第8話 ギリな夜

ファンファーレと同時に、リンシャンテンの手に小さな宝箱が出現する。

「はい、健作さん、クエスト報酬です」

リンシャンテンはそう言いながら、その金の小さな宝箱を渡してきて──俺はその金の箱をパカっと迷いなく開く……中には袋に入ったお金と、よくわからないアイテムが数点入っていた──迷いなく、お金を懐にしまい、他のよくわからないアイテムは道に捨てた。


「だぁー! どうしてアイテム捨ててるんですか!」

「使い方もよくわからんからいらん!」

「合成アイテムとか、錬金素材は後で使うようになるかもしれませんから、絶対取って置いた方がいいですよ!」

「断言する、使わない」

「どうしてですか?」

「合成も錬金とやらも、俺はやらないからだ!」

「やってくださいよ!」


小一時間ほどリンシャンテンに粘られたので、仕方なく、俺は手に入れたアイテムをアイテムボックスに入れた。

「さて、時間も、時間ですし、今日はこの辺でお休みしましょうか」

確かにもう日は落ちて暗くなっている──俺も疲れているのでそれには反対しなかった。

「そうだな──それじゃ、帰るか」

俺がそう言うと、リンシャンテンは笑顔で手を振って去っていく──

「…………」

「あの……宿屋はあっちですよ」

「うむ、知ってるぞ」

「──……どうして私についてくるんですか?」

「そりゃーそうだろう、今日はお前の家に泊まるんだから」

「ええー! うちは狭いですし……汚いからダメですって!」

「大丈夫だ、我慢してやる」

リンシャンテンは心底嫌な顔をして拒否するが、奴にそんな拒否権など無い! 俺は強引に家まで押し掛けた。


「本当に汚いとこだな……」

リンシャンテンの家は古い木造の建物の一室であった……部屋に入ると、仮にも女子の部屋とはとても思えないくらいに乱れた空間が広がっていた。

「だから言ったじゃないですか!」

「いや、普通、あの言い方は断る方便であって……実際はそうでもないってパターンなんだがな……」

「私は嘘は尽きません、あと、狭いですからキッチンで寝て下さいね」

「キッチンて、どこだよ」

「ここですよ」

「……俺には荷物置き場にしか見えんが……」

「なんとか荷物を寄せて空間を作ってください」

「……くっ……宿屋にすればよかった」

「だから言ったじゃないですか! 女神の部屋が汚いなんて……今、顔から火が出るほど恥ずかしいんですからね」

「だったら普段から片付けておけよ!」

もう宿屋に戻るのも面倒くさいので、今日はここで寝るしかない……仕方ないので足で荷物を端に寄せてスペースを作った──


さて、寝る前に、ちょっとエッチなイベントを期待した俺は、女神の着替えを堂々と観察することにした。あまりに自分を凝視するの不審に思ったリンシャンテンが聞いてくる。


「何じっとこっちを見てるんですか」

「いや、早く着替えでもしないかと思ってな」

「着替えなんてしませんよ」

「なぁ! なんだと! どういうことだよ」

「女神のアバターは固定ですから、着せ替えするようにはできてないんですよ」

「そんなの聞いてないぞ! いいから、なんとかしてその服を脱げ!」

「いや……ですから無理ですって……」

「試す前から何諦めてんだ! もしかしたら本人も知らないだけで脱げるかもしれないだろ!」

「もう……わかりましたよ……やってみますけど、脱げなくても怒らないでくださいよ」

そう言うとリンシャンテンは服を脱ごうと持ち上げた……だけど、何か見えない力に邪魔されているように、ある一定のところで引っかかる。

「ほら! もうちょいでいけるだろ! 頑張れ!」

「うぬぬ……ふっは! やっぱりダメです……脱げませんよ」

「むむむ……ちょっと俺にかしてみろ!」

俺はリンシャンテンの服を掴んで強引に持ち上げようとした……だけどヘソが見えるあたりで、何か強力な力に邪魔されてびくともしなくなる。

「やっぱりダメなんですよ」

「くっ……だぁ! こうなったら実力行使だ! 服の上から胸を揉んでやる!」

俺はリンシャンテンの胸を鷲掴みにしようとした……しかし、胸に触れようとすると、磁石のN極とN極を合わせようと近づけたように、クリンと手が弾かれる。

「どうなっとるんじゃ!」

「そりゃそうですよ……ラーフィアは成人指定のゲームじゃありませんから、性的表現などにはプロテクトがかかってるんですよ」

「くっそー!」

俺はあまりに腹が立ったので、リンシャンテンの頭をコツンと叩いた。

「もう……痛いじゃないですか、私にあたらないでくださいよ」

「うむ……胸は触れないのに、頭は叩けるんだな」

「まあ、頭を叩く行為は性的表現にはならないからじゃないですかね」

「ほほう……やはり機械……しょせんAIといったところだな……いいか、人の数だけ性癖というものがあると言われてるんだぞ、人の頭を叩くことで興奮する変態がいたらどうするんだ!」

「そんなの知りませんよ……」

「ふっ……どうやら性表現のプロテクトとやらも大したことなさそうだな、これなら俺が興奮する盲点がこのゲームにはあるかもしれん! よし、明日からは興奮探しをするぞ、そうと決まればさっさと寝よう」

「変な目的、もたないでください! ちゃんとゲームも進めてくださいよ〜」


そんなリンシャンテンの声など聞こえないふりして、どんなエッチな事をしてやろうかと妄想していた──



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