第7話 移動するのはボスの方

ゴブリンの巣は、小さな山の麓にある小さな洞穴であった。


「この洞穴の奥に、大きなゴブリンがいます、それを倒せば女将さんの髪飾りをドロップするのでそれを持ち帰ってください」

リンシャンテンはクエストの手順を親切に俺に説明してくれた……が!

「馬鹿者! どうせ瞬間移動で移動するなら、その大きなゴブリンの目の前までいけばいいだろう! どうしてわざわざ入り口からチマチマと歩いていかないといけないんだよ!」

「そ……それは仕方ないんです、ダンジョンとかは私の影響範囲外なんですよ……ですので、ダンジョンの中に瞬間移動もできませんし、ダンジョン内のモンスターは私の指示も聞きません……」

「ちっ……だったら、そのボスゴブリンをここまで呼んで来い、そんな穴、俺は絶対入らないからな!」

「ええ~! 話、聞いてましたか? ダンジョンのモンスターは私の指示なんて聞かないんですって!」

「そんなこと知るか! 騙して連れてくるなり、怒らせて誘導するなりなんとかしろ」

「そんな~……私、女神ですけど、すっごく弱いんですよ……殺されたらどうするんですか……」

「死ぬな! 頑張れ!」

「……もう……わかりましたよ……行ってきます……でも、連れて来たら絶対倒してくださいよ」

「考えておく」

「もう……こんなプレイヤーさん初めてですよ……」

リンシャンテンはブツブツ言いながらも洞穴に入っていった──



──そして小一時間ほど経過……洞穴の奥から騒がしい声が少しづつ聞こえてくる。


「キャー……たすけ……いや…………はぁ……はぁ……ごめんなさ…………」

一瞬、静かになったので、死んだか? と思っていると、いきなり洞穴からボロボロのリンシャンテンが飛び出してきた。

「健作さん~~! たすけてください!」

リンシャンテンのすぐ後から、ものすごい形相の大きなモンスターも飛び出てくる……

「おっ、上手く連れてきたのか、良かったな」

「よ……良くありませんよ~! は……早く倒してください!」

リンシャンテンは俺の周りをぐるぐると回りながらそう叫ぶ──そしてよほど怒らすことをしたのか、ボスゴブリンは俺の事なんて目もくれず、リンシャンテンを追いかけ続けている。

「なんか予想より大きいからヤダな……」

俺の呟きに、必死の女神は血相を変えて抗議してくる。

「そ……そんな~! 健作さんが、倒さなければ、どうするんですかコレ!」

「どうにかしろよ、てか、ダンジョンから出たモンスターもお前の言う事聞かないのか?」

俺の言葉に、リンシャンテンは目線を上に向けて考えると、首を傾げた。

「ダンジョンのモンスターが外に出るのも初めてなので、私にもわかりません!」

「だったら試してみろよ」

「あっ、はい!」

下僕女神は後ろを振り向くと、ボスゴブリンに叫んだ。

「そこで止まりなさい!」

するとどうだろう、ボスゴブリンはその場に停止した。

「おっ,命令聞いたぞ」

「ほ……本当だ……ダンジョンを出れば私の影響範囲になるんですね……」

そう言いながらリンシャンテンはボスゴブリンに近づいた──すると──ゴツン!

「ごふっ!」

近づいたリンシャンテンに、容赦なく、ボスゴブリンの拳が振り下ろされる──凄い鈍い音がしたけど大丈夫か?

「ああああっ……」

リンシャンテンは頭を押さえて慌ててボスゴブリンから離れた。

「生きてるか?」

蹲って動かなくなった下僕女神に声をかけてやる。

「す……すっごく痛いです……」

よほど痛いのだろう、涙目でそう訴える。

リンシャンテンを殴ったボスゴブリンはその場から動こうとはしない、命令自体は効いているようだ。

「健作さん、とりあえずコイツ、倒しちゃって下さい……」

この世の終わりのような低いテンションで、リンシャンテンは俺に訴える。さすがの俺もそんな屍のような奴を責める気分にはならず──

「そ……そうだな、それじゃ、サクッと倒すか……」


ボスゴブリンが動けないのをいいことに、俺は後ろに回り込み短剣で攻撃した。

流石にボスというだけあって中々倒せなかったが、百回ほど短剣でチマチマ攻撃してようやく倒すことができた。

ボスゴブリンを倒すと、金色の光と共に、何かアイテムが出現した。

「出ました、それがクエストアイテムの女将さんの髪飾りです」

「うむ、それは良かったな──それより疲れたから、さっさと街に戻ろう」

街に戻って女将さんに髪飾りを渡すと、派手なファンファーレが鳴り響き、クエスト完了のアナウンスが流れた。


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