終章 ―ただいまとありがとう―

家に帰ったら母さんが泣いていて、父さんが今まで見せた事のない様な優しい顔で迎えてくれた…。



「……ただいま……。」

今まで面と向かって言った事なんてなかったから、少し照れる…。

「おかえりなさい、聖人……ごめんなさい…ごめんね、聖人…。」

「母さん……。」

母さんの涙を見て、初めてオレは母さんにもちゃんと愛されていたんじゃないかと感じた…。


「よく戻って来たな…早く家に入りなさい…。」

「あ、うん……。」

まともに父さんがオレの事を心配するなんてなかったから、ちょっと驚いた…。



「おにぃちゃん、どこに行ってたのぉ~? お祭りでお面買ってもらおうと思ったのにぃ~。」

「あぁ…悪かったな…今度新作のアイドル戦士DAREDA買ってやるよ。」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

何も知らない弟の姿を見て、今からでもちゃんと兄貴らしく出来るかなって思った……。

アイツは何でかオムツだけど……。



「おかえり…お兄ちゃん……。」

「あぁ…。」

妹の顔を見るのも久しぶりで、オレって本当に家族ってモノを避けてきたんだって思い知った……。


家族揃ってリビングでお茶を飲む…という今までしたことのない空間に居心地の悪さを感じながら、出されたお茶を一気に飲み干した…。


「…今度ちゃんと家に連れてきなさい…如月君を…。」

「え!? 神? …何で父さんが神の事……。」

「この前来たのよ…貴方を救いたいって…直接家には来てないけれど…。」

「神が…オレの為に…? だって河童狩一族が河童一族にコンタクトをとるのは犯罪だろ? オレは例外だったから…。」

「もう、止めにするのだよ…政府にもそう申請する…元々は我々河流・漣一族と霧咲一族が戦争の発端なのだ…そして一族が枝分かれし、他に名前を変え、勢力をあげてきた…。」

「神の一族と……そうか…だから惹かれたのかもしれない…敵同士だからこそ……因縁の相手だからこそ惹かれたんだ……。」

不思議な感じがした…神と一緒にいて…胸がざわざわしている感じ、安心する様な…それでいて不安を感じさせる様な……。


「オレ、神と一緒にいて良いのか?」

「……あぁ…まずは…一度連れて来なさい…。」

「うん…。」

父さんが神との付き合いを賛成するなんて驚いた…。

それに、神がどれだけのリスクを犯してオレを救おうとしてくれたのが、よく解った……。


神に会いたい………会って言わないといけない事がある……。



オレはいつも独りな気持ちでいた…でも実際は違った…。

いつも翔と優が傍にいて、眠れない時には神がいてくれて…オレは誰かに支えてもらいながら生きてきた…。



「恥ずかしいな……。」

「なにがぁ?」

「お前にはまだ早いよ。」

「やらしいぃことぉ?」

「何でソレしか言えないんだよ。」

「えへへぇ~。」



恥ずかしいと思ったのは、オレが独りぼっちだって思い込んでいたという事……。



「やっぱり、独りじゃ生きられないよな……。」

思い知った…一人では生きられないという事を……。



知っているはずなのに、解っているはずなのに、認められなかった自分…。

向き合う事を自ら放棄して、放棄してから後悔する自分……。



ねぇ神…神の言っていた事が今やっと解ったよ…。

初めて神と出会った時に言われた言葉の意味が……。


『聖人…お前は自分の気持ちを両親に伝えたか? 聖人というヒトを理解してもらったか?』


あの時、神が何を言いたいのか全然解らなかった…。

オレはガキだったから、神の言っている意味を対して理解もせずに言葉を発していた……。


『でも、今更話すことなんか出来ない…それにオレの事に興味ないんだよ…二人共…だからいいんだ…。』

『…はぁ…ならまともに学校行ってとりあえず卒業して来い…そしたら俺が拾ってやるよ…中坊には興味ねぇんだ…。』


あの溜息は意味を理解しないで現実から逃げているオレに呆れていたんだ…。


オレさ、解った気がする…。

成長っていうもの、生きるっていう事……。

それってさ、独りじゃ出来ないんだよな……。

誰かと競争したりしたり、認め合って自分を高めて、今ある時間とか起きた出来事に対して何かを感じとって生きていく………。



「そんな当たり前な事が出来なかったんだ………。」




ねぇ…神…今からでも間に合うかな?

オレでも……やり直せるかな?




「ねぇ、神?」

「なんだ、聖人」

「オレさ、もうガキじゃないから。」

「あ? どうしたんだ、イキナリ…。」

「解った気がするんだ…オレの生き方が…。」

「…生き方?」

「オレさ、生まれた時から不幸全部背負って生きてるって感じがした……。」



オレが世界一不幸なヒトなんだって思ってた………。



「でも違った…ちゃんと支えてくれる人や、神みたいにオレに好意を寄せてくれる人もいた……。」


そう、オレは………。


「オレは独りじゃなかった……。」

「やっと気付いたな……そうさせたのは俺の責任でもあるが、聖人が自分で気付いてくれて良かったと思う…。」

「神…オレさ…やり直せるよな?」

「あぁ…一から始めよう…やりたかった事、したい事全部やろう。」

「…神も一緒に…?」

「あぁ…一緒に……。」




オレの想いが永久に変わる事のない様に……――。



聖人の成長を見る事が出来て良かった…。

正直、このまま成長もないまま聖人を死なせたくはなかった…。

実際、聖人は直前まで気付かなかった…でも…。


『オレは、独りじゃなかった…。』



この台詞で俺は安心した……。

だから誓おう、聖人への永久の愛を……。



なぁ、神?


あ?


オレさ、神を連れて行きたい所があるんだ…。


へぇ…何処へ?


……オレん家…。


…随分なお誘いだな。


だって…父さんと母さんが家に連れて来いって…。


じゃあ、挨拶しねぇとな「息子さんを下さい」って。


なんか…頑固親父に娘の結婚を許してもらいに行く男みたいな構図じゃね?


じゃあ聖人が娘役だな、ははっ笑える。


何だソレ? 最悪なんだけど…。


だって言えないだろ? 食っちゃったんで責任持って引き取りますね? なんてさ。


っ当たり前だ!!






――――今、アナタの世界に色はついていますか?

ちょっと前までモノクロの世界だったオレだけど、ちゃんと色がつきました

もし、オレみたいに世界がモノクロに見えるのなら…諦めないで下さい

振り向いたらちゃんと傍にいてくれるヒトが必ずいるから…

オレは…やっとヒトの情を知りました………愛情を――――――。



                                  fin

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