第4話 希望

総理大臣選挙が終わって一週間が過ぎた…。


新しい時代の風を…と大臣に昇格したのは…河流 聖人。

河童と人間の間に生まれた混血児…。


「少しは変わるのかな?」

不安そうにジュンを見つめるウィズ。

「大丈夫よ、ウィズ…きっと変わるわ」

「そうだよね…」

不安になるのも解る…でも、状況はどんどん変わって行く…。

今まで表に出てこなかった河童達が人間界に姿を現してきたのだ。

だが、それと同時に江戸より後に生まれ出た河童狩り一族も多く姿を現す事になった。


「大丈夫か? これでも話は一応進行してんだけどさ…」

「アキラ君! 大丈夫だよ」

河童狩り一族の攻撃を受けてないかを心配してアキラが来てくれた。

「アキラの方は大丈夫なの? お父様も大変みたいだし…」

「あぁ…俺は平気なんだけどさ、今まで大人しくしていたヤツまで暴れるし、関係ないヤツまで一族だとか名乗りやがって…はぁ…その後始末が面倒くさいな」

良い面も出てきたが、悪い面も沢山出てきた。

「どうして、ボク等は迫害されないといけないのだろう…ボク達は、ただ昔みたいに皆仲良く暮らしたいだけなのに…」

「ウィズ…大丈夫だって!」

「そうよ、ほら記者会見が始まるわよ」

壁にかかった時計を見てからテレビをつける。

総理大臣になってから立て続けに問題が浮上して、河流 聖人が急遽記者会見を開く事になったのだ…。


「始まるぞ」

三人でテレビの前に正座する。

テレビの中継が繋がり、大臣が部屋に入って来る…。

「法令の改正取消なんて言わないわよね?」

「言うわけないだろ?」

「何が起きるのかなぁ…」

三人共何が起きるのかをドキドキしながら待つと会見が開かれた。

『えーっと、この度総理大臣に任命されました河流聖人です。今回、自分が法令の改正を求めた事により、数々の問題が浮上してきました。まずは、今まで姿を隠し続け人間との接触を避けてきた河童一族のヒト達が表に出て来た事。それと同時に隠れて狩りを行ってきた河童狩り一族の人が活動を開始した事です』

カメラのフラッシュが沢山たかれる中、堂々としている。

記者の一人から質問が投げかけられる…。

『今回の騒動は総理が引出したものだと思われますが、その事について何かありますか?』

「そうくるか…」

「…どうするのかしら…」

ウィズ達は固唾をのんで、見守った。

『…確かに引金を引いたのは自分かもしれません、ですが自分は変わる事を信じています。今は混乱しているかもしれないけど、再び手を取り合って共存していけると信じています』

迷いのない真っ直ぐな瞳を見て、ウィズは目をキラキラさせていた。

「凄いね…」

「そうね…全然揺らがないのね…」

『自分は、皆さんに受け入れてもらえない存在でした。それは、自分が河童一族と人間の間に生まれた混血児だからです…でも、自分の周りには凄く大切な存在のヒトが沢山います。自分が異端児だと解っていても優しく手を差し伸べてくれた幼馴染み、想い人…今、この会見を見てくださっている皆さん、もう少し周りを見て下さい。自分と全く同じ存在なんてありはしません。なのに、何故人は迫害や争いをするのでしょう?

確かに昔からの確執などはあるかもしれません。それが戦争へと続くのですから…

しかし、皆さんと彼等はどうでしょう? 

かつては手を取り合って生活をしてきたというのにちょっとしたきっかけで簡単に破滅してしまった。ずっと信じていたのに裏切られた。そんな彼等の気持ちを考えずに狩りだ異形だ異端児だとわめき騒ぎ立てて、それが逆の立場だったらと何故考えないのでしょう?』

ざわついていた会場がシンと静まった…。

『自分は一度生きる事をやめようと思いました。本当に大事な人とは一緒に過ごせないから、自分に生きる意味が見出せなかったから…それでも今、こうしてここに立っているのは自分の為に泣いてくれる人が側に居たからです』

「ジュン…ボクはこのヒトなら変えてくれると思う…」

「そうね…」

騒いでいた記者団も皆黙って話を聞いていた…。

『今から変わるのです! まだ間に合う筈です…昔のえにしを思い出して…再び手を取り合って共存していく…それが、今自分達のするべき事ではないでしょうか? 

我々がかつてしてしまった罪をつぐない、手を取り合う…この国は再び生まれ変わるのです…国内が変わり、時代が移り変わっていけば他国とも手を取り合って共存していけるから…自分の国の…いや、自分達の国の中で争いや迫害が消えないのにどうして他国との共存が出来るのでしょうか? 考えて下さい…そしてもう一度答えを出して下さい。』

再びフラッシュの嵐が巻き起こる…そんな中、隣で涙を流すウィズを見て、私も一筋の涙を流した…。

「そうだよな…自分達の国のいざこざが収まらないのに他国に介入なんて出来ないよな」

きっと進んで行く…新しい時代が…だって、もう希望がすぐそこまで来ているから…。

「ジュン、アキラ君…ボク、頑張れると思うから…だから……」

言いたい事は解る…。

「えぇ…手を取り合いましょう…」

再び以前の様な時代を取り戻せる様に…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る