まないが仕方がない。

道具の俺には所詮、選択肢など無いのだからな。)


青年は懐に右手を入れ、コート内側のホルダーから拳銃を取り出す。

その直後、暗がりの奥から足音が響き人影が見え始める。


青年は首の周囲で周回し続ける緑光の首輪、ギアス・コマンドからターゲット情報を再度、確認した。

ターゲットの名はミレナ・ストライフ。

組織を裏切り、行方を眩ました科学者アルレヒド・ストライフ博士の一人娘である。


つまり青年の仕事は組織を裏切ったストライフ博士に対し、見せしめとして娘の死を突き付ける事であった。


(ストライフ博士、何で組織を裏切った?

貴方は分かっていた筈だ....こうなる事をーー。)


青年はため息をつきながら、ミレナの歩みを静かに見詰める。

そして望む望まざるに関わらず、その瞬間は訪れた。


「お父さん?」


白いコートを羽織った少女ミレナは暗がりより、そこに居る何者かを確認するべく問いかける。

しかし、そんなミレナに向けて青年はその思いを打ち砕くかのようにミレナに向けて告げた。


「残念だが君の父親はここには来ない。」


「えっ....どういう事ですか?

貴方は一体?」


ミレナは戸惑いながら青年へと問いかける。


「俺か....俺は君を殺しにきた殺し屋さ。」


青年がミレナにそう告げた瞬間、緊張感が周囲に漂う。

無理からぬ事であった。

いきなり現れて自分を殺しにきたと言われたなら、どのような者であろうと恐怖で動けなくなるのは必然であろう。


(無理もない反応か....。

普通に生きてきた少女が、いきなり死の宣告されたのだからな。)


青年はミレナを方を見据えながら、そんな事をふと考える。

そして、なるべく痛みや恐怖を感じないように殺してあげようと青年は思った。


青年がそう考えたのは無力な少女を殺すなど、青年にとっても不本意極まりない仕事だったからである。

しかしーー。


「そうですか、貴方がお父さんが言っていた方なのですね?」


「えっーー?

君は何を言っているんだ?」


「お父さんが言っていました。

もし私と会えなかったら、そこに来た人の助けになってあげなさいってーー。」


「助ける....!?

君は一体、何の話をしている??」


ミレナが告げる予想外の一言に青年は、動揺していた。

だが、それは至極当然の事であろう。

何処の世界に自分を殺しに来た相手を助けようなどと、考える者が居ようかーー?


(ストライフ博士、一体何を考えている?

貴方は娘を死なせる気なのか?)


青年は明らかに動揺していた。

何故なら、それは今までない事柄だったからである。

しかし、そんな青年の動揺などお構い無しにミレナは言葉を続けた。


「知っているかも知れませんが、私の名前はミレナ・ストライフと申します。

貴方の名前を教え頂いて宜しいでしょうか?」


「名前は無い。

あるのはシリーズナンバーだけだ。」


ミレナの行動に戸惑いながらも、青年はミレナへと答える。


「シリーズナンバーですか?

でしたら、それを教えて頂けますか?」


「ストライフ博士もそうだが、変わっているな君は....?

まぁ、いい。

俺のシリーズナンバーはQDBP1973だ。

君の父親であるストライフ博士によって作られた者の一人だ、これで満足したかな?」


「QDBP....ですか。

....名前、キュアレスってのは、どうでしょうか?」


「キュディか....そうだな悪くない名前だ。

でも、すまないな。

俺達イレイザーズは勝手に名前を名乗れないんだ。」


QDBP1973はそう告げながら、拳銃をミレナに向けた。

だが、その直後、ミレナはQDBP1973に微笑みながら言う。


「大丈夫です、貴方の事は私が助けますから。」


(全く何を考えているんだストライフ博士も、この娘もーーだが......。) 


