第9話 ギリの朝

この世界での睡眠は、目を閉じて、現れた睡眠モードの設定画面に睡眠時間を入力して、確認ボタンを押すと実行される……不眠症などなんのその、簡単に睡眠モードになり、そして一瞬で起床する。起床時に朝のイメージなのか、鳥のさえずりが聞こえるのはグッドかもしれん。


「うむ……しっかりとした睡眠後の爽快感に、体力の回復も感じる……その割には時間の経過はあまり感じない……ゲームの睡眠としては合格点をあげてもいいかもしれん」

睡眠の感想を独り言で言っていると、すでに起きていたリンシャンテンが話しかけてくる。


「お……おはようございます……ちゃんと寝られましたか……」

ちょっと寝ぼけたような顔で言ってきたので少しイラっとくる。


「簡単に寝られて、そして簡単に起きられた」

「あ……そうですよね……プレイヤーには睡眠モードがありますもんね……」

「なんだ、下僕女神には無いのか」

「残念ながらありません……ですので寝苦しい夜とか普通に寝れなくて辛いですよ……ここ……夏は暑くて冬は死ぬほど寒いんです……」

リンシャンテンはどこか遠くを見るような寂しい顔でそう訴える。

「そ……そうか……」

「それより、朝ごはん食べませんか、簡単な物ですけど」

「ほほう……どんな物が出てくるか逆に気になる、見てやるから作ってみろ」

食ってやるとは言わないところが俺らしいといえばらしい──


五分ほどの調理時間で、出てきたのはパンの耳をカラッと揚げた、恐ろしくリアリティーのある食べ物であった──俺は思いっきりリンシャンテンを罵倒する。

「想像レベルの物をだすんじゃない!」

「そ……想像レベル……それって、どういう意味ですか」

ちょっと不安そうにそう聞いてきた。


「いいか、俺はお前が面白い朝食を出してくるのを期待していた……ところがどうだ、こんな普通の貧乏食を出しおって……面白い物っていうものはだな、想像の斜め上をいくような突拍子もないやつのことだ、貧乏女神のくせに、ちょっとお洒落な朝食プレートを出したり、逆に突き抜けてドックフードをアルミの器で出すとか、それくらいのインパクトを求めてるんだ……それがパンの耳だと……貧乏女神が出しそうな朝食一位の定番食材じゃねえか!」

「ど……どこの統計ですかそれ……逆に一位以外のランキングも知りたいですよ」

「二位がもやしで三位が水だ」

「水! 水って朝食に水ですか⁉」

「そうだ、真の貧乏女神がたどり着く究極の朝食は水だぞ」

「うわぁ……水まで落ちたくありません〜」

リンシャンテンは頭を抱えて、未知なる恐怖と葛藤している。


「ならばそこまで落ちないように頑張るんだな」

そう言いながら、俺は皿に盛られたパンの耳を口に運ぶ。

「おっ、中々美味いではないか」

カリッといい感じに揚がっていて香ばしい……砂糖がまぶじているのだが、砂糖の甘みと揚げたパンの耳の苦味がいい感じにマッチして想像よりかなり美味い。


「ですよね! 美味しいんですよ、これが一キロで5Gは安いですよね〜いっぱいありますからどんどん食べて下さいね」

俺とリンシャンテンは、それからしばらく、無言でパンの耳を頬張った──


「さて、朝食も食べたし、そろそろ行くとするか」

「どこ行くんですか?」

「エロ探しに決まってるだろうが」

「あれ本気だったんですか!」

「俺は冗談は嫌いな男だ、言った事は全て本気だと思え」

「……はぁ…………」

リンシャンテンはなんとも言えない表情で返事をする。


「さて、という事で下僕女神よ、俺は男のサガを全うしたいと思っている、どうにかこうにか頑張って、いい感じに満足させなさい」

「私……これでも女神なんですよ……女神に変な斡旋させないでくださいよ」

「ほほう……俺の言うことが聞けないというのか……なるほどな、ふむふむ、そうかそうか、汚い部屋で寝させられたり、朝食にパンの耳食わされたり、俺はかなり不快な目にあっている……そろそろペナルティだなと思ってたとこなんだが……」

それを聞いたリンシャンテンの表情が一気に変わる。

「わっかりました! 探しましょう、一般ゲームのエロの限界を!」

中々扱いやすい奴である。

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