第14話 優しく有能
俺とリンシャンテンがごちゃごちゃ言い合いをしているのを聞いていたのか、ミュレイがこう言ってきた。
「あのさ、あれだったら私たちを倒していくかい?」
そう声をかけてきたミュレイは笑顔であった──
「倒していくってわざと負けるってことか?」
「まあな、私たちがそっちの都合も考えもしないで強くなりすぎたのも原因でもあるし、私は倒されてもすぐに復活するしな」
確かにゲームのボスキャラなんて、誰かが倒しても、次のプレイヤーの為にすぐに復活しているイメージはあるが……
「本当ですか、助かります~健作さん、ほら、ミュレイさんがこう言ってくれてますし、さくっと倒しちゃいましょう!」
コイツはなんとデリカシーが無い奴なのだ……俺はリンシャンテンの頭を中々の力で叩いた。
「痛った~い……何するんですか、攻撃するのはミュレイさんですよ!」
「馬鹿者! ミュレイはお前と同じAIレベルなんだろ、だったら同じように痛みを感じるんじゃないのか、いくらすぐに復活するとしても、こんなもんじゃない痛みを受けるんだぞ!」
鈍い馬鹿女神にそう教えてやると、さすがに状況がわかったのか、ミュレイに申し訳ない表情をする。
「ミュレイさん……ごめんなさい、私、自分の歩合のことしか考えてませんでした……」
「気にするな、私だって歩合だったら同じように考えるさ」
それを聞いたリンシャンテンの表情が変わる。
「ちょっと待ってください……ミュレイさんは歩合じゃないんですか?」
「私は固定給だよ」
「ど……どうしてですか! どうして私だけ歩合なんですか! 固定給ってどれくらい貰ってるのですか!」
ミュレイにしがみ付きながらリンシャンテンが訴える。
「え……そんなこと私に聞かれても……」
ミュレイが困っているのでリンシャンテンの頭を叩いて止めた。
「いった~い……」
頭を抱えて痛がるへぼ女神は放っておいて、ミュレイと話を進める。
「まあ、こんな奴の歩合の為に痛い思いする必要ないぞ」
「はははっ、歩合の為だけってことでもないんだ、それが自分の役目ってのも理解してるからな、ひとつのケジメみたいなもんだ」
なんとで気の良いAIなのだ、本当にへぼ女神と同じAIランクとは思えない──
リンシャンテンの為ってこともないが報酬もあるし、ミュレイの言葉に甘え討伐させてもらうことになった。
「よし、それでは攻撃するぞ」
リラックスして俺の前に立つミュレイは微笑みながら──
「ああ、いつでもいいよ、私の弱点は首あたりだからそこを狙うといい」
俺は、ほんの少しだけ躊躇するが、思いっきりミュレイの首筋に短剣で攻撃した。
カキーン!
とても人肌を攻撃したとは思えないような高い音が響いて短剣が弾き返される。
「く……想像以上に硬いぞ……」
「ミュレイさんの防御力は9300ですからね、並みの攻撃じゃダメージは与えられませんよ」
リンシャンテンがドヤ顔で説明する。
「……ちなみに俺の攻撃力はいくつだ」
「健作さんの攻撃力は、鉄の短剣の補正を加えても37です」
「……そんなに差があったら、ダメージなんて与えられないんじゃないのか?」
「うふふふっ、そりゃそうですよ、攻撃力と防御力の差がそんなにあったら弱点狙っても、クリティカル補正が付いても0ダメージです」
ゴツン!
無の表情で脳無し女神の頭をグーで殴ると、ミュレイに向き直す。
「悪いが君を倒すのは物理的に無理のようだ、今度の機会にしよう」
俺がそう言うと、ミュレイはなにやら少し考え、何かを閃くと、ちょっと待ってと言って裏へと消えていった。しばらく待っていると、ミュレイは一振りの剣を持って戻ってくる。
「これを使ってみるといいよ、攻撃力はかなりあると思う」
ミュレイが渡してきたのは赤い刀身の剣で、一目で強力な武器であることがわかるものであった。
「すご~い、赤竜の剣じゃないですか、しかも覚醒している……健作さん、この剣の攻撃力は3000ですから、健作さんでもなんとかミュレイさんにダメージを与えられますよ」
『でも』って言い回しは気になるがそこはスルーしてやる。俺は剣をミュレイから受け取って構えた。
「剣まで用意させて悪いな」
「かまわないよ、さっさとやってくれ」
俺は思いっきりミュレイの首筋に剣を振り下ろした。『ガッ』と鈍い音が響く、さっきとは違う感覚だが、果たしてダメージは与えられたのか……ミュレイの表情はまったく変わっていないのでよくわからなかった──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます