河童物語〜番外編〜共存とは・・・?

藤城 魅梨香

第1話 出会

 十七世紀、江戸…ある種族は人間と共存し、生活していた…。

彼らは人間の生活に知恵を貸し、力を貸し、生きてきた。

だが、いつしか人間と反発し彼らは住処を奪われていった…。

 そして、今では彼らは絶滅品種、人間と手を取り合って生きてきた頃の影さえもない…。

 だが、今この二十一世紀に人間と共存し生活しているその種族の姿があった…。



「う……ん……」

「あ、気がついた?」

優しい笑みを浮かべた女性が布団に横たわっている一人の少年に声をかけた…。

「ここ……は……?」

「ここ? 私の家…アナタ、昨日の嵐に巻きこまれたみたい…川辺で倒れているのを見つけたの…」


少なくとも敵ではなさそうだと認識し、少年は横たわった身体を起こそうとする…。

「痛っ…」

嵐に巻き込まれたせいだろう身体のあちこちが悲鳴をあげる…。

「大丈夫? 沢山怪我をしていたからもう少し横になった方がいいわ…それとも布団じゃやっぱりダメかしら…?」

普通の人間だったら布団がダメなんて聞かないだろう…少年に尋ねたのは少年が明らかに人間の姿をしていない、この時代では異形なモノだからだ…。

「…大丈夫…あ…ありがとう…」

病院に連れて行けないのは少年が異形だから…普通なら気味が悪いと関わらないか、金銭が目的で何処かに売り飛ばすかだと少年は考えていた…。

 だが、彼女は違かった…確かに病院には連れて行けないが、懸命に看病をしてくれた形跡がある…。

人間の言葉を話してはいるが、姿形は人間ではない…それでも彼女は少年を懸命に看病してくれたのだ。


少年は彼女が悪い人間ではないと確信した…。

「最初見つけた時、どうやったら助かるのか分からなくて大変だったのよ?」

にこにこと話をする女性に少年は尋ねた。

「どうして…どうして助けてくれたの? ボクは…人間じゃないよ…」

一瞬何を聞いてきたのかという表情だったが、彼女はすぐさま少年の質問に答えた。

「誰かを助けるのに理由なんてないよ…命に重いも軽いもないし、それに…それが例え犬であろうが、猫であろうが、河童であろうが…関係ないよ…」

今まで見てきた事のなかった人間…。

全ての命を平等だと言ってくれる暖かい女性…。

「アナタに会えて良かった…ボクは…人間は怖い生き物だって思っていたんだ…お父さんもお母さんも人間は危険だって言っていたから…」

両親の言葉を思い出し一人俯く少年に女性は優しく言葉をかけた…。

「皆が皆悪いわけではないよ…確かに一部の人達のせいでキミ達の住処がなくなってしまったのは事実…だからごめんなさい…でも、中にはキミ達ともう一度やり直したいって人もいる事を忘れないで…」


人の気持ちは誰にもはかる事は出来ない…まして、決め付ける事も適わない…。


人間の女性と出会った河童の少年…。

二人の出会いは必然か偶然か…その答えを知る者は誰もいない…」。


 かつて人間と共存していた種族の影はもう見えない、少年はこの限られて閉鎖された世界で人間に何を見出すのか、再び手を取り合う事は出来るのか…?

 今、新たな物語の幕が開ける…。


「行く所がないの?」

コクンと頷く少年を見て彼女は言った…。

「なら、一緒に暮らしましょう…私も一人で寂しかったし、もうアナタも一人で寂しい思いをしなくてすむわ」

「あ…ありがとう…」

物心がついた時、少年の両親は私利私欲に負けた人間によって捕まえられ亡くなった…。

以来、少年は一人で人間の影に怯えながらひっそりと暮らしていた…。

「きっと、まだ人間が怖いと思う…だから少しずつでいいわ…アナタと仲良くなりたい…私はジュンって呼ばれているの…アナタの名前を教えてくれる?」

「…ウィズ…」

「ウィズ…一緒って意味だね…よろしくウィズ…」

 そうして二人の生活はスタートした…。

二人の生活が始まって一週間が過ぎた。

河童の少年ウィズの傷もすっかり治り、十分に動ける程だ。


「これは、ここで良いの?」

「そうよ、ありがとう」


ちょこちょこと子犬の様にジュンの後を着いて来て片付けの手伝いをするウィズを見て、ジュンは思った…。

『なんだか弟が出来たみたい…』

一人っ子のジュンにとって弟の様な存在のウィズはとても大事なものとなった。

 かつて河童と人間は共存して生活をしてきた…。だが、今となっては人間が河童を虐げる時代…むしろその存在を失わせる様な時代に変貌してしまった。

時には親や師の様に、時には友の様に…側で支えてくれた彼らを見世物にし、おもちゃの様に弄ぶ…。

ジュンは悩んだ…河童をかくまう事は大きいリスクを伴う…どうすれば傷つかなくてすむか…弟の様に可愛がっているウィズの事をモノ同然に扱う事は出来なかった…。

「ジュン…元気ない…ボクのせい?」

自分のせいで迷惑をかけていると思っているウィズは、不安気な表情でジュンを見上げた…。

「ううん何でもないの…ごめんね」

ウィズのせいではないと説明し、再び片付けを続けた…。


この世界のシステムは間違っている…。


そして、ジュンは決心した…。

 言葉の通じない動物達を意味もなく傷つけてしまって良いのか、いや違う…。そもそも種族が違うからと言って私達人間と何が違う?

彼らは人間の言葉は話さない…だが、私達も犬や猫の言葉は話さないではないか。動物をペットとして従わせるのは正しい事なのか?

そんな事は考えたくない…それはただの自己満足なのかもしれない…でも、同じ命だと考えたい…命の重みに違いなんてないと思いたい…。


辞書で「ペット」を引くと、「愛玩用の動物」とあった…。

「愛玩」とは大切にして可愛がる事をいう…。

今の荒んだ世の中でどれだけの人間が動物を大切にして可愛がっているのだろう…。人間も所詮ペットと同じ様なものなのかもしれない…ただ、この地球上では少しだけ知恵があって利口なだけなのだ…。


だから、私は同等に扱いたい…時には仲間として、時には兄弟の様に接したい…私もペットの一人なのだから。

その第一歩としてこの子を…ウィズを救いたい…再びかつての様な時代を取り戻せる様に、又、人間と共存していける様に…。


彼女達の戦いは、今始まろうとしている…。


それは計り知れない程長く険しい問題だろう…。

だが、そこで逃げてはいけない…逃げたら何も始まらないし状況はもっと悪くなるだけだから…。




――あなたは…全ての生き物の命の重さが平等だと感じますか?

あなたにとっての動物とは一体何なのでしょうか…?

感じて下さい…そして理解して下さい…私達も所詮動物で、運良くこの時代に適合しただけなのだという事を…――



再びこの地に、かつて手を取り合った仲間と共存出来たら、無意味な争いはきっとなくなるだろう…まずはごめんなさい…そして、ありがとう。

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