第15話 そこまでしてくれる

「ヘボ女神、どうだ、ダメージは与えてるのか」

俺の攻撃が効いているのか分からない……仕方ないのでリンシャンテンに確認させる。


「ダメージ与えてますよ!」

「いくつだ?」

「今の一撃で32のダメージを与えました」

「それは高いのか?」

数値を言われても分からないので、さらにそう問うと、リンシャンテンは涼しい表情でこう答えた。

「ミュレイさんのヒットポイントは十二万超えなのでぜんぜんです」

「十二万! 日が暮れるではないか!」

「今日中には無理そうですね……明日になったらミュレイさんのヒットポイントも回復しますし……ハハハッ……どうしましょう……」

「やっぱり無理ではないか」

俺とリンシャンテンが、これは無理だという結論に至ろうとした時、またまたミュレイが解決案を出してくる。


「あのさ、何も全ダメージを健作が与える必要ないんだよな、だったら瀕死まで私の部下たちにダメージを与えさせて、止めを健作がするっていうのはどうだ」

意外な提案にダメ女神は考えるフリをしてこう言う。

「た……確かにキル権利は止めを刺した者に与えられますのでそれで大丈夫かもしれませんけど……」

「ちょっと待て、部下に自分をボコボコにしろって命令するんだろ……痛いだろうし……大丈夫なのか……」

「気にするな、痛いのは実は嫌いじゃないんだ」

そのセリフが本気かどうかわからないけど、本気ならそれはそれでちょっと問題あるような気がするぞ……

「ミュレイさん、そんな趣味があるんですか!」

バカ女神はデリカシーがないのかストレートな反応をする。

「趣味というのとは違うけど、痛みを感じると生きてるって実感するし、普段感じる感覚が良くないか」

「実感ですか……まあ、そうかもしれませんけど、私は痛くない方がいいです……」

同じAIレベルでも、育った環境が違うとこうも思考が変わるのかと感心する。


ということで、ミュレイは部下たちに集めると自分を攻撃するように命令した。

「いいんですかあねさん、思いっきり行きますぜ」

「かまわない、どんどん攻撃してくれ」

そんなに理由を理解せず、ミュレイの部下たちは問答無用でミュレイを攻撃し始めた。


流石は俺より遥かに高レベルの部下たちである、どんどんミュレイのヒットポイントを削っていく──そしてミュレイが、かなりに瀕死の状態となったところで俺とバトンタッチする。


「よし、いくぞ、ミュレイ!」

そう声をかけて赤竜の剣を振り下ろした。やはり低レベルの俺の攻撃は弱いようで、一撃では倒せなかったが、何度も攻撃すると、ブシュっという音とともに、ミュレイの体が消滅する。

「やった、倒しましたよ、健作さん」

ミュレイの体が消滅すると、レベルアップを知らせる音とエフェクト、それとクエストの達成を知らせるアラームが同時に鳴り響いた。


消滅したミュレイは、数分後にはなにもなかったようにその場に現れた。

「うまくいったみたいだな、よかったな、健作」

「まあ、よかったのはこのヘボ女神だけどな」

リンシャンテンはメインクエスト達成がよほど嬉しいのか、ニタニタと笑いながら何か計算している……おそらく歩合の収入の使い方を想像しているのだろうが、その姿にもはや女神の面影はない。


クエストも完了して、俺とリンシャンテンはアジトを後にする。ミュレイは去り際に寂しい表情で、また来てくれよと言っていたが、そんなに寂しいのなら、このダメ女神みたいに俺についてくればいいのに……そう思ったのだが、リンシャンテンの話ではそれがどうやら無理なようだ。


「行動範囲制限?」

「そうなんです、ミュレイさんには行動範囲の制限が付いてるんですよ、ですから私みたいにウロウロすることができないんです」

「どうしてそんな制限があるんだよ」

「そりゃそうですよ、よく考えて下さい、ボスキャラとかが街のその辺ウロウロしてたら大変でしょ? ですからキャラの役割によっては行動が制限されてるんです」


まあ、確かに話を聞けば理解するけど……ミュレイは強いから役にたちそうなんだよな……どうせならこのヘボ女神と立場を交代して欲しいものだ。


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