第2話 接触

ウィズがジュンの家に住む様になって半年たった…。

人間の生活を知らないウィズにとって発見の多い毎日の様だ…。

常に新しい事を覚え、吸収していくウィズを見て、ジュンにとって最近では弟というより息子みたいな存在になっている。


「ウィズ、買い物に行こうか?」

「うん、でも大丈夫?」

「時間も遅いし人もまばらだから大丈夫よ。 さ、行きましょう!」

「うん…」


でも、未だに慣れていないのはジュン以外の人間との接触…。


他の人間の存在が怖い、自分が人間の世界では異形だから不安。

ウィズの心の中はいつもそんな気持ちを抱えていた。


ウィズは長袖に長ズボン、帽子を深くかぶって姿がばれない様にと支度をする。


「ボクが見つかったらジュンが大変だもの…」

「そんな事は気にしなくていいのよ」

「だって、ジュンが大切だから…」


こんなに小さな子がジュンの事を気遣ってこの人間の世界で戦っている…。

ジュンは何も出来ない自分が悔しかった…。



「それで、どうしたいんだ?」

「救いたいのよ…ウィズを…ウィズの仲間を…」

「そうか…ジュンがそう決めたのなら付き合うよ! 人間が正しいわけでもないし、人間が自分と異なる種族を迫害する権利なんてないもんな」

「ありがとう…アキラ…」

「いいってことよ」

アキラは幼馴染で、お父さんは議員さん…だからといって自分に力があるわけではないからそれをひけらかそうとはしない男性ひとだった…。

「父さんもさ、今の現状に満足してないし、間違っているって感じているからさ…」

アキラのお父さんは人間が世界を支配する事に賛成していない人でそのせいで議員の中でも珍しい存在であるけれど、『平等な世界』は人間のみが共通するものではないという考えに共感を覚えて賛同する人も集ってくる位人望のある人だ…。


「本当にいいお父さんよね…」

「まぁ…自慢の父親である事には変わりないな」

「素直じゃないわね」

「ほっとけ」


河童のウィズをかくまって半年、最初よりは戸惑いとかも少なくなっていると感じる…。

でも、ウィズはいつも何かに怯えている気がする…。

解ってあげられない自分が歯がゆい…。


「話に聞いているだけじゃなくてそろそろ会わせて欲しいな」

「ウィズがまだ不安がっているのよ…でも聞いてみるわ」

ウィズに何度も話をしても不安が大きくて会いたくないらしい…。

ウィズに私以外の人間と触れ合って欲しい、友達を作って欲しいと思うのに…。



アキラと別れ家へ向かう、私が学校に行っている間はウィズは大人しくテレビを見たり、本を読んだりして過ごしている…最初は字が読み書き出来るのかと不安に思ったが、流石かつて人間と共存してきただけあってそれぐらいは出来るようだ…。

ウィズも例外ではなくちゃんと字の読み書きは出来るが、まだまだ漢字を読み書きするまでには至っていなかった…。

でも沢山の絵本を買って、少しずつ字の読み書きを教えていくうちにどんどん吸収していった。

今では、小学生レベルの本位は読めるのではないだろうか?