QDBP1937は少し呆れながらも、そんなミレナに対し、こんな思いが過る。


ーーこの少女を....ミレナを殺したくはないとーー


だが、イレイザーズは命令に背く事が出来ない事を、QDBP1937は痛いほど良く知っていた。

イレイザーズにとって任務実行は絶対である。

もし、その任務を放棄しようとした場合ギアス・コマンドを介して、強制力が働くからだ。


そして、組織の命令に背いた者の末路は廃棄処分と決まっていたのである。

つまり、どう足掻こうと命令は確実に実行され結果は変わらないのだ。

変わるのは自分への処遇だけである。


だがーー。


(ふふっ....どうせ、今の状況は生きているとは言い難いしな。

何より生きて何かを成したいといった目的もない。

なら、最後くらい出来る限りの抵抗くらいはしてみるか?)


覚悟を決めQDBP1937は、ミレナへと告げた。


「早く逃げるんだミレナ。

出来る限り強制力に対して抵抗はしてみるが、恐らく一分と持たないだろうからな?」


QDBP1937は自身の固有能力である意志能力【ウィル・スキル】を発動させ周囲の建物の一部を変形させ、自分の全身を拘束状態にする。

命令違反後に強制力が発動するまで要する時間は、約十秒前後。

しかし、それでもミレナが逃げきるには、時間として不十分であった。


しかしーー。


「何をしている!?

早く逃げろーー!」


「大丈夫です、私は逃げません。

貴方を助けるって決めましたから。」


「馬鹿な事はよせ、ミレナ!」


だが、ミレナは首を横に振りながらQDBP1937へと歩み寄る。


(くそっ、何でこうなる?)


正直、QDBP1937は自分の選択を後悔していた。

結局、自分は何も出来ずに終わるのかと、そんな絶望だけがQDBP1937の心の中に沸き上がる。


しかしーー。


(何故だ....ミレナ?

何故この状況で、そんなに優しい笑顔が出来るんだ?)


QDBP1937は困惑していた。

何故なら無力な少女は本気で、自分を助けるつもりでいるとしか思えなかったからである。


「大丈夫です、任せてください。」


ミレナはそう告げながらQDBP1937の頬に、手を宛がった。


(一体何をする気だ、ミレナはーー?)


「成る程、この緑光の首輪が自由を奪っているんですね。」


ミレナは一人納得するようにそう呟くと、目を閉じる。

そして、それと同時にミレナの両手より白い光が発せられた。


(なっ......そんな馬鹿な!?

意志能力【ウィル・スキル】だと?

だが、何故だ....イレイザーズでもない者が何故、意志能力【ウィル・スキル】を使えるんだ!?)


信じられない状況を目の当たりにし、QDBP1937は驚愕する。

何故なら意志能力【ウィル・スキル】は、イレイザーズにのみ与えられた特殊な能力だったからだ。

そもそも強化人間でもない普通の人間が、意志能力【ウィル・スキル】を使ったならば、使用者への精神的負荷は計り知れない。


いや、強化人間であるイレイザーズですら意志能力【ウィル・スキル】を使いこなす為に、過酷な訓練を必要とするのである。

ならば、ミレナの身にこれから起こる状況は想像に難くない事柄だと言えた。


「止めるんだ、死ぬ気かミレナ!?」


「大丈夫です、私は任せておいてください。」


そして、それはミレナがQDBP1937にそう告げ終わったのとほぼ同時であった。

突然、ギアス・コマンドの緑色の光が霧散する。


「なっ......ギアス・コマンドの強制力が停止しただと?

ナノマシンを破壊したのか、ミレナ?」


「いえ......無害化しただけです。」


「そうか....ありがとう。

それはそうと早く、ここから逃げないとな。

ギアス・コマンドの信号が途切れた以上、次のイレイザーズがここに来るだろうからな?」


「はい、分かりました。

所で貴方の事は、何て呼べばーー?」


「そうだな、ならキュアレスと呼んでくれ。」


「分かりました。

キュアレス、これから宜しくお願いします。」


「あぁ、任せてくれーー。」


キュアレスは自らを拘束を解くと、微笑みながらミレナの方へと右手を差し出した。

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