第16話 高利貸し始めました

メインクエストの歩合が入り、羽振りが良くなった為かリンシャンテンが目に見えて贅沢をしはじめた。

「うわ~ここのレストランにくるのなんて何千年ぶりでしょうか~」

リンシャンテンが俺を連れてきたのは、街の郊外の高台にある、コジャレたレストランであった。


「見るからに高そうだな」

「はい、凄く高いお店ですよ」

「俺は1Gも払わんからな」

「もちろん、今日は私の奢りです、沢山食べて下さいね」

金が入るとここまで人は変われるものかと言うくらいに、リンシャンテンの気は大きくなっていた。


「いらっしゃいませ、下々の人種のゲスなお客さま」

店に入ると、きちっとしたスーツを着こなした、英国紳士風の男がそう出迎えてくれる……というか、今、ゲスとか言わなかったか?

「予約していないのですが、大丈夫ですか」

リンシャンテンがその英国紳士風の男にそう尋ねると、ニッコリと微笑みこう返事する。

「はい、本日はお席の空きがございますので、少ない収入から、必死でお貯めになった、そのなけなしの有り金を、余すことなくお使いください」


うむ……この男……言い方がちょっと気になるな──俺が接客する英国紳士風の男に疑問を感じたのだが、リンシャンテンは気にすることもなく、ニコニコ機嫌よくしている。おそらくこのダメ女神、あまりにも久しぶりの贅沢に気が動転しているのだろう。


席に案内されると、英国紳士風の男の言葉は一段と辛辣さを増す。

「貧乏な──もとい! あまり裕福ではないお客様には、この一番安い、サイクロプスのコースはいかがでしょうか、こちらでしたら貧困に苦しむ──もとい! お金にお困りのお客様にもギリギリお支払い頂ける金額となっております」

そんな失礼な英国紳士風の男に、リンシャンテンはニコニコとこう言った。

「今日はお金に余裕がありますので、ギガンテスコースをお願いします」

それを聞いた英国紳士風の男は、何かを考えているのか動きを止める……

「え⁉ ギガンテスコースは、お客様のような下々の者にはとても払えないような高額なコースですがよろしいのですか?」

「もちろん大丈夫です!」

「わかりました、では、ギガンテスコースを用意させていただきます──あと、お飲み物はどういたしますか」

「コースに合うワインをお任せします」

ワインの知識などないであろうダメ女神はそう言うのが精一杯であった。


「うわ……すごいですね……こんな豪華な料理初めてです……」

「確かにすごいな……でも、かなり高そうだけど、本当に大丈夫なのか?」

「任せて下さい! メインクエストの歩合は本当にすごいんですから、これくらいへっちゃらです!」


そう息巻いていたのはいつの話か……いざ、お会計になると状況は一変する……


「三十万G……え⁉ ちょっと待ってください! 前によくきてた時は、高くても一万前後だったじゃないですか!」

「そんなのいつの話ですか……当店は五年目の、ミュシュリンで三ツ星を取得してからは、値上げしておりますし、お客様の飲んだワインは、五十年物の逸品ですよ、これくらいの値段は当然です」

「なぁっ……うっ…………」

すでにリンシャンテンは涙目だ……財布を持つ手は震えている──

「け……健作さん……い……いくらくらい手持ちありますか……」

「メインクエストのクリア報酬をそのまま持ってるから、五十万くらはあるぞ」

「ちょっと……払ってもらうわけには…………」

「馬鹿者! 俺は店に入る前に、1Gも払わんぞと警告したよな!」

「そうですけど……まさかこんなに値上がりしてるなんて思わなかったので……」

「仕方ない……まあ、俺も食べたのは事実だし、ほんの少し、極めて軽微ではあるが支払う義務があるかもしれん……なので『といち』で貸してやろう」

「……『といち』ってなんですか?」

「十日で一割だけ、利子が付くってことだ」

「なるほど……ってどういうことですか?」

「脳みそあるのかダメ女神!」

「せ……正確に言うとありません!」

「確かにそうだが、この場合はあるていで話せ! いいか、たとえば、三十万貸したら、十日後には三三万で返せってことだ、二十日後ならさらに利子が付いて三六万三千、さらに三十日後なら三十九万九千とどんどん利子は増えていくのだ」

「ええ~! そんなの嫌ですよ……」

「確かに聞いてると嫌な気がしてくるがな、いいか、十日以内で全部返しちゃえば、利子は0Gだぞ」

「あ……なるほど……そうか、十日以内に返せばいいんですね、わかりました、それじゃ借ります」

ふっ……馬鹿女神が……歩合給のお前が、どうやって十日以内に返すんだよ……


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