「ジュン、お帰りなさい」

「ただいま、ウィズ」


一人きりの生活だった自分に帰りを待っていてくれる存在があるのは嬉しいものだ…。


「どうしたの? ジュン、なんだか嬉しいみたい」

「うん、ウィズが待っていてくれるからかな」

「そっかぁ……」

嬉しそうに頬を赤らめるウィズを見て、やっぱり他の人間との接触を拒んで欲しくないと思った……。


「ウィズ…アキラが会いたいって言っていたわ」

「でも…怖い…」

「私も一緒にいるし、なんだったらアキラに来てもらえばいいわ、そうしたらウィズは外に出なくても平気でしょ?」

「……うん……ジュンもいるなら……」

「大丈夫よ、アキラはウィズが思っているより子供みたいな男性ひとだから」

「…子供…?」

「そ、だからウィズの方がお兄ちゃんになっちゃうかもね」

「…お兄ちゃん…」

まだ見ぬアキラを想像して少し楽しみになっているウィズ…まだまだ楽しみが待っている事を早く教えてあげたい…早くウィズが自由に過ごせる環境にしてあげたい…。

ここが、今私の戦うべき場所なのだろう…。

人間同士の衝突も…良い事ではないが、でも戦わないと得られない物もある。

人間同士のつまらない争いなんかじゃない…これは、人間がヒトとして生きられるかという事なのだ…。


「初めまして、ウィズ…君?」

声をかけていいか少し迷いながらも挨拶をするアキラ

「…は、はじめまして」

緊張しながら、相手の様子を探りながらのウィズ

「やっべぇ~マジ可愛いじゃん」

ウィズの初々しさが気に入ったのか満面の笑みを浮かべるアキラ

「か、かわ、いい?」

アキラの態度に驚きながらも、アキラの反応が軽蔑や差別の眼差しではなくて、純粋に自分を見ている事を感じ取るウィズ

「今日から友達、よろしくな」

もうすっかり調子にのって握手の手を差し出すアキラ

「う、うん!」

それでも敵ではないと感じ取り安心をするウィズ、アキラの手をとり、しっかりと握手を交わした……。

二人とも何か初対面でも良い感じで良かった。

「アキラ君、良い人…ボクの事変って見ない…」

「え? 当たり前じゃん…同じ生き物なんだからさ…そんな事言ったらウィズだって俺の事変な目で見なかっただろ?」

「うん………」

ウィズも怯えている感じがなくて安心した。


「なぁ、ウィズ?」

「なぁに? アキラ君」

「これから楽しい事沢山待っているからさ、沢山外に出て色々なモノ見ようぜ?」

「外……」

「怖いか? 大丈夫、俺もジュンもいる…一人じゃないから…それにな、戦わないと前に進めない時もあるんだ」

「たたかう?」

「あぁ…また手を取りあって生活していけばいいんだ…みんな…」

ウィズに今のこの世界と戦おうと言うアキラ、困惑するウィズ…確かに困惑すると思う、今まで人間がしてきた事を考えたら恐ろしいと思う。

私も怖い…戦うなんて出来るだろうか?


「ボク…ボクが頑張ったら、また仲間と一緒に過ごせるの?」

「あぁ…皆一緒だ」

「みんな、いっしょ……ジュンもアキラ君も…」

「そうよウィズ…私達はアナタの友達であり家族だもの……」

「かぞく・・・」

考えるウィズ、それを見つめる私とアキラ…大変な事を言っているって解っている…簡単ではない事も…でも、こんなシステムはリセットしないといけない…字を読み書きし、言葉を話し、二足歩行で起用に動き回れる…でも、だからと言ってそれを出来ないモノを迫害したり、傷つけていいわけではない…ましてやそれを決める権利が私達にあると誰が決めたのだろうか…?


「ジュン…ボクね、ずっと考えていたの…」

「何を?」

「生きるっていう事…ボクね、ジュンに助けてもらう前はいつ死んでもいいって思ってた……夏は凄く暑くて冬は凄く寒くて…食べられる物もあまりなくて、人間に見つかったら気持ち悪いって、存在を否定された…だからね、ジュンが一緒に暮らそうって言ってくれたのも、アキラ君が友達って言ってくれたのもとっても嬉しかったの…」


小さいながらに懸命に考えてきた事を見せられる…ウィズの姿を見て、決心した。


「ウィズ…戦いましょう、一緒に」

「ジュン……」

「一人じゃないしな…」

「アキラ君……二人とも…ごめんね」

「違うだろ?」

「そうよ、ウィズ…こういう時はごめんねじゃなくて『ありがとう』よ」

「ありがとう?」

「そう、ありがとう」

「…うん! ありがとう!」


――あなたは……全ての生き物の命の重さが平等だと感じますか?

あなたにとっての動物とは一体何なのでしょうか…?

感じて下さい…そして理解して下さい…私達も所詮動物で、運良くこの時代に適合しただけなのだという事を…目を背けないで下さい…再び分かり合える日は必ず訪れるという事を…言葉の通じない動物達を意味もなく傷つけてしまって良い筈がない事を…。

そもそも種族が違うからと言って私達人間と何が違うのでしょうか?

彼らは人間の言葉は話さない…だが、私達も犬や猫の言葉は話さない…。

人間も動物も同じ命だと考えたい…命の重みに違いなんてないと思いたい…。

だから戦うのだ…もう二度と同じ過ちを繰り返さない様に…――

ここから本当の戦いが始まる…人間同士のぶつかり合い…種族間の争いが……。

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