第13話 盗賊は脱ぎません
盗賊団のボスは、円形の机の上で胡坐をかいて座っている──俺たちは呼ばれるままにボスに近づいた。
「それで、今日は何しにここへきたんだ」
「お前たちを成敗しにきたんだ」
隠しても仕方ないので、正直に答えてやった。
「まあ、そうだよな、確かメインクエストで私らを成敗する話になってるいるんだったっけ」
盗賊ボスのその言葉にちょっと驚いた、まさかNPCからメインクエストなんて単語が出てくるとは……
「ほほう……、もしかしてお前はこの世界がゲームだってことを理解してるのか」
俺がそう言うと、盗賊団のボスは少し笑いながらそれを肯定する。
「まあ、ゲームっていうのはよくわからないけど、そういう世界だっていうのは理解している。まあ、それに気が付いたのは千年くらい前だけどな」
それを聞いたバカ女神が、恐ろしいほど驚いている。
「ちょっと待って! ええ~! それが本当なら、色々とおかしな話になってくるんですけど……」
リンシャンテンは不測の事態に慌てている……小心者め、少しは落ち着けよな。
「もしかしてだけど、お前ってAIレベルが高いのか?」
人工知能としての性能が高くなければありえない話なので、そう聞いたのだが、その答えは出しゃばったヘボ女神が答える。
「盗賊団のボスの彼女は、実はこのゲームの超重要キャラですのでAIレベルは私と同じで最高ランクですよ」
「それを知ってて、なに驚いてんだよ!」
「ええ~! だって私が彼女と同じ立場なら絶対気が付きませんもの……」
こいつと目の前の盗賊団のボスが同じAIレベルって、なにかの間違いじゃないのか……明らかに向こうの方が性能が上のように思えるぞ。
そんな俺たちのやりとりに、何が面白いのか、盗賊団のボスは腹を抱えて笑っている。
「いやいや、こんなに楽しいのは久しぶりだよ、あっ、失礼、そうだ、私たちを倒しに来たんだよな、こっちの方が人数が多いから、一体一で相手をするよ、もう始めるかい?」
なんと知的で高潔な対応なのだ、やはりリンシャンテンと同レベルとは思えん。
「いや、なぜか想定と違ってお前らが強すぎるので勝てそうにない、なので今回はやめておこう」
俺がそう言うと、女ボスは笑顔でこう話す。
「そうか……そうだよな──なにせ私に変な知恵がついたせいで、日頃、暇に感じるようになったから、暇つぶしに部下たちと体を鍛えまくってたからな……そうか、そんなに強くなってるのか……」
なるほど、それでこいつら強いのか……そりゃ千年近くも鍛えてれば強くもなるよな……
「と、いうことで出直すことにする」
俺がそう言うと、女ボスは眉を細めて少し寂しい顔をした。
「そ……そうか、あっ、そうだ、私の名前、言ってなかったよな、私はミュレイ、あのさ、もし、嫌じゃなかったら、クエストとか関係なしにまた遊びに来てくれるか……部下たちとじゃ、単純な話しかできないから面白くなくってさ……」
ちょっと恥じらいのあるその物言いが少し可愛い……俺は少し考えるフリをしてこう答えた。
「うむ、考えておく」
上から目線で偉そうな俺の言葉だが、ミュレイは嬉しそうに微笑んだ。
これで話は終わり帰ろうとしたのだが、一人納得していない奴が駄々をこねだす。
「ちょっと待ってくださいよ、それじゃ、クエストクリアできないじゃないですか、私の歩合は…生活はどうするんですか!」
「そんなの知るかよ、別のクエストやればいいだろ」
「メインクエストはこれをクリアしないと次にはいけないんですよ!」
「しつこい奴だな、メインじゃなくても他の進めればいいだろ」
「メインクエストとサブクエストじゃ、歩合の割合が……」
「贅沢言うな!」
ヘボ女神をそう言って強くしかると、涙目で今にも泣きそうになっている。まあ、こいつにとっては切実な問題なんだろうがどうすることもできん。
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