第11話 フラグ集合

手軽で、簡単で、報酬が高いという条件から、俺たちは盗賊団を討伐するクエストを進めることにした。さらにこのクエストは、メインクエストと呼ばれるストーリーを進める重要なクエストのようで、歩合が高いことからリンシャンテンが張り切っている。


「健作さん! さあ、メインクエストです、張り切っていきましょう!」

「別に俺は張り切るつもりはないぞ、頑張るのはお前だからな」

「そ……そうなんですか……」

「当たり前だ、お前は俺がいかに楽して手を抜いて、のほほんとクエストをクリアーできるか考えないといけないのだからな」

「わかりました……まあ、このクエストに難しいことなんて何もないですから考えることなんてないですけどね」

「そうなのか?」

「はい、メインクエストということで、ストーリーの補足説明は多いですけど、実際、討伐する盗賊団はボスでもレベル5と低いですから、今の健作さんでも楽に倒せますよ」

「本当に楽なんだろうな……」

ちょっとこの無能女神には不信感が生まれているからな……言っていることを信用できない。


不信感たっぷりの下僕女神の言うことだが、確かにクエストの説明は長かった……

「──父王の意向に逆らった姉のミュレイは、王族の地位を追われ……」

クエストを受注する為に、冒険者ギルドのギルドマスターと会話を始めたのだが、これが恐ろしく長々しく、すでに話なんて聞いてもいなかった。

「おい、アホ女神、ちょっと話が長くて死にそうだ、どうにかしろ!」

「ええ~ストーリーの大事な話をしてるんですよ、ちゃんと聞いてくださいよ」

「無理だ、俺は人の話を聞かないので有名なんだ、人どころかNPCのじーさんの話なんて聞けるわけないだろ」

「でも……本当に大事な話なんですよ……」

「いいからどうにかしろ!」

「わかりました……それでは会話をスキップします」

リンシャンテンが何やら操作すると、さっきまで普通に話をしていたギルドマスターのじーさんが、映像の早送りをするように高速になった──そして話の終わりに通常の速度に戻る。

「──ということで、盗賊団の討伐を依頼する」

どういうことで盗賊団の依頼をされたかはわからないけど、なんとかクエストを受注できた。


「それでは、盗賊団の情報を集めましょう」

「どうして? 盗賊団のアジトの場所を知らないのか」

「知ってますけど……情報収集してフラグを立てないとそこにはいけませんよ」

「面倒くさいな……ぜんぜん楽じゃねえじゃねえか」

「六人ほど話をするだけですから、頑張ってください」

「六人もかよ……それでそいつらはどこのどいつなんだよ」

「えーと、まずはパン屋の主人に話をして、次は魚屋の女将、そして──」

「だぁー! 聞いてるだけで面倒くさい! こっちから話を聞きに行くのも馬鹿らしいから、そいつらに集まってもらいなさい!」

「集まるですか……でも、皆さん仕事中ですし……」

「だからどうした! 俺も仕事中だ! 仕事中どうしで対等じゃねえか!」

「そんな横暴な……」

「グダグダ言ってないで、いいから早く集めてこい! じゃないとペナルティーだぞ!」

「わっかりました! 集めてきます」

リンシャンテンは俺に敬礼すると、すぐに街中へと走り去っていった。


街の人々が行きかう大通りの脇で、通りかかる人観察しながらリンシャンテンを待つ──

「あっエルフもいるんだな……」

尖った特徴的な耳をしている亜人の名くらいは、俺でも知っていた──まあ、知っていると言っても種族名くらいだけど──

こうして眺めていると改めて思うが、本当によくできているゲームだな……特にAIの動きは秀逸だ、NPCたちはちゃんと意思を持って動いているようにしか見えない。

そうこう考えていると、リンシャンテンが情報収集するNPCを集めて戻って来た。

「健作さん、集めてきましたよ」

「うむ、ごくろう」

必要以上に上から目線な感じで褒めの言葉を言ったのだが、リンシャンテンは笑顔で喜んだ。

リンシャンテンは、NPCたちにボソボソと何か伝えて、一列に並ばせた。

「フラグ順に並んでもらいましたから、右から順番に話しかけて下さい」

それくらいならとやってやろうと、順番に話を聞き始める。

話の内容は他愛もないものだった、あそこで誰それを見たとか、不審な人間の出入りの激しい家があるとか、そんな感じである。

「それでは、盗賊団のアジトもわかったことですし、討伐にいきましょう!」

「そうだな、でっ、結局、盗賊団のアジトはどこなんだ?」

「……話ちゃんと聞いてませんでしたね……」

「お前、アジトの場所知ってるんだろ、じゃあ、聞く必要ないだろ」

「……確かにそうですけど……」

「早く案内しろ、さっさと終わらせるぞ」


腑に落ちない感じのリンシャンテンにブツブツ言いながら、俺たちは盗賊団のアジトへと向かった。


